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破壊の魔王  作者: Karionette
アガド攻略編 第五章 アガド牢獄
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09




「……いま、ぜろがなんかいってたぞ」


「うそ。何してるんだろ」


「おれでもあんまりきこえなかった。ずいぶんふかいんだな、ここは」


「ここは海底付近じゃからの。深海から地上の音が聞こえるかどうかなら聞こえまい」



わたしたちは牢獄内をぐるぐると歩き回っていた。


最初は湧き上がるような恐怖で、頭まで回らなくなっていたわたしだったけど、ルナが「安心せい!」と叫びながら壁を3枚ほど拳で壊したのを見て、なんかどうでもよくなった。


そしてクガネが目覚めて、猶更元気がでた。クガネは嗅覚の調整というものを覚えたらしい。



「じゃないとおれはしぬ!しぬきになればなんでもできるんだぞ!」



とのこと。ゼロさんから学んだようだ。


よし、わたしも死ぬ気でシルクたちを探そう。



「そんなことより、イーリスよ」


「なんでしょう。ルナさんよ」


「ここは、こんなにも静かなのか?」



そうなのだ。


ここに入って結構な時間が経つと思うんだけど、シルクやウラガどころか誰一人見当たらないのだ。


確かに人の気配はする。人が生きていた痕跡もある。でも、まったく目にしないのだ。



「…ひっこしか?」


「いや。クガネ、それは違うと思う」



どうして誰もいないんだろう?


どこかに隠れているってことになるけど、そのメリットも無いと思う。たぶん。


だって全員が隠れてるなんておかしいでしょ。どんなかくれんぼだよ。



「おれががんばって、いきてるやつをさがすから、そいつにきいてみよう!」


「そうだね。クガネ、お願い」



どうやって探すのか。鼻がだめでもクガネには耳がある。


狼のような立ち耳をくるりくるりと動かして、辺りの音を探るのだ。



「…………あっちだ!」



クガネが走り出す。見失う前にルナが尻尾を掴む。やれやれと額の汗を拭って、歩いてその場所まで向かった。

クガネの速度にはついていけないからホントに焦る。


そこにいたのはオトナだった。


食事中という最悪なタイミングで、尖った歯でぐちりぐちりと死肉を食んでいる。


ああ、久々にみると、なんかやっぱり怖い。



「いいいぃぃいイーリス!?なんじゃ、あれは!ひひひひひ人の肉を食うておるぞ」



おっと。ルナ、こうゆうのダメなタイプだったか。



「う?にんげんはおいしくないぞ?」



ちょっとクガネくん。ものすごい爆弾発言ですね。



「妾ホラーだめなんじゃけど!!」



あなた人の血を吸うヴァンパイアでしょうが。



「とにかく落ち着いて。ルナとクガネに比べたら、あんなオトナ弱いから…」


「があああああ!!!」



落ち着かせる暇なく、誰かさんが特攻。



「せせせせせい、ばい…成敗じゃーーーー!!」



続いてもう一人も。

どうしよう。頭痛い。


憐れなオトナは突然現れた獣っ子に蹴られ、続いて現れた吸血鬼にビンタされていた。


壁まで吹き飛び、壁にどがんと跡をつける。

あ。これ死んだな。



「イーリス!なんじゃ、こやつらは!歯が尖っておるぞ!?ティナ持ちか!?」


「違う違う。肉を食べるためと武器のために歯を削らせてるの。オトナは」


「それはおかしいぞ!ぜんぶとがってなくてもにくはたべれる!!」



ああ、もう!!!

