04
「あ"!?俺そんなに寝てたのか」
ゼロさんは珍しく驚いた声をあげた。
それを見て、銀さんが無言で頷く。
ゼロさんの手にはお酒、口元には煙草、目の前には数々の料理。
すべて我が作品たちだ。
「…不用心すぎだろ!」
その感想が出てくるとは、どこまでもゼロさんらしい。
「体のメンテナンスはしてある。筋力的の衰えはあっても栄養不足には陥ってないはずだ」
「あー、そうか…3か月か…」
ゼロさんの首がばっきばっきと音をたてる。
そして煙草を咥えたまま立ち上がったかと思うと、目にも留まらぬ速さで空中にパンチとキックを行う。
なぜ何も殴ってないのにパンっていってるの?何が音を鳴らしてるの?
「……こんなに抜けた体は初めてだな。3ヶ月も動いてないとこうなるのか…」
それで力抜けているんですか。
「…抜けているか?むしろ前より調子がよく見えるぞ」
銀さんもわからないとは!
「力が抜けたからいいこともあるんだよ」
ゼロさんはまた着席して酒を煽る。
今日は良く食べるし良く飲む。寝ていた期間分を補おうとしているみたいだ。
ちなみにルナやリオ、クガネには知らせていない。みんな今はルナティクスで待機中だ。
うるせぇのがいたら話にならないから、とのこと。
本当はわたしも邪魔ならしいんだけど、酒と料理とたばこで頼み込んだ。
ほんと、器用で良かったよ。わたし。
「で、俺に何をした?白蛇」
「……」
そう。シルバだ。
さっきから、というか試練を受けさせてから浮かない顔をしている。
悩みまくってる感じだ。
「…まず、試練でドラゴンが出てくるなぞありえん。なぜ滅んだ一族が…」
「知るかよ、あんな翼つきトカゲ。全然強くなかったし」
「そして、貴様は何と戦った?」
「何って、俺だったが?」
「……そのようなこと、今までに一度たりともない」
ゼロさんがわかりやすくため息をつく。
「人間にやらせたのも初めてなんだろうが。しかも魔力が暴走しているわけでもねぇやつに。その時点で予想外のことが起きてもおかしくねぇだろ」
「…まぁそうじゃな」
「というか、そんな意味不明なものに突っ込むな」
「突っ込んだのは銀龍」
「……おい、銀」
「結果よければ問題なし」
「殺す気か?」
「あの程度で死ぬなら、その前にいくらでも死んでる」
「あの程度も何も、お前何も知らずにやったんだろうが」
「とは言えど、お前もあの日死ぬつもりだったのだろう。ならば以後何が起きても文句を言うな」
「死んだとは思ったが、改めて殺されそうな羽目になるとも思ってねぇよ」
わー…久しぶりだな。この二人の会話。
どっちも引かず負けずでガチガチにぶつかるかんじ。
なんか、いいなあ。ぐすっ。
「それよりも実のある話をしろ。あの日お前が見たもの、聴いたもの、そして今に至るまで何があったか。記憶にある限り全て話せ」
会話をぐるりと変えていく銀さん。確かにあの日起きたこと…アガドでの出来事の方が重要度が高い。
それももちろんのこと理解しているゼロさんは、一度天を仰いで、ぽつぽつと話し始めた。
殺しまくったこと、情報を探ったこと、その情報のすべて。
シルクに会ったこと、説明できない感覚に陥ったこと、わたしたちが人質になったこと。
銀さんの予測を聞いていたから、ゼロさんがシルクに会ったことは想像できていた。
シルクに会ったからあんな行動をしたんだって、銀さんは言っていたし。
「待て。説明できない感覚とはどういうことだ」
「知るかよ。目の前の青ガキのことを何も知らねぇのに、殺したいんじゃなくて殺さないといけないって、なんか勝手に思うけど…。体がうまく動かないっつーか…。初めての感覚だったな」
「本能的な危険信号か?」
「どうだろうな。まぁ青ガキは魔法陣をびっちり書いた本と、それを発動させるための杖を持ってて、本人は魔法において天才だとかどうとか…。まぁなんか自慢してたぞ、あいつ」
そしてシルクの情報をゼロさんは語る。
身長140センチ程度の子供、恐らくゼロさんの知り合い、双子の兄がいて自分が殺したらしい。
魔法の天才、研究者、アビスシードの研究をしていた、何らかの要因があって子供の姿をしていて、魔力がない…そんなかんじだった。
「あと、お前のことは悪くは言ってなかったぞ。むしろまだ欲しがってた。ウラガとかいう奴に関しては知らんけどよ」
欲しがってた。うん、そうだよね。そういう、言い方になるよね。
「で、お前が魔法が効かないだとかそういうのもたぶんわかってない。
"アビスシードは失敗だった"らしいからな。お前みたいなやつが1人でもいるなら、失敗ではないだろ。
なら、知られてない可能性が高いとなれば、お前という一個人が欲しかったんだろうな」
