05
それから訓練が始まった。
あたしにはゼロのように魔力を見る眼はないけど、魔力を安定させる才能はあ ったらしく思ったよりもうまくいっていた。
「俺の場合は桁違いの魔力で覇力 を無理矢理押さえつけて、正常を保ってる。お前の場合はとにかく乱れねぇな。 バランスがいい」
「それなら、堕ちるのが進むにつれてバランスは崩れるってことでしょ」
「まぁそうなんだが。 そこまで精神が安定してたら、ティナ堕ちも進みずらいだろうよ。 よく言えば魔力が安定してティナ堕ちしない。 悪く言えばとにかく冷淡」
「うるさいよ」
ゼロの最初の訓練は、生き物を殺すことだった。
目の前で開かれたウサギに鳥にイノシシ。 あたしは特になんというわけでもなく、綺麗な解体作業を眺めてみた。
「………」
「なに?」
「ティナはとにかく殺したがるから、動物の生死にも多少反応するんだがな。 なんともねぇのかよ」
「おいしく食べようって思ってた」
「......狐だからか?」
それから自分でもやらされたけど、特に抵抗はなかった。 昔から家の手伝いで動物を捌いたりもするし、職業柄人の生死に触れたこともある。 そのせいかもしれない。
ただ前より、食欲は出たかも。
「魔力の乱れ、いっさいなしか。 人殺したことあるか?」
「ないよ。遺体なら、結構見たことある」
「乱れたときに対処できてこその訓練なんだけどなぁ。 お前が乱れる理由が人間らしすぎて、ティナ関係ねぇんだよなぁ」
「どういうこと?」
「人間の感情がブレて荒れるだけで、ティナに支配されて乱れたわけじゃねぇってこと。力さえ扱えればなんとかなるかもな」
「あたし、あんたみたいに姿戻したりできたらうれしいんだけど」
「それは無理。 俺みたいな奴に会ったこともねぇし、魔力も見えないなら調整なんて不可能だろ。俺の場合は、破壊の性質でティナの力を壊してる面もあるし…」
「どんなかんじなの? 回復に力使ったり、 翼に力使ったり無くしたりすんの」
「あー……。 胡椒少々塩少々ってかんじ?」
「…?」
「俺からすれば何でできねぇのかも、何でできなくて平気なのかも理解できねぇよ」
ゼロが言うには、力を使うこと全てにおいて魔力と覇力が使われていて、その 比率が決まっているらしい。 炎を使うと、このくらいの魔力と覇力が使われるとか。 だから、その比率を倍にして破壊に力を注いだり、 回復に専念したりするらし い。
理解不能。
魔力を放つのも、その強弱も、魔法の感覚で理解できるけど、体のどこかに魔力を注ぐという感覚がわからん。
「あたしもできたら便利なのに。 尻尾邪魔だし、 怪我したときにすぐ回復したらどんだけいいか・・・」
「便利どころじゃなくて、俺はそうしねぇと死ぬんだって。 ほっとけば永遠に力使いすぎるから、使い終わったら破壊しとかねぇと…..。
どんだけ燃費悪いと思ってんだよ。 俺の力全般」
「でもあんたがやってることって、腕を怪我したからって足の回復力捨てて、腕 にその分回したりするのと一緒でしょ。 燃費とか関係ないじゃん」
「わかってるじゃねぇか。足に流れる魔力を止めて、その分手に流して、回復早めるために一時的に覇力を多めにして、後からティナ堕ちしないように魔力を大量に流して、要らねぇものは破壊するんだよ」
「……は?」
魔力は体に一定に流れてるんだから止めれないでしょ。
「……… まぁ。 俺常識壊れてるし」
「なにそれ」
それから数日家で一緒に暮らし、 夜の間は力を使い、昼は話をした。
ティナの影響で記憶がないこと、 罪人になった経緯すら知らないこと、誰も信用できずに暴れまわったこと、 そして銀と呼ばれる連合の当主に会ったこと。
いろいろと教えてくれた。
「・・・じゃあ、ゼロはティナ持ちになった理由もわからないんだ」
「まぁな。 お前は?」
「あたしは、たぶん...。 色々と強く想ってたんだよ。 まとめちゃうと…何もか もうまくいかないのが嫌だ。 うまくいけばいいのに……かなぁ」
「ティナ持ちになって解決するどころか、 もっと泥沼に落ちれば世話ねぇな」
「目的がないのも辛そうだね。 そんなもの背負うほど強い想いだったんだろうに」
「別に。記憶がないのが一番つらい。 辛いというか辛かった」
力を使うことに関してはスパルタだった。
息切れしても走らされたり、ジャンプさせられたり、炎や幻も使った。
それを毎日ぎりぎりまでだ。
どこまで正常の範囲内でできるかを覚えろと言われたが、覚える前に疲れて頭なんか働かない。やばい時には止めてくれると言ってたが、ストップがかかる ことは一度もなく、挙句勝手に寝てたりもした。
ずっと立ったまま、座ったまま、寝ころんだまま……そんなこともあって相当 しんどくイライラもしたけど、ゼロはそれでもストップと言わなかった。
なにより難しかったのが、 加減だ。
炎を使うのも幻影を使うのも、ONとOFF じゃなくて、強弱がつけれないといけない。 炎を使う感覚は、魔法と同じかんじでなんとかなってたけど、 幻影の強弱は程度が理解できなかった。
数をこなして、なんとかできるようになったけど………ゼロの言う塩少々 なかんじで人に説明できるほどの練度はない。そんなものなのかもしれないけど。
「ま、ティナってのは魔法と違って、それぞれが唯一だ。やり方がわかるのも当人だけだろうよ」
とのこと。
ちなみにゼロは人のことを信用しないといえど、ご飯も食べるし、昼間は家の中に引きこもって、医術の本を読み漁っていた。
ティナ持ちの体に、なぜ医療の知識が必要なのかわからなかったけど、父さんから色々話も聞いていたらしい。
母さんからは料理を習ったみたいで、いざ作ろうとすると、台所が吹き飛んだときは正直笑えた。父さんは怒ってた。
今思えば、あの頃のゼロは大人びてはいても、
「よし、じゃ終わり」
「へ?」
「最終試験だ」
ゼロは楽しそうに口をゆがめた。
出し惜しみなく力を使って、 それで、どうなるか。 ゼロとの模擬戦だ。
「お前の力は炎やら幻影やら幅が広い。 俺みたいな破壊のみじゃねぇなら、もっとあるかもしれない。
それは頭で考えて浮かぶことじゃねえ。 だから、模擬戦。 俺を殺しに来い」
月のない真夜中。 ゼロとの本気の戦いは始まった。