いいや。ちょっと無視だ。



「ちょっと、オトナ。生きてる?」


「あ、あ、あ……」


「なんで誰もいないの?」


「うあ、あう、うぅうぅ…」



だめだ。可笑しくなってるオトナだ。こういう人はまともな話はできない。


いつか、他の人に殺されて食べられるだろう。



「クガネ、次の人を探して」


「そいつはいいのか?」


「殺してあげるのがいいのかもしれないけど……ウラガ達が先。だから次の人を探ぞう」


「…わかった!」



次の人は程なくして見つかった。


今度は食事中ではなく、睡眠中だったようでルナたちが荒れることはなかった。よかった…。


起こすと、不機嫌そうなオトナはぎろりと鋭く睨む。



「教えてほしいことがあるの」


「…おめぇら新入りか?」


「そんなかんじ」


「けっ。まぁ人の肉を食ってる連中よりはマシか」



ということは、この人は人肉は食べていないらしい。


確かに見た目からしても余力があるというか…まだ食べるほどの窮地にはいなさそうだ。


わたしのことを新入り呼ばわりしてるけど、この人こそ新入りなのだろう。


まぁいいや。細かいことは気にしない。



「何が聞きたい?で。何を差し出す?後ろのねぇちゃんの体とか安くついていいんじゃねぇ?」



ルナの怒りが燃えあがる前に、後ろに下がらせる。

埒が明かない。



「食べ物」


「……なんだよ。食い物って」


「肉。もちろん人じゃないよ」


「何の肉だ」


「わたしの手製料理だから、いろいろ入ってるんだけど…。一口食べるくらいなら許す」



お弁当を広げる。身を乗り出してきたクガネを後ろに下がらせて、目の前でわたしがまずは一口。そしてオトナに差し出した。



「……うっっっめぇ!!!!!!!」



すごい叫ばれました。



「後ろのねぇちゃんより100倍いいや!何が知りたい!?あ、あとこいつはどのくらいもつよ?いつ食えなくなるかな?あー、でも誰かに取られる前に食った方がいいな!うん!」



すごい良い人っぽくなるオトナさん。なんか目まで輝いている。


あれ?もっと作ってきた方がよかった気がしてきた。


・・・・よし。気を取り直して。



「ここの囚人たち、だいぶ少ないと思うんだけどなんで?」


「あー。減ってはねぇよ。ちょっと前だったかな。この場所にルールが定められたんだよ」


「ルール?」



がつがつと頬張りながら頷くオトナ。あ、クガネから殺気が湧いてる。どうどう。



「みんな眠いだろ。ずっと気を張るなんて大変だろ。休戦時間を設けよう。利害の一致だろ。

そんな変なことを言うやつがいてさ。外が夜の時間は休戦することになったんだよ」


「そんな…みんな従ってるの?」


「なかには動いてるやつもいるだろうよ。でも襲ったりするのは禁止だ。

外でもそうだろ?一人がルールを破ると袋叩きにあう。だからって今、単独行動できるような大きいチームもねぇしよ」



なるほど。力が均衡したからそんなことをしたのか。

頭がいい…というか、やったのシルクっぽいんだけど。



「…ちなみにやった人の名前。わかる?」


「えーと。シルッピっていったかな」



シルクだ。その時々ふざけるところ、ほんとシルクっぽい。



「その人はどこにいる?」


「おお?急に乗り出すなよ。

あと、場所は知らねー。あいつはぶらぶらしてる系だよ。一か所に拠点を決めてない。しかも噂じゃガキっぽいらしいぞ?」


「どこにいるか…知ってる人はいる?」



オトナはわざとらしく頭を抱える。そしてちらりと空き皿になった手元の器を見た。


そして厭らしく、こちらをみる。



「あー、どうだったかなぁ。そうだなー。もっと食えばなー。うーん」



あ。こいつ嫌いなタイプだ。

そう思ったらわたしよりもそう思ったらしい人がいた。



「一人でイーリスの手料理を喰らっておいて何を言うか貴様ぁ!!!」


「ころすころすころす!!」


「磔にし、全身の皮を剥いて塩を塗りたくり、そのまま太陽で妬いてくれようか!!!」


「ころすころすころす!!」


「ひ、あ、ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


「謝って許されるか、たわけものが!万死に値する愚行じゃ!幸福な夢は二度と見れぬものと知れ!!」



…えーと。なんかありがとう二人とも。


その人、悪気はなかったんだろうから許してあげてね。目線だけで殺されそうだよ。その人。


あと、いろいろ終わったらいっぱい料理作ってあげるからね。絶対。



「…えーと。それでどうかな?知ってる人いる?」



がくんがくんと頷くオトナはその人の居場所を教えてくれた。


皮は剥がれずに済んだけど、絶世の美女に踏まれたままビンタを何度もされていた。

若干嬉しそうだったのがわからない。



「二人ともありがとね」



満足げに二人とも頷いていた。

シルクが生きている。それがわかっただけで漲る力が違う。あとは見つけるだけだ。





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