そんなこと言われても、困る。揺らいだりはしないけど、困るものは困る。
わたしにとってシルクは、もう、違う。
「それでそいつの目的は?」
銀さんは冷淡だ。
「俺の記憶だとよ」
………うわぁお。
と、いうことは、ゼロさんの記憶がないってこともわかってないのか。
「記憶というか、その兄がやってた研究成果が俺の頭にあるらしい。それを寄越せって拷問にかけられて…。あいつら下手くそだから死にかけた」
「他にあるだろう」
銀さんの目が険しい。
「お前が、なぜシルクを殺していない?何らかの要因で殺さなければならないと認識してなお、何故殺したとお前は言わない?」
「殺せなかった」
「何だと?」
ゼロさんがふいっと目を逸らし、物凄く嫌そうに煙草を吸う。
「殺そうとしたら体が勝手に止まった。で、何故か俺が死にかけた。
理由は聞くなよ。俺にも分からねぇんだから」
ゼロさんは嘲笑を浮かべる。
そして、少し悔しそうだ。
「だから、あくまで建物を破壊した。ついでにそいつが死ぬことを祈ってな。で、そのまたついでに、溺れかけてる馬鹿3人が助かればいいと思った。
どうせ俺は助かる道はなかったし、生き残ったところで殺せもしないガキに良いように使われるだけだ。
それだけは、絶対に許せなかったからな」
だから生命維持に必要な、最後の魔力も使ったとゼロさんは続けた。
あのどろどろとした、恨みの塊のような闇の意味も分かった気がする。
只では死なないを体現したような、そんなかんじだったんだろう。
「それで俺は何で助かった?」
そこからは銀さんが説明を始める。
仮面の人ルークのことを話し、忠告された通りに追うなということもそのまま伝えた。
ゼロさんは予想通りだったのか、小さく舌打ちして当然のように否定する。
「今更後に退けるかよ」
そう吐き捨てるように言った。
情報交換を終えたのと同時に食事会も終了。
ちょうどいいからヤマトから預かった絵も渡した。
「銀、解析。場所と月日」
「わかった」
何とも流れるようにやり取りするものだ。
「それで、ゼロ。お前はこれからどうするつもりだ」
「………これまで通り、アルテマを追う。あわよくばあの仮面野郎をとっ捕まえて全部吐かせる」
「そうか。では、私はシルクという者を探ろう。本名も、その者の身に起きた状況も実際何も把握していないからな」
「いいのかよ。殺されるぞ?」
「無知をそのまま放置する危険性は高い」
ゼロさんらしいし、銀さんらしい。
簡単に道を決めてもうその方向に向かっている。
いつまでも、くよくよしているのはわたしくらいだ。
「イリス」
「ふぁい?!」
なんか久々に呼ばれた!あ、なんか泣きそう。
「お前はウラガってやつを追え」
「………え?」
「そいつが青ガキの情報を持ってる。俺のためにも銀のためにもなる。ついでにお前のためにもなるだろ」
「ちょ、でもウラガは死んじゃったんだって…。生きてる可能性があるってルークさんは言ったけど、それも本当かどうか…」
「死んだならいつ死んで、どうやって死んで、何を言い残して死んだかを調べろ」
……いや、その場所をあなたが粉々にしたんじゃないか。
調べるにしても、知ってるとしたらシルクか牢獄にいたオトナたちなんだけど。
「じゃねぇとお前も納得できねぇだろうが」
「…うん」
そうだ。
周りに何を言われたって、どこか納得できないんだ。
だってウラガだから。あのウラガだから。
わたしにとっては誰よりも強いと思う一人だ。
それに約束したんだ。絶対に会うんだって。
「ゼロさん。わたし、やってみるよ」
「ああ、情報提供よろしく」
「それで…どうやったらいいの?」
ゼロさんはぷいっと背を向けて歩き出す。
……え。ちょっとまって。調べごとのノウハウはないよ?
わたしは器用であることを言い殊に作業関係しかしてないのも知ってるよね。
え?そこで投げ出しちゃうの。このめんどくさがりやさんは。
「ちょ、ゼロさん待って!教えて!というか協力して!」
追いかけたら逃げられた。
ああ、もう。
あんなに迷って曇ってどうしていいかわからなくて、悩んで悲しくて心配でしょうがなかったのに、今はもう追いかけることしか考えられじゃないか。
「ゼロさん!待ってよ!」
目を覚ましたゼロさんは、長い間ずっと翳っていたわたしを一瞬で壊してしまったのだった。
これでアガド攻略編は終わりです
長らくお付き合いいただき、ありがとうございました✩
そして今度こそ本当に暫くお休みします!
修正作業と他作品の更新を頑張らねば!笑
また来年にでもお会いしましょう!
その前に更新するかもだけども!