07
壁が吹き飛ぶ。
勢いで床もめくれ上がり、爆発したかのような音をたてて勢いは止まった。
がれきの山から出てきたのは、ゼロだ。
「この程度か!破壊の化身が!!!」
太い声が響き、石の礫が降り注ぐ。ゼロは翼を盾にしそれを防いだ。
防ぎきれなかった一撃は衝撃のみ与え、口元からは一線の血が伝った。
「土くれが。いい、加減にしろよ!」
凄みある顔で口の端をつり上げるゼロ。砕けた腕をだらりと垂らし、刃こぼれしたハルバードを捨てる。
ゴキゴキと拳からは音が鳴った。
「ケルベロスといい、お前といい。なんでここは門番が好きかねぇ」
ゼロの前に立つのは、高さ5メートルはあるであろうゴーレム。ゴーレムのティナ持ちだ。
異常に発達した石の体は武器を通さず、破壊の闇も、全てを破壊するには至らない。
スピードこそないものの、一度でも直撃すれば体が破裂しかねない剛腕と、何をも通さない体がゼロの攻撃の手を止めていた。
血を吐きながらゼロは舌打ちをする。額からは血がつたった。
「なんと幸運よ!かの大悪魔とこうして拳を交えることができ、これに勝る喜びはないわ!!」
「そうかよ」
「この身がティナに呑まれる前に、貴様を叩き潰す!!!」
振り抜かれた拳は床を割り、衝撃波を放つ。身を返して避けたゼロは、硬質化した拳でその腕を穿った。が、ヒビが走るもその場ですぐに塞がっていく。
「最近回復力特化が多すぎねぇか?」
「このティナはその頂点に君臨する!!」
剛腕は、さらに速度を速めて壁や床を砕いていく。重量感に比例しない速さのそれは、この建物そのものをも壊さんばかりの威力だった。
ゼロはその威力、魔力の動き、相手の連携技。それを見極め判断を下し、もう一度舌打ちをする。
紙一枚で拳を避け、その威力を利用して攻撃の軌道を操り、ゴーレムを壁に突っ込ませた。
しかし石の体にダメージはなく、その巨体では倒れることもない。
「この程度か!!」
「これでいいんだよ」
ゼロの目的は体勢を崩すことだった。一瞬で相手の視界の外に出て、一気に力を開放する。
視界は脈打ち、闇が暴れるようだ。
「強欲」
ゴーレムの後ろ首が締まる。視界外で起きている出来事に彼は理解ができなかった。
人の体の大きさと変わらない悪魔が、どうやって己の頸を絞めるというのか。
覚醒状態になったゼロは、巨大化させた爪で相手を締め上げる。
それを行わさせない石の肌の性質は破壊し、人肌と同じとは言えないが、いくらか首を絞めるということができる肉にはなった。
ゼロは前方に闇を放つ。
壁を破壊し、ゼロはそのままゴーレムを引きずるようにして進む。
ティナを所有してから、味わったことのない酸素の吸えない苦しみと血流の止まる感覚で、ゴーレムは抗うほどの力はなかった。
ゼロはにやりと笑う。目下には広い海が広がっていた。
「お前みたいな体力バカは首絞めたところで、落とすには時間がかかりそうだな」
「き、貴様!!正々堂々と戦、え!!!」
「俺だって不本意だよ。お前を破壊するには力が足りねぇ」
今はな、とゼロは付け加える。
そしてティナの膂力すべてを用いて、投げ飛ばした。
「お、おのれぇえええええええ!!!」
ゼロはそれを見送ることもなく、たばこに火をつけながら目的の部屋に入る。どっかりと深く椅子に座り、覚醒状態となった体を戻しながら大きくため息をついた。
「めんどくせぇなぁ…」
ゆらぐ煙のなかでゼロは一言つぶやいた。