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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第二章 外の世界
16/338

08




「これからどうするの?」



風呂から上がったガキは、頭から湯気をあげながら首を傾げる。濡れた体はこいつを運んできたシーツで隠れていた。


ほんと服、どうするかなぁ。



「盗むか」


「え!?」



いや、ねぇな。


俺が子供の服を盗んだなんて噂になるのも嫌だ。しかも女。あり得ねぇ。



「……ねぇねぇゼロさん。わたし服がほしい」



それを考えてんだよ。



「作っていい?」



作る?服を?



「……どうやるんだよ」


「ここに大きい布があるもん!わたしくらいなら、十分だよ!」


「………いや、服は布だけじゃ作れねぇだろ」



問題ないと言い張り、それからナイフを貸せというガキ。


とりあえずサイズのあわないナイフを渡した。できるというならやらせよう。


ちなみに作業の間は俺のシャツを被せておいた。温泉から立ち上る湯気のおかげで寒くはない。



「ふんふんふふん」



鼻歌混じりに迷わずナイフをいれていくガキ。細く切ったり、穴を通したりと、見ていても何がしたいんだかよくわからない。だが、少しずつ形になっていくのが面白かった。



「できた!!」



ガキが声をあげたのは10分程度後のこと。


できあがったのはワンピースだ。さっそくそれを着用してくるりと回って見せる。サイズを測った様子はなかったが、ぴったりならしい。



「どう?」


「いや、普通に、すげぇな」



一枚の布で作られたそれは、脇の辺りで紐を通して縛られ、その結び目は右肩上がりで大きなリボンになって隠れている。なんというか、布を筒上にするために別の布を紐がわりに使って縫い止めたってことか。

腰の辺りも結ばれており、こうして見ると穴を開けていた作業は、細く切った布を通すためのものだとわかる。

挙げ句のはてにはシーツという薄い布を使うにあたって、隠すべきとこは数枚に重ねて厚さを作っている。



「アガドではなんでも自分でできないとダメだからね。わたし、結構手先は器用なんだよ」



小さい指でブイサインを作る白いワンピース姿のガキ。体はまだ濡れているせいで、月明かりが反射して輝いている。


体を洗い、食事も睡眠もとった後の姿は、初めて見たときの印象とはだいぶ違った。


輝く桃金の髪に隠れた痩せた顔に幼さはないが、だからといって虚ろでもない。長い髪に痩せた顔つきのせいで、少し知的に見えるくらいだ。猫のような丸い目は星が入ってるのかと思うくらい眩しい。

まぁ結論として、ぼろ雑巾ではなくなったか。



「ゼロさんは作れないの?洋服」



差し出されたシャツを受けとる。まぁ案の定湿ってる。俺はそれを火の近くに干しておいた。



「作ろうと思ったこともねぇが、無理だな」


「ん?やる前に無理なんて。ゼロさんに出来ないことってあったの?」


「俺を何だと思ってんだよ、お前は………」



ガキはちょこちょこと近づいて、隣で火に手をかざした。気候は安定してるが、手製の手足むき出しの服じゃ夜は寒いらしい。



「俺は作れねぇんだよ」


「作れない?」


「そ。性質のせいだろうな、破壊の。壊すことしかできねぇ」



何度やってみても、魔力をどんだけ使っても抑えても無理だった。


料理をしようと思ったら食材が壊れる。絵を描こうと思ったら筆が壊れる。家を作ろうと思ったら土地から材料から壊れる。


まぁ肉を焼くのはできるし、絵なんざ描かなくていいし、定住するなんて不可能だから家も要らねぇ。つまりさほど問題はない。



「それでも生きれるって、ほんと外ってすごい。アガドじゃ何でも作らないと手に入らないもん」


「俺も昔はキツかったけどな。買う金もねぇし」


「ゼロさんの昔かー……想像できないなぁ」


「今と変わらねぇよ」



昔から追われる毎日だ。


食べるものもなくて、寝る場所もなくて、休む時間すらなくて。正直よく生きてこれたなと思う。



「よし。苦労人のゼロさんに、肩もみしてあげよう!服が乾くまでの間ね」


「へぇ?そんなことまでできるのかよ」


「ふふん。結構なんでもできるんだよ!」


「泳げねぇけどな」


「……それはなしにして」



久しぶりの、静かな夜。周りに敵意も殺気もない。

自然の中の夜の匂いと空気に満ちている。

体に残った魔力が体のために使われて、少しずつ満ちていく感覚。


久しぶりだ。今日は寝れるかもしれない。



「ねぇ、ゼロさん」


「なんだよ」



まるで通らない指を肩からどけて、ガキはむき出しの俺の首に触れた。少しだけ身構える。



「ZERO……って彫ってるの?でも、この傷痕……」


「へぇ。お前、読めるのか」


「書けないけど読むのはできる。シルクに教えてもらったんだ。ってそんなことはいいけど、この傷痕って……」


「だよな。死ぬ気かよって思った。俺も」



俺の後ろ首にはタトゥーがある。ちょうど首と肩の境あたりだ。


そこに書かれているのは黒のZEROという文字。それは真横に切り込みが入っていて、ティナ持ちの俺に消えない真っ赤な傷を残していた。



「死ぬ気かよって、そんな他人事みたいに……。誰にやられたの?」



おっと



「さぁな」


「あ。誤魔化した」



まぁ色々話してやってもいいが、情報の助けになるなら、の話だ。こんな何も知らないガキに期待値はねぇ。なら無駄に拡散するだけリスクが高い。



「でもやっとわかったよ。なんでみんなゼロって呼ぶんだろうって思ってた」


「……あ?」


「だって、ゼロさん。ゼロって名前じゃないんでしょ?」



………は?

どうやってそんなことがわかった?


俺は何も言っていない。あの軍人どもでさえ、そんなことは知らないはずだ。



「何故そう思う?」



背後の声は理由を語る。

傷痕をさする小さな手が凶器に感じた。



「最初会ったときに[ゼロって呼ばれてる]って言ってたもんね。名前はゼロです、じゃなかったもん」



……まぁ確かに俺はそう言った。だが、名前じゃないとまでは言っていないし、呼び名がそのまま本名の可能性だって高い。というか普通名前だと思うだろ。



「あとはね、なんとなくだよ。雰囲気?」


「勘かよ……」


「だから、ゼロさんがわたしのこと[ガキ]って言うのもおあいこかなーって。わたしも名前で呼んでるんじゃないもん」



変なやつだ。可笑しいともいえる。


周りが[ゼロ]と呼んで、それに本人は応えるのに、名前じゃないと誰が思うだろうか?それに気づいたやつなんか今まで誰もいなかった。



「ふぁっ!?」



傷痕をなぞる手をとり、そのまま引き寄せる。間近にきた翡翠の眼は、驚きに満ちて溢れんばかりの輝きを見せた。



「ぜ、ぜぜぜゼロさん??」



お前はなんだ?

どんな音を聴いて、どんな景色を見てる?

俺の知らない何がわかる?



「ゼロさん!近い!」



……おっと



「悪ぃ」


「何だよ、もぉ……」



どうもこういう奴が苦手ならしいな。悪魔のティナが壊せって喚きやがる。


俺にないものを持ってるのが、本能的に嫌なのか。危険だと感じるのか。


危ねぇ危ねぇ。殺すところだった。



「……名前はねぇよ」



俺の知らない何かがわかるガキは真っ赤な顔を仰ぐのを止めた。



「ない。だから、ゼロでいい」



俺の呼び名は勝手に周りが呼んでいたものだ。俺が名乗ったことはない。



「そっか」



ガキはその一言だけで何も言わなかった。




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