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この体は不便だ。
子供の体が小さいからというのもあるけど、なにせ体力がない。
ぼくのような頭のいいやつが頭を回転させると、すぐに体力切れになってしまう。
ああ、眠い。
久しぶりに大興奮したし、疲れるのもしょうがないけど。
こんな状態じゃ、あの男の前にはいられない。危険すぎる。
あれは、悪魔だしね。
それにしても、ゼロ、か。
すごいな。さすがはコード:ゼロ。ティナ持ちになっても存在感が違う。
兄さんの研究のすべてが彼にあると、それが兄さんの遺言だったけど。すべて記憶しているってほんとかなぁ。
天才は天才だろうけどさ。
兄さんの研究成果なんて、腐るほどあると思うんだけど覚えられる?普通。
ま、兄さんは嘘は言わないから本当なんだろうけど。やっぱり口を割ってもらわないといけないのか。
はー、…あのコード:ゼロ相手にできるかなぁ。
そしてイーリスだよ、イーリス。
綺麗になったねぇ。ほんとに。
ぼくのような人間でも彼女は守りたくなる。できれば死んでほしくはない。
それでも、今はコード:ゼロとの交渉のエサだ。
闇の帝王の名にはふさわしくないけど、イーリスのことを大切にしてるみたいだし。利用できるだけして、できれば殺さずに済んだらいいな。うん。
闇の帝王といえば…そう、あれは厄介だった。
コード:ゼロをコード:ゼロじゃなくしたもの。
誰が、コード:ゼロを"闇の帝王"にしたんだろうか。
彼は悪者の仮面をかぶりすぎた。だから堂々と動けたりもしたんだろうけど、なんであんなことをしたんだろうか。
あの事件が起きて、自分でそれを行ったとするなら、本当に、頭がいい。著名になりすぎてぼくも手を出しにくかった。軍が関わってくるし、ぼくが追うよりも先に軍が追う。
表に出れないぼくにとって、伝説級に有名な罪人っていうのは一番都合が悪かった。
事故を装って死んだ扱いにすること事態無理。あの闇の帝王が事故死した、なーんて誰も信じられないし、軍も引き下がってくれないし、行方不明も追われている状態では無理。
だからって超有名な人物相手に、ぼくみたいなのが簡単に声もかけられない。
あっちから干渉してくれなければ、ぼくらは一生会うことはできなかっただろう。
「ふぅ」
それにしてもすごい偶然だ。
ぼくが逃がしたイーリスが、偶然コード:ゼロと会って助かって、そのイーリスがコード:ゼロをつれて、ぼくのところに来てくれるなんて。
「…できすぎてる、かな。少し。風がこちらに向きすぎている…」
風がこちらに向いているときは、向かなくなるときの反動が大きい。
ああ、いやだな。嫌な予感がする。
「イーリスを確保しとこう。イーリスは優しいから、今のぼくが出ても許してくれる」
子供の短い足を踏み出す。廊下を駆け、ぼくは転移魔法陣の部屋へと急いだ。