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なぜ。
『時間がねぇから、手短に話す。アガド牢獄、恐れ入った。降参だ』
なぜ、奴が言葉を話している?
なぜ、アガド牢獄全域に、あの場所から通信室まで移動するなんて不可能だ。
『まぁ、それでも…俺は投了はしない。逃げるみたいで、気持ち悪い。でも、周りが言うほど、俺は全能じゃなくて、俺にできることって結構限られててな』
見張りはどうした?あれも実力者だぞ!ぼくが任せるくらいの力がある。
剣の腕も、魔法の腕も星がつくほどだ。それにぼくの術式をどうやって解いた?
鎖も特殊性だ。吸魔石だって使ってる。
誰かがいないと、あれから抜け出すことはできない。
『俺は、破壊しかできねぇ。だから盛大な幕引きとして、このアガド牢獄を破壊する』
そして、あの状態で何でそんなことができると言うんだ!
『看守ども。ご苦労だったが、解散して逃げた方がいい。
俺の付近に、俺が破壊する前に辿り着けるほど近くにいるやつはいない。
たとえ辿り着けたとして、一人二人なら即座に殺すぞ。
で、囚人ども。お前らは災難だが、ここがぶっ壊れたら、お前らは海の底だ。適当にがんばれ』
まずい。急いで戻らなければ。
あれはぼくの知らないコード:ゼロだ。
コード:ゼロは、あんなに言葉に力がない。
唱える言葉がハッタリだと一ミリも思わない。
そんな言葉を出したりはしなかった。
あれは、いったい何だ。知らない。ぼくは、アレを知らない‼
『……クソガキ』
生きているのが不思議なあの傷で、なぜここまで力強い。
喋れてることが奇跡だ。
ティナの弱点をついた。
そうじゃなくても死ねるほどやった。一言も話す体力は残してない。
生きるのが精いっぱい…心臓を動かすだけしか力は残さないようにしたはず。
『そっちはどうなってるか知らねぇが、お前の近くにいる奴らなら、海底から助けてくれるだろ。外に出て、楽しんで暮らせ』
だめだ。これ以上、こいつに話させるわけにはいかない。
急いで元の場所に戻らなければ。あの男を、封じなければ。
『お前はこの場所に縛られてるんだとよ。ある青い髪のクソガキがそう言ってた。
だろうな。お前は今日のために生きたようなもんだ。簡単に捨てろっていう方が無理がある。
捨てないといけない状況でも、そう簡単にはいかねぇだろ。俺じゃあるまいし。
だから、考えさせるのも、それを待つのもめんどくせぇし、俺が壊す。もうお前を縛るものなんてねぇよ』
「何を言ってる!やめろ!!」
扉をくぐる。
しかし、ぼくは声を発しているのに声が聞こえない。
どういう魔法だ?いや、魔法じゃない。この部屋は特殊に作った。魔法は選ばれた人間しか使えない。
「~~~~~~っっまたお前か!カーバンクル!!」
ひび割れた赤い石を光らせながら、牙をむいて睨む黒いイタチ。
赤い血が滴る体を4つ足で踏ん張って、生意気にも威嚇をしているよ。
そして、その奥には血まみれの体から黒い液体のような魔力を流しながら、男は改造された通信機を片手にニヤリと笑った。
『これが俺のやり方で、俺にできる守り方だ。じゃあな、自由に生きろ。最後の花火を存分に楽しめ』
その瞬間、男の姿は消えた。
いや、ぼくがここから消えたのだ。
ガラガラと崩れる天井、無くなっていく足場。悲鳴、悲鳴、悲鳴ーーーー。
「お前は、また…同じことをするのか!!!」
足元が砕ける。本を開き、杖を振り、対処するも間に合わない。岩が頭に直撃し、どろりと血が流れた。
どうすればいい。どうすればぼくは生き残れる。
兄さんのようになるわけにはいかない。同じことで、同じように殺されてなるものか。
「絶対に許さないぞ、闇の帝王ゼロ…必ず、必ずぼくが手に入れてやる!お前の全てを奪ってやる!死んでも許してやるもんか!!」
ぼくは埃と血で染まった汚い景色の中、人と瓦礫が堕ちるなかでそう叫んだ。