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ひさしぶりに見たありんこは、いつの間にやら娘らしくなって、ありんこと呼ぶには大きすぎた。
じゃが、まぁワシにとってはアリじゃ、アリ。変わらんわ。
「な、な、んで、ここ、に…?」
「喋らんでええ。お前さんが泳げんのは知っとるわい。ヴァンパイアの姉ちゃんも久しぶりじゃの。あと…耳尻尾の小僧は初めましてか。ワシはグリズリー・シャーク。まぁ熊でいいわい」
「おれ、は、くがねだ…」
うむ。3人とも相当疲弊しているのう。水の中で行動するのに慣れておらんのか。
なっとらんのー。
海はいつでも誰でも受け入れるというのに。
「どうしてそなたがここに?」
前言撤回。おまえさんは元気じゃの。
「銀の連合よ。馬鹿息子が無理やり加入したようで、ご当主さまより命が下ったんじゃ。牢獄に集まれとな。
アガドルークは、もともと無法者のたまり場じゃから、人手は随分と集まったようじゃぞ。ギルド暗殺者対自称暗殺者の戦いはなかなか見ものじゃったぞ」
ワシは別に連合に入っておらんし、来る必要はなかった。
じゃが、銀と呼ばれる当主より直接通信が届いた。
どうやってかは知らん。あの当主は意味不明じゃから。
その内容が気に入ったとうか、気になったというか。
一方的な通信の言葉はこうじゃ。
-危機に扮している。払える報酬はないが、ゼロの助けになってはくれないか-
うむうむ。若造が、とは言わんが、殊勝で簡単で素直で良い言葉じゃ。
舟ごと連れてくるわけにはいかんから、ワシは救命用の小型船でここまで来た。
まさか、こんなとんでもない事態になってるとは夢にも思わなかったがの。
「おい、こら!海賊じじい!さぼってないで人命救助しろや!」
おぉん?
「やかましいわ、軍人じじいが!満足に泳げもせん猿がキィーキィー喚くな!」
「うるせぇよ!見逃してやってるだけ喜べ!この野郎!!」
あーあー、この髭軍人。土の中に生き埋めにしてやろうか。海の藻屑にするには汚らしいからのう。
いや、このまま海底へレッツゴーでもよさそうじゃな。いいかんじに檻がいくつもあるわい。
「ジルおじさん!?」
んお?ありんこ?
「イーリスちゃんか!何でここに…って愚問だな。はやくボートに乗れ!」
「やほー、イーリス」
「シュウは救助に行けよ!潜り続けても死なねぇだろ!」
「イーリスちゃん……って後ろの超絶美女はどなたですか!?」
「お前は沈め!クソ野郎!!」
瓦礫を吹き飛ばす風使い軍人と死なないティナ持ち軍人。それをまとめる髭軍人。
まさかゼロを狙うこいつらが、ありんこの知り合いか。
ということは、ゼロもこいつらをさほど敵視しとらんのか?ようわからんのう。
「たわけ!!」
ヴァンパイアねぇちゃんが叫ぶ。
「軍人は妾の敵ぞ!誰が行くものか!それに、そこの風軍人の顔が厭らしいわ!」
どストレート直球が風軍人に刺さる。
だけど、ねぇちゃんよ。そろそろ朝日が出るぞ?大丈夫かのう。
「…そういえば、よく見ればあんたティナ持ちだよな。で、さっきヴァンパイアって言ってたし…。それってライトナイト家を潰した罪人だったような…」
髭じじいが首を傾げる。ねぇちゃん、素直に青ざめる。
うーむ。ワシも罪人組じゃし。離れてやらんといけんかの?
でも、この風の中が、今この場所において一番安全なんじゃが…。
『問題ない』
ひらりと、舞い降りたのは美しい鷹。そして只の鷹ではないことが一目でわかる。
なんじゃ、この寒気。こいつはまずいんじゃないか。
『グリズリー・シャーク。礼を言う。3人は私が預かる。人命を守るなり、ここから離れるなり、自由にしてくれ』
そして鷹は羽ばたく。
いつの間にか抱えていたはずの3人は消えていた。