04
「話が違う!娘を救ってほしいと私たちは依頼したはずだ!」
「救うってのが、殺すことか壊すことか生かすことか。 どれをとるのかは俺の判断だ」
「ティナの力を使えばティナ堕ちが進む! その力を何故使わせたんだ!」
「それもそれで必要なんだよ。 生かすなら、 な。 殺すならいらねぇんだけど。
いいからその銃置けよ、ガリ医者。 家にいれろ」
「というか何故!闇の帝王だろ、君は!!」
「ティナ関連の処理が俺しかできねぇからだよ。いい加減にしねぇとその銃へし折るぞ」
「というか君そんなに若いのか!!!」
「いいから置けって言ってんだよ!!」
というやり取りを最後に、宙をぐるぐると回る銃。 それが、ぼんやりとした目に映った景色だった。
なんだろ。この脱力感。 魔力使いすぎたのか。
「いいか。俺が殺すのは、ティナ堕ちしてるやつと、ティナに抗えないと判断した奴だ。 死にたいだとか、殺して欲しいって言うなら、手を貸すこともあるが、敵じゃねぇ限りは基本、破壊すつもりはない」
「じゃ、なんで娘に力を使わせた?」
「これからも生きていくなら何ができるかできないか。 暴走しないためにどうするか。 人間が力加滅を覚えるみたいに、ティナも知る必要がある。
お前らのせいだぞ。甘やかしやがって。 鳥を籠で飼ってるんじゃねぇんだ。 何もしない、何も知らないまま、生きていける程甘くねぇんだよ」
押し黙る父さんと、心配そうな顔をしたままの母さん。 動こうと思ったけど、うまくいかない。
というか、家の中ですらなくて外か。
家に入る前に、父さんたちが立ちふさがっていて、あたしはこの男に抱きかかえられてるらしい。
「~~~っつつつつつつつつつつつっっ!」
「おい、 暴れんなって。 魔力使いすぎてんだからじっとしてろ」
「は!放して!」
「娘を放せええええええ!」
「お前はまた銃を構えるなって…….」
「と! 父さん!?大丈夫だから銃はやめて!」
「嫌がってるだろおおおおおおおおおおおお!!」
「どーせ俺が放して地面に落としたら、お前キレるんだろうが…」
そんなこんなでちゃんと話しをすることになった。
家に入ったものの、あたしは座ることさえできなくて傍のソファーに転がされた。
父さんはまだ銃を手放さないし、母さんはお茶をだした後は、あたしの近くで震えている。
余裕な表情をする男、闇の帝王ゼロだけは、机に足を投げ出して悠々とお茶を飲んでいた。
「いいな。 ゼ口くん。 私は娘を助けるために銀の連合に依頼した。 報酬先んじてお渡しした。それで間違いないね?」
「ああ」
「嫌がる娘を抱き抱えたのも!その一巻ということで!いいんだね!!?」
「….…根に持つなよ、おっさん」
父さんは非力で頭しかよくないけど、こういうよくわからない強さがある。
実際、母さんよりひょろいんだし、 そうじゃなくても、闇の帝王なんかに勝てる見込みはないのに。
「さっきも言ったが、俺自身が破壊する方を選ぶのはティナ堕ちが見えたときだけだ。 こいつは見るからに安定してる。 俺よりもな。 だから俺には殺す選択肢は今のとこはない」
ちらりと赤い眼がこちらを向いた。
「敵になるなら別だがな」
なるわけないだろ。
「で、生きる方を選ぶなら、この先も長生きしてもらわないと困る。 それが俺にとってのメリットだしな」
「メリットとはなんだね?」
「知っての通り俺には敵が多い。 面倒なティナ持ちの敵をこれ以上多くしたくねぇ。だから、敵にならないティナは俺にとっては貴重なんだよ」
「成程・・・。君の理屈はわかった。
だが、長生きすることを望むなら、力を使わないで済むのが一番だろう。私は間違っているのか?」
「それも間違いじゃねぇけど、ティナってのはそう単純じゃない。 どうやっても人間を殺したい衝動があるし、 感情がある以上、勝手に心理的にブレて崩れる時もある。
ただ生きていてほしいなら、植物人間状態にしとけばいい話だ。 そうしたいわけじゃねぇだろ?」
「……もちろんだ」
「だから理想は、力を使っても変化のない状態を保つことだ。
一切ブレないでいること。 衝動に駆られようが、死にかけようが、 目の前で誰かが殺されようが、だ。
お前らがやってた、無知のまま死ぬまでやり過ごすことも間違いじゃねぇだろうが、何かあった時には抵抗することもなく堕ちて、 死ぬまで暴れるが、周りを殺し尽くして終わるぞ」
さっきみたいに制御できずにな、とゼロは続けた。
目線は父さんからこちらへ向いている。
「あとは、 お前が決めろ」
刃物を思わせるような鋭い眼。
同じ年くらいのそれに負けたくなくて、あたしは弱った体で必死に 睨みつけた。
「ティナを持った時点で、周りを殺す危険はある。 普通の死に方はできない。挙句生きていても、ずっとティナに抗う人生になる。それを踏まえて、どうするかはお前次第だ」
生きていれば、誰かを殺すかもしれない。
生きていても、 苦しいことばかりかもしれない。
それなら死んでおこう…というのも理解できる。
でも、あたしは・・・・。
「何もしないのも、 できないのも、するのをやめるのも、もう嫌だ」
あたしの言葉にゼロはにやりと笑った。