18
「くそ!なんだ、この丈夫な天井は!妾の力で…ぬぅううう!!」
水の勢いは止まることなく、ざばざばと牢獄内を満たしていく。
何人ものオトナが死にもの狂いで暴れて、壁や天井を壊そうとするけど、どこも傷しかつかない。
外につながる捨て口も、何か特殊な材質なもので閉められ、それには魔法陣が浮かんでいた。
「おれがどーんする!もういっかいだ!」
「やめよ、クガネ!この術式は反射が組んである。妾の攻撃もこの通りじゃ」
ずたずたになった手を見せるルナ。そしてぎりりと歯をかみしめた。
「水は厄介じゃ。妾の血が薄まる…。腕力でどうかなるものでもないらしい…」
「じゃ、かべをけるぞ!かべをこわそう!」
「それができたら、投獄されたティナ持ちがとっくに逃げ出しておる。海底の水圧に耐えうる強度の壁ぞ?妾たちのような力任せタイプには無理じゃ!」
「じゃ、どうするんだ!」
「わからんが、出口といえばここで、銀もここから出ろと言っておった!だからここに絞ってぶん殴るのみよ!」
わたしはぼーっとする頭で、そんな会話を眺めていた。
しばらく溺れていたからだろうとルナは言っていたけど、それだけではない気もする。
「……シルク」
シルクに会わないと。
会って、きちんと話をして確かめないと。
シルクは犯罪者だったのか、ウラガはどうなったのか、あの研究所はなんなのか、シルクは何者なのか。
何もわからない。
何もわからないけど、シルクは確かにわたしを守ってくれた大切な人だ。それは本当の話だ。
このままじゃ、進めない。
何もかも無視して無かったことにして、日常に戻るなんて、わたしにはできない。
それに、ここの蓋だって。シルクならなんとか……。
「シルクに助けてもらう」
「イーリス?そなた何を言ってる」
「シルクはほんとにすごいの。脱獄だって、ここと外を行き来することだって、全然不思議じゃないんだよ。
ウラガのことは、たぶん何かの間違いだと思うんだけど、もしかしたらシルクは外で頑張って昇進したのかも」
そう。シルクは、ほんとにすごかった。できないことはないんじゃないかっていうくらい、ほんとにすごかった。
そうだ。そう考えれば、シルクは助かるためにすごいことをし続けてるのかも。
「シルクが助けてくれる。だから、シルクと話ができる場所に行きたい。あの研究室で待とう」
頬に電流が走る。
遅れて甲高い音がして、耳が衝撃で揺れる。
じんとした痛みで、わたしはルナにぶたれたのだとわかった。
「何を言っておる!そなたは!あれを見たであろう!?それでそやつを信じるのか!」
「ルナは…ルナはシルクを知らないじゃん!勝手なこと言わないでよ!」
「知らぬ!知るわけがあるまい!だが、人間は変わる。そなたがここまで頑張って変わったのと同じでな!長い月日が経った今、そなたの知るシルクはもうここにはいない!」
ルナの手が弾ける。今度はもっと強い。唇がぷちりと裂けた。
「あれは外道だ!外道の行ったことだ!イーリス、現実から目を背けるな!逃げるなぞ、そなたらしくないぞ!」
「し、シルクは、わたしの大切な人だ!侮辱しないでよ!!」
わたしも殴り返す。ルナは避けない。ばちんと頬を叩いた手は、なぜかすごく痛かった。
「わたしは研究室でシルクを待つ!みんなはここから出たいならそうすればいいよ!」
「この…たわけ者めが!!」
激怒で赤い目を燃え上がらせるルナ。くたくたの体でわたしとルナを止めようとするクガネ。
わたしだってこんなことしたくない。みんなと一緒にいたい。
でも、シルクは裏切らないし、わたしもシルクを裏切らない。
信じるんだ。シルクは家族だ。生まれたときからずっと一緒にいる大好きな家族なんだ。
あの研究室が、もともとあるのか、わたしがいなくなってかるなのか。分からないけど、わたしの知るシルクを、信じるんだ。
『あー……これ、繋がってるか?』
そんな時に、聴きなれた声が響いた。