10
「よし。ここが、最後か」
よろける体を壁に預け、手近なもので扉を封鎖する。
さすがに遊びすぎた。というか遊びに来た奴が多すぎた。
どいつもこいつも手柄のために命張りすぎだろ。ジジイ共が来る前に、切り上げれてよかった。
あー…消耗が激しいな。敵を一括で処理できたとはいえ、さすがに力も使いすぎたか。
「…ま。とりあえず目的地にはこれたからいいいとするか」
ここは資料室。機密情報の保管場所だ。
魔石という情報流出の可能性があるものには記録せず、貴重な紙に記入し保管しているところだ。
さすがに警備も厳しかった。罠だとかカギだとかも強固だったが、破壊属性を持つ俺にはさほど問題ではない。
問題といえば、この量だ。
事件やら犯罪者のデータ。重要なものだけとはいえ、もちろん子供関係以外もある。量は、この国が成り立ってから現在までと考えれば……。
無理。
とりあえず一服。
「つっても、やるしかねぇけどな」
持ち出して後からじっくり読めればそれが一番だが、馬鹿みたいにある薄っぺらい紙を戦場で持ち運べるわけがない。それにこういうのは大抵持ち出したら自動発火する。ということは、この量をここで覚えるしかない。
「……めんどくせ」
適当に紙束を掴み、ばらばらとめくっていく。
興味がわかなくもない犯罪記録や、もみ消された記録がずらずらと。だが、今はいい。とりあえずは子供関係のみ。
まぁ、それでも、さすがはアガドルーク。
被害者が子供の事件だけでも腐るほどある。
俺の脳みそが天才でよかった。こんなもん今から読むなんて不可能だが、人間は一度見たものは忘れない。あとから思い出してから読んで、あとは銀に任せればいい。
資料をばらばらとめくって、次に移り、またばらばらとめくる。
眼だけを動かし、脳に叩き込みながら辺りの気配に注意を払う。
「…は?アビスシード?」
なぜここにアビスシードの記述が含まれる?犯罪記録の中の、重要な情報のなかに。
ここにあるのはあくまで犯罪関係の記録であって、投獄された罪人の子供の話ではないはずだ。
アビスシードは、投獄された罪人同士で生まれた子供であって、外の世界の子供とは関係ない。
いや、そう言われているだけか。俺も真実は知らない。
記述はある誘拐犯の一言。
アビスシードのためだ
錯乱した様子で牢獄に廃棄される予定だったが、獄中で謎の死亡。
誘拐された子供は6人。全員死体で発見。アビスシードとの関連性は見られなかった。
「アビスシードは、存在しているかしていないかも不明な存在」
そのために誘拐事件が起きた。
そしてその子供は、何をするためかも不明だが死体で発見。
それが供述通り架空の存在であるアビスシードのためというならば、調査が必要。
資料はそう締めくくられていた。
資料をめくり、投げ捨て、頭に叩き込む。
頭をかけめぐる記録には、他にアビスシードという記述も、ましてやアルテマという記述もない。再発する事件ではなかったということだ。
再発しないならば、アビスシードに対して国が動くこともないと考えていい。
「子供が誘拐されて、死んで、犯人はアビスシートのためと言ったが、実際何をしたのかは不明。子供に何が起きたのかも不明。犯人が何故獄中死したのかも、不明」
わからねぇことだらけかよ。使えねぇな、アガドの人間は。
……よし、整理しよう。
アルテマはアガドルークで子供を集めてる。
実際に動いているのはアルテマに依頼されたやつで、前の暗殺者のように簡単に処理できる誰かだ。
アルテマは、アルテマという名前を極力ださない。おそらくは個人での依頼や取引によるものだろう。
今回のアビスシードのためと発言した誘拐犯も、そのアルテマに雇われた奴だとする。
こいつを捕らえるときにでた被害から見ても、まぁ弱くはなさそうだ。そっち方面で優秀だったと言っていい。
そいつがアビスシードとわざわざ発言したということは、雇用主が信頼をおいた駒に情報を流した。またはコイツ自身が聞き出した。
すべて仮定だが、これが成立するならアビスシードとアルテマが繋がる。
いや、仮定とはいえ、アガドルークとアルテマに関連があるなら、アビスシードとアルテマに関連があってもおかしくない。
そして、この場所。アガド牢獄とも。
「アルテマの人間、指示をした人物。こいつはここにいる可能性が高い…」
それなら永遠に閉じ込めることも、殺すことも、捨てさせることもできる。
子供の誘拐だって簡単な仕事じゃない。それを行えるプロも、リサイクルできるならそれが一番だ。
となると例の絵かき。
あれは捨てられたと聞いた。
それすらもアルテマが操作したとするなら、一度死んだことにして世に出ている可能性が高い。
絵描きはあの白髪のガキの絵を描いた人物だ。
あんだけ秘匿を貫く組織が、何故ガキを描かせたのか。一般人の手に渡る可能性があるものを作って何がいいか。
そんな危険なことをアルテマの、身分もない奴に許可するか。いや、それはない。メリットがない。
ということは、アルテマのなかでも絵描きは上の立場の者か、上の立場に依頼された者ということになる。
趣味か何らかの記録かは知らないが、そうでないとアレは描けない。
そんなやつが、捨てられた。
絵のみが必要で、絵が手に入った末には不要になったから。知りすぎたから。
いや、それなら捨てることはない。即座に首をとばす。
アルテマとアガド牢獄に関連があるから、"不明の死亡"は自由だろう。
なら、なぜ落としたか。
殺す必要はないから。
利用するため。
あの場所に当人を向かわせるため。
あの場所にはなにがある?
子供だ。特殊な子ども。イリスのような、アビスシード。
死ぬリスクを犯すほどか…いや、リスクはない。
魔力を失わなければ、あの場では問題はない。そしてすぐに出ることができるなら飢えて死ぬこともない。多少の戦闘能力があるなら生き抜けるだろう。
「………」
アルテマは子供を欲しがっている。
ガーゴイルからの情報だ。
そして、アルテマに雇われた誘拐犯はアビスシートのためと発言した。
アルテマに関わる絵かきはアビスシードのいる牢獄に捨てられた。
「絵描きは、アルテマの上の人間。アビスシードのいる場所に行った。」
アビスシード。
毒も効かず、魔法も効かず、身体能力は高く、未知数な力を持つとされる。
罪人同士にできた子供。
人を食う人間がいるなかで、目も見えない赤子が生きていけるか。ほぼ、ない。
それが、俺が知る限りでイリス含めて3人。それは多すぎるんじゃないか。
理由は簡単だ。
アガド牢獄にいる子供は、外から連れてこられているから。
アルテマの手下が誘拐し、獄中にいるアルテマが手引きしているから。
だが、アビスシードはまだ架空だ。
完成されていない。だから誘拐も続く。
「アルテマの目的は、アビスシードと、その完成」
資料を投げ捨てた。
クソが。
そんな仮説が立つ中、俺は誰を連れてきた。
「あれ?きづいちゃった?」
そこにいたのは、小さな子供だった。
魔力の欠片もない子供で、青い髪をした少年。
「久しぶりだね。ぼくを覚えてる?」
それはイリスが、「シルク」と呼んでいたガキと同じ特徴をしていた。
予約投稿忘れてました…(><)
申し訳ありません!
明日も投稿します
奇数日投稿にしたいので^^*