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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第二章 外の世界
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生まれてからどうやって生きてきたのかなんて、そんなのよくわからない。物心ついたときには、隣にウラガとシルクがいた。


わたしたちはティナ持ちのオトナの派閥に入っていた。アガドは犯罪者と犯罪者の血縁しかいない場所。オトナも子供も一人で生きるにはつらい。自然と多数のチームができていた。


でも、そこにいるのは罪人。だいたいは暴力で支配している。

わたしの居たところもそうだった。


食事を寄越せ。出さなきゃ弱いやつから順に食ってやる。


それが当たり前の世界だ。


欲にまみれたオトナはネズミや苔じゃ満足しない。口にするのは人の肉だ。


次はお前だからな。イーリス。


その言葉を何度投げ掛けられ、何度その寸前までいったかは計り知れない。人の肉を噛み切るために削られて尖った歯に、人の皮で作られた服。これが、わたしの知るオトナだった。


わたしは体が小さくて、取り柄は手先が器用なことくらい。それでもやってこれたのは二人がいたからだ。


オトナが脅してきたら、いつも二人はわたしの前に立ってくれた。





「……わからねぇな」


「ん?」


「その二人。危険を犯してまで何でお前を助けたかったのか。わからねぇ」


「わたしも聞いたことあったよ?二人に。そしたら、家族だからって言われた」


「違うんだろ?」


「うん。一ミリも似てないし、血縁だとしてもどっちが上のお兄ちゃんかも謎」



家族だという二人に甘えて、わたしたちはギリギリで生き続けた。戦闘力の高いウラガと、頭のいいシルク。二人はオトナにも負けてない力があった。



「頭はともかく力は無理だろ。ガキなんだから」


「もー、すぐ口出しするー。ウラガはね、力も強かったけど、なにより凶暴だったの」


「凶暴?」


「うん。死んでも殺すってかんじ?実際、ウラガを怖がるオトナはたくさんいたし、ボスだってウラガを本気で怒らせるようなことはしなかった。シルクもいるしね」



シルクはあり得ないくらい頭がよかった。まともに教えてもらえたはずがないのに読み書きができて、只のごみから外の情報まで身に付けていった。

次第によくわからないモノを作るようになって、食べ物を冷やすものとか、水を固めるものとか、物同士がくっつく液とか。シルクがいるおかげでチームの生活は他よりも豊かだったと思う。

戦闘能力に関してはそんなにだったけど、妙な薬とか毒とか道具はいっぱいで、死ぬより怖い目に遭わせることだって可能だと、にっこりと笑ってた。



「でも、そのチームは終わった。あっという間に」



イーリス。お前、よくここまで生きたなぁ。



今でも震える、あの言葉。ティナ持ちが怖くなった始まりのことだ。


あれは、ある日わたしを一人呼びつけた。ちょうどウラガは食料を取りに行って、シルクは住まいをもっと良くするように頭を捻ってた時だ。


年は13。

たった、2年ほど前のことだ。


あれは、わたしを自室に呼び出し力で押さえつけてきた。ウラガたちのこともあって、手を出してくることがまったくなくなった頃だ。


わたしは抗った。でも、相手はピクリとも動かず、やがて周りには他のチームメンバーが集まってきていた。



なんで、おまえを生かしてきたと思う?

あの二人がなんでおまえを守るかわかるか?


ギザギザの歯をベロリと嘗めながら、あれはわたしの服をむしり取りながら言った。



おまえが女だからだ。



オトナは、嗤った。



女は欲を埋める袋だ。


女は肉を作る道具だ。



そう言って嗤った。


助けが来ないのもわかってたけど、それでも必死に叫び続けた。



「そしたらね、ウラガがきたの。すっごい遠くにいたのに駆けつけてくれてね」



ウラガは暴れた。誰の言葉も聞かずに、暴れまくった。


そこに体の大きさも力の違いもなくて、腕が折れても相手を殴り倒し、腹が噛みちぎられても首を折りに行った。

そして、死んでるか意識がなくなるくらいボコボコにして、残ったのはティナ持ちのリーダーと、ウラガのみ。



「ぼろぼろだったよ。血だらけで、腕の向きも可笑しくなって、使ってた鉄棒はとっくに折れてたし、まっすぐ立てないくらいフラフラだった。でも、ウラガは凶暴だから。そんなこと関係ないって笑ってた」



とどめをさしたウラガの攻撃はむちゃくちゃで。

相手に首をとられてミシミシと音がなってる最中に、噛みちぎられた自分の腹からむき出しになった肋骨をへし折って、それをあれの喉へ突き刺したのだ。



「そして、わたしたちは後ろ楯を失ったけど、3人で頑張って生きてきたんだ。外に出ることを目標にね。大変だったけど、息苦しくはなかったなぁ」


「………」


「…やっぱり、アガド生まれは、気持ち悪い?」


「……」


「わたしだって、きっと人の肉を食べた親から生まれてきたんだから、そう考えると気持ち悪いんだ。わたしたちは……絶対に食べなかったけど…」


「……」


「何か言ってよ、ゼロさん」


「………お前」



ゼロさんは火のついていないタバコを咥えたまま初めてこちらを見た。



「それで15かよ!!」


「そこ!??」



話の大半聞いてないんじゃない!?



「ガキが頑張ったかなんてどーでもいいんだよ。んなことより、それで15かよ!3年したら成人じゃねぇか!」



ウラガくん。この方、あなたの頑張りをどうでもいいと流しちゃいましたよ。



「だから核も……あー、なるほどねぇ」



なんか勝手に納得してるし!



「ひ、人の事ばっかで、ゼロさんはどうなのさ!」


「俺?」


「年だよ!年!」


「二十歳くらいじゃね?」


「嘘!?」



20なんてとっくに過ぎた風格出てるよ!



「そこらのガキどもとは経験値が違ぇんだよ。1日8時間寝てられる奴らと一緒なわけねぇだろ」


「というか、くらいって何??わたしでも年くらい数えてるよ」


「うっせぇな!クソガキが」



ゼロさんは始めからそうだ。わたしのことを気持ち悪がったりはしない。


アガドに入りたての人に何度も会ったことがある。どの人も、気持ち悪い、怖いばかりで、人間扱いなんて誰もしたりはしなかった。


だから、ゼロさんだけだ。


ゼロさんだけはいい意味でも悪い意味でも特別扱いなんてしない。最初からただのクソガキ、だ。



「にしても、いいのかよ。家族なんだろ?」



ゼロさんはやっと、煙草に火をつけながら言った。



「アガド牢獄はあと2年もかからずにリセットされる。中の奴はゴミごと海に流されて消されるぞ」



楽しくて嬉しくて、舞い上がっていたわたしの心に冷たい水が満ちる。全身に痺れるような寒気が走り、息がつまった。



「…………え?」



呼吸もままならないわたしができたのは、そんな小さな返事だけだった。




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