01
「リオ、 どうしたの?」
「ん。 あの海洋生物が嫌いなだけ」
海洋生物とは……。
いや、 誰かはわかるけど言い方ひどいね。
「イーリスはカリタって知ってる?」
「………?」
「だよね。 ティナ持ちくらいしか知る機会もないし、言いふらすものでもないしね」
そう続けて、リオはカリタというものを教えてくれた。 普通の麻薬じゃ身体能力に長けたティナ持ちには効かない。 だからってティナ持ちにしか効かない麻薬があるとは思わなかった。
「あの骨なし、そのカリタの匂いがする。 それにあたし達のことを騙す気満々だし」
「そうなの!?」
「まぁ……。 カリタにハマるのもわからなくはないけどさ。 ティナ持ちって、結局ティナ堕ちするまで楽しく生きましょうっていう人生だし」
「……」
そうかもしれない。
誰かに看取られて穏やかに死ぬ。 そんなことがティナ持ちには起こりえない。 それどころか、死ぬまでいつ堕ちるかっていう恐怖と、ティナに呑まれる感覚を味わうことになる。
それなら快楽で埋め尽くして、 それで死ぬのが早くなったとしても、結局ティナ堕ちするんだからいいや! っていうのも……。
うん。 わからなくは、ない。
「けど気持ち悪いから嫌い」
なんとハッキリした人でしょうか。
「正直リオってさ。 ティナ持ちの中でも相当落ち着いてるよね? ルナはあれだし、ゼロさんもあんなだし……」
いい意味でもぶっ壊れてるルナとティナ堕ちしないように耐えてるゼロさんと は違う気がする。 なんというか、 平常なんだよね。
「あたしはそんなに戦ってこなかったし、魔力自体も結構あるみたいだから、安定して見えるかもしれないけど。 でも一応あるよ? 人間殺したいだとか、 ティ チに呑まれそうな感覚ってやつ」
「そう見えない」
「時々物凄い調子悪くなる。 でも、ゼロがいるからさ。 暴れだしそうでも止めてくれるし、堕ちるってなったらやってくれるでしょ」
「……」
「ティナ堕ちしたとしても助けてくれるってわかってるから、 あたしは安定してるんだよ。 たぶん」
すごいなぁ。 助けてくれる、か。 そう思えるって、ほんと凄いなぁ。
「そういえばリオって、どうしてティナ持ちになったの?」
「えっと・・・。 言ってなかったっけ?」
「うん。というか聞いちゃいけない系だと思っていました。 ルナのもよく知らない」
「じゃなんで聞くのさ」
「…………なんとなく? 嫌なら聞かないよ」
「いや、別にいいけど。 ただ言いふらさないでよ」
「うん。 ルナには絶対言わない」
美人なリオは優しく笑った。 そして適当な瓦礫の上に腰かけ、 きれいな金色の尾を揺らす。
「そんな面白い話でもないんだけど…。 あたしには姉がいたんだよ」
わたしも隣に座る。
水筒にいれた温かいスープを手渡すと、 リオの昔話がはじまった。