05
「ほんと。どうかしてるよ、この人数」
あたしはあれからずっと力を使っている。
役目はアガド牢獄に、誰も立ち寄らせないこと。
時間が経ったかんじはしない。
力にも、まだ余裕はある。ゼロ程ではないにしろ、あたしの魔力量も少なくはない。
ただ、参った。人数が多い。
最初は一人ずつに幻覚を見せて、同士討ちや道に迷わせたりしていた。
でも、人数が増えるうちに追い付かなくなったのと、場所の面積的な意味で不可能になった。一騎打ちを始めさせるほどの、空いた場所がない。
道を迷わせるのも不可能になった。所詮は幻影。壁ができているように見えても、それは見せかけで、触れれば通り抜けてしまう。ということで発生したのが、人の押し合いによって壁を通り抜けまくり、迷路として成り立っていない事案だ。意味がない。
個人ごとに幻影をかければ、触れても壁のように感じるんだけど、この人数にそれをする余裕はなかった。
あたしができるのは、個人にしか見えない幻影か、団体が見える場所に幻影をかけるか。他人数相手だと場所にやるしかない。
特定の人物に同士討ちをさせることはできるけど、結局周りに人がいるから止められるのが関の山だ。無駄な力は使いたくない。
「うわぁあああああ」
案外有効なのが、少し足元広く見せること。存在しない足場に踏み出し、海の中に落ちてくれる。
ここの橋を渡ってから、アガド牢獄に行くのが本来のルートだから、当たり前だけど崖っぷちだし、下は海だ。だから、見せかけの足場というか、地面があると落ちる。
あとは壊しても壊しても作る橋の目的地を、認識をずらして別の場所にする。アガド牢獄だと思ったら何もない孤島って感じに。その孤島も幻影にすれば、これも落ちてくれる。
ゼロだったらもう少し効率よく、うまくやるんだろうけどね。
あたしは苦笑しながら、エネルギー補給のためにイーリス手製のお菓子を口に放り込んだ。
「ゴルド。あの小島、頼める?」
「っがう!」
胸ポケットにもぐりこんでいた小型のトラになったゴルドが跳ねるように飛び出す。
ゴルドは特別な能力はないが、体の大きさを自由に変えれるらしく、あたしの幻術と相性がいい。急に現れて襲い、そして消える。それが簡単にできるのだ。
だからゴルドには、できあがった橋を渡った数人を、本当に存在する小島に仕分けて、それを一気に始末してもらっている。
毎度落としても這い上がってくる人もいるから、多少処理しないとあたしが追い付かない。
そうやって、なんとかこの場を乗り切っていた最中だった。
『リオ。ゼロからだ。その場から離脱しろ』
「え?」
銀からの抑揚のない声が頭に響く。
『増援がくると説明しただろう。その中の人物が、おそらくお前では止められない』
…なるほどね。
唇をかみしめる。
舐められたものだと言いたくもなるが、あたしは戦闘員としては不十分だ。
わかってる。あたしはあくまでサポート。
攪乱が役目で、面と向かって戦うには力が足りない。
ちょっとした爪と炎、あとは強靭な尾があるだけで、脳筋の蝙蝠女や戦闘技術のあるゼロほど戦闘力はない。
ティナ堕ちをしないように、ずっと戦ったり人を殺したりはしなかったからだ。
わかってる。
わかってるけど、こんな時に役に立てないのは悔しい。歯がゆい。
「銀。もう少しだけ頑張る。無理だと思ったら姿を消して海に潜るから、少しだけ許して」
『……賢明とは思えん』
「力不足もわかってる。でも、どうせならできること全部してから離れたい。大丈夫。無理はしないから」
『度を過ぎているようなら、ゴルドに強制的に連れ帰らせる。それでいいな』
「ありがとう、銀」
頑張ろう。あたしを助けてくれたゼロと、いつも支えてくれたイーリスのために。
「出し惜しみはなしだ。この場にいる全員、牢獄には行かせないよ」
この場に幻を、ここにいる人に夢を、ここに在る炎を。全てを組み合わせ力を注ぐ。