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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第二章 外の世界
17/339

09




「これからどうするか、だったな」



ゼロさんは咥えタバコて、すっかり乾いたシャツを着る。わたしの服もパリッと乾いていた。



「まずは街だ。物資を揃える」


「なにか必要なの?」


「色々とな。俺一人なら空をいけばすぐなんだが、お前もとなると行き先まで馬鹿みてぇな時間がかかる。それに、食っとかねぇと体力ももたねぇだろ」



体力には自信がある。こちとらアガド出身だ。


でも、それを知ってるゼロさんに言われると何も言えない。



「抱えて飛んでくれてもいいよ?」


「嫌だ」



楽な提案は即座に却下。



「そろそろキツイんだよ、俺も」


「え?どこか悪いの?」


「いや、疲れた。寝ねぇと効率が悪い」



いくぞ、と顎で促すゼロさんを走って追いかける。

どう見ても疲れているようには見えないけど、本当はつらいのかもしれない。



「どのくらい寝てないの?」


「あー、5日くらいか」


「5日!?」



5日といえば、一ヶ月の6分の1なんですけども!?



「軍に、賞金稼ぎに、国に教会に組合に。俺の敵は腐るほどいるからな。寝る暇がない」


「あう……」



よくわかんないけど多い……。



「そんな状態でどうしてアガドにきたの?そんな仕事しなければいいのに」



来てくれたおかげで助かったわたしが言うのもなんだけども。




「仕事をする代わりに抑えてもらってんだよ。アガドの調査は南からの依頼だ。仲介はさんで俺に回ってきたんだ」



………?



「それで南の兵隊とギルドの連中が来なくなるから………って、まぁどーせわかんねぇだろうから難しいこと考えんな」


「そうします」



国がいくつかあるのは知ってる。


貴族の住む中央、温厚な人が多い南、その逆の北、技術の発展した西と東。どこも対立はしてなくても仲が良いわけでもなく、とくに南と北の仲の悪さは有名な話だ。なぜかは知らない。たぶん国柄だ。


それでも戦争にならないのは、すべてを取り仕切ってるのが中央だからだ。あそこには世界政府という国を統括する組織と、武力として軍がある。お金という力も貴族だらけの国だから、どこの国よりも強い。アガドにいても知ってるくらいの常識だ。



「南の国ってなんていうの?」



国名も常識だろうけど、そこのとこはシルクも教えてくれなかった。



「南はフルフハンド、北がアガドルーク、西がサスペリア、東がリクト。略してフルフ、アガド、ぺリアにリクだな。中央はセントラル」



ふーむ。覚えにくい!



「まぁ東やら西で十分通じるからいいんだよ、そんなの。お前は別に覚えることがあるだろ」


「ん?何があるの?」


「一般常識」


「………はい」



国名も常識なんだろうけど、ゼロさんが言いたいことがそれとは違うのはわかる。これはなに?あれはなに?……がずっと続くわけにもいかないからね。



「そのための街だ。見て知るものもあるだろ」


「うん!」



道のりは遠い。本当に遠かった。


アガドでは平らな床しかないからなんとも思わなかったけど、上りや下りに滑りやすい道を歩くのは思ったよりも体力を使った。布で巻いた足に刺さる小枝に、急なぬかるみ。小石は転がり、終わったと思ったら急な上り坂。


それに夜だ。どうしても視界が悪い。それがなおのこと体力を浪費した。せっかくお風呂にはいったのに、体は汗でベットリ。


ゼロさんはというと。


いやはや、さすがです。汗ひとつかかず、体勢がぶれることもない。滑るところはそのまま滑って進んじゃうし、ぬかるみで靴を汚すこともなく、何故か急な坂も同じ速度で進んでしまう。



「ゼロさーん!」



そして、ついていけなくなってしまった。



「ちょっと、まってー!!」



川を渡ったところでにやにやと意地悪に笑うゼロさん。川は浅いけど、飛び越えられるほど狭くはないし、流れが急だから水に浸かって進むのも危ない。


ちなみにゼロさんは軽くジャンプして越えちゃった。



「溺死しかけたら助けてやるよ」


「死にそうになる前に助けてよ!」



ということで、石を渡っていくことになった。


こんな状況じゃなかったら楽しいのかもしれないけど、視界も悪い中濡れた岩を渡って落ちたら溺れるなんて状況、怖すぎて足がすくむ。いっそのこと溺れて助けてもらった方が早いのかもしれない。



「わざとやったら海まで流されるのを待つ」



心を読まないでほしい。


ゼロさんは、よく人の心を読む。なんでかって聞いたら勉強したからだそうだ。敵か敵じゃないかの判別のために必要だったらしい。勉強だけで読めるようになるのかはわからないけど、たぶんティナとか魔力を見る眼も影響しているのだと思う。


あ、ちなみにゼロさんは貴族ではなかった。あんなやつらと一緒にすんじゃねぇよって、わたしを宙吊りにするほど怒ってた。怖かったです。



「よし」



現実逃避はやめよう。


水しぶきが上がる川に、まるで抗うような小さな石。それが三つ並んでいる。その先はゼロさんのいる岸だ。両足をのせるのは無理。とん、とん、とんっていかないといけない。止まったら、たぶんダメ。



「よし!」



足を踏み出した。





「………で?まさか一歩目から滑るとは思わなかったのか?片足踏み出したら軸足がぶれるのは当たり前だろ」


「うぅ」



一歩目。岸まで、どころか、ひとつ目の石に飛び移ろうとした瞬間的、残った片足が滑った。


先のことばかりで、足元にまったく意識してなかった証拠だ。でも水浸しになる前に、ゼロさんに猫掴みされて助かった。



「そんなんで、よくアガドで生き残れたな」



ぽいっと投げられて、やっと安定した大地を確保した。



「そういうのはウラガの仕事だったの」



わたしは静かな旅路に、すこしお話をすることにした。

なんてことのない。わたしの昔話だ。




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