04
『イーリスたちは侵入に成功した。そちらはどうだ』
「…疲れた」
『だろうな』
罠。人間。魔法。武器。
周りが俺をどう扱ってるかしらねぇが、疲れるもんは疲れる。
ここは空気も悪いしな。
「入っちまえば、もう見つからねぇだろ。見つからねぇというか、追ってこれねぇ。あとは探す時間だけだな。どのくらい必要だと思う?」
『わからん。それに、リオがそろそろ限界だ。敵がなだれ込む可能性がある』
「…嫌な知らせだな」
『ここで聞くべきではないのだろうが、体力が落ちていないか?』
「うるせぇよ」
血の味がするまずい煙草を口に咥える。
体力が落ちたって?だとしたら何だよ。鍛えろっつーのか?
つーか体はちゃくちゃくとティナ堕ちが進んでんだから、そんなことありえるはずがねぇだろ。
………ま。その見解は認めるけどな。
『それと悪い知らせだ。お前に恨みがあるやつらまで集まってきている』
「腐るほどいるから知らん」
『暗殺者たちだ』
「あー…」
懲りねぇな。あいつら。
『それと、軍』
「………」
ジジイたちか?それはめんどくせぇな。
俺よりも、あいつと相性が悪い。
「狐に伝えろ。相手が悪いから下がれってな」
あのジジイは魔力を見る。幻影はあまり効果がない。
それにあそこには幻影だろうが、相手が魔物だろうが、まったく関係ない動く死人がいる。
『いいのか?』
「俺に会いにきたなら通してやれよ。イリスの方に行かねぇなら計画通りだろ」
さーて。敵に増援がくるなら、もっと派手にいくか。
俺の居場所が相手に伝わらないと意味がないんだし。
傷もだいぶ治った。そろそろ後ろの銃声もやかましいし、頃合いだろ。
「安心しろよ。疲れたっつっても重傷はねぇし、調子は悪くねぇから」
『なら何に疲労感を覚える?』
「久々にここまで壊して殺して、敵意と殺意向けられて…ぶっ飛びそう」
『……最悪だな』
「だろ?」
まぁ理性を飛ばしたりは、俺に限ってありえねぇ。ティナ堕ちしない限りは。
制限なくぶっ飛んだら気持ちはいいだろうが、俺じゃなくなるのは御免だ。
『通信を終了する。武運を祈る』
「は。悪魔に祈ってんじゃねぇよ」
さてと。
あいつらが潜入できたなら、陽動としての役目は終わりだ。 あとは俺の目的になる。
どこかにある資料室。
犯罪資料を置いてあるところがあるはずだ。
そこで、アルテマや子供の誘拐について調べる。調べる時間はねぇから頭に叩き込む。
資料室も、その他の部屋も銀から既に場所は聞いてる。ならそこに向かうだけだ。
「……よし」
後ろは常に連射状態。手でも出そうものなら千切れそうだ。
この壁もそろそろ耐えれねぇな。
「クロ」
「きゅ」
「別れる。お前は時々俺の姿を映しながら走りまくれ」
「…うぎゅううううう」
「むくれんな。流石に数が多すぎるから相手もばらけさせてぇんだよ。いいな」
クロは盾として優秀だが、錯乱にも使える。
額の結晶から俺の姿を映し出し、敵の目をそちらに奪う。敵が分裂すれば後ろから始末するのも楽だ。
今回は相手の魔法を封じたところで、どうにもならねぇしな。
「下には行くなよ。任せた」
「…うきゅ!」
よし。
額の赤い石を小突き、クロが構える。
俺は魔剣を解き放ち、それを纏った。
制限時間は、3分。
「怠惰」
辺りが闇に覆われる。
いつもの影のようなそれではなく、光がなくなるという意味での闇。
それも一瞬で、光が戻るときにはクロはその部屋にはいなかった。
銃口が急な暗闇に惑うも連射は続く。
俺はその銃の直線上に立った。
弾丸は俺の体を貫き、そのまま壁を砕いた。
「悪いな。この技はお前らを殺す技じゃねぇんだ」
今の俺の姿は闇そのもの。手や翼はおぼろげに揺れて影のようだ。
憤怒は一切を破壊する技。
強欲はティナの能力を、色欲は精神を破壊する技。
そして怠惰は、俺を破壊する技だ。
今の俺には、肉体の概念が破壊されている。物理的な攻撃は通用しない。
「これくそ痛いんだけど、ハチの巣にされるよりかはマシかな」
瞬時に近寄り戦闘にいたやつの首をねじ切り、左右のやつらの背中を折る。
都合がいいことに、俺から生きた相手には触れることができる。
人は闇に触れることはできねぇけど、闇は人に触れることができるんだろう。
無機質なものはすり抜ける。
俺の手は銃を通り抜け、銃を握る拳に触れた。瞬間に指を握りつぶし、痛みに膝を屈した瞬間に顎を蹴り上げる。首から上が飛んだ。
銃が不可と悟ったのか、周りの魔力が高まっていく。
魔法は通過できない。が、俺が肉弾戦しかできねぇわけがない。
ちょうど3分。
纏った衣が剥がれ落ち、姿を変える。
剣よりも大鎌よりも長いハルバードへと。
今、俺の居場所は敵の群れの中心地。俺はそれを振り抜いた。
「暴食」
部屋中に闇が広がる。波のように飲み込む。悲鳴と断末魔が響いた。
崩れ落ちる人間。いや、人の形をした何か、だ。
いつも思うが、この技が一番むごい。
暴食は魔力を破壊する技だ。今ここに転がっているのは、生きている人形と変わらない。
「あー…それにしても…」
清々しい。抑えずに、自由に、何でもしていいのは楽でいい。やっぱり一人が楽だ。
ひとりずつ、ゆっくりと胸を貫き、首を落とす。ほっといてもいいんだろうが、俺なりの気遣いだ。
返り血が舞い、足元に赤い海ができ、俺はそのなかを歩く。
殺すたびに、何かが流れ込んでくる気がする。
理性をぶっ飛ばしそうな麻薬みたいな…いや、俺に麻薬とか全く効果ねぇんだけど。言葉で表すなら、酔いしれるってかんじか。
『人を殺して快感に溺れるのはティナの特質だ。気を引き締めろ』
何をいまさら。
知らないわけがねぇだろ。
『悪魔は人に興味はなくとも、人を神のしもべと考えている節がある。破滅は願っていなくとも、死を忌避するほどではない。むしろ滅びを願っていない分、残虐な一面さえある。人の苦しみ悲しみが、悪魔の餌と称された程だ。あまり流されていると呑まれるぞ』
なるほどね。
苦しんでるのを見るのは大歓迎ってか。
「じゃ、調整する」
『…できるのか』
「俺の体に快感物質が出てるってことだろ。それを制御すればいい話だ」
酔っていたくないわけじゃねぇけど、まぁ戦闘中だしな。冷静な判断力を手放していいことはないだろう。
というか、この話昔にも聞いたよな。大量に殺すとこうなるとかなんとか。
『言ったな』
だよな。
こう酔ってると頭も回ってねぇのか。厄介だな、やっぱり。気分はいいけど。
『あと数分で敵の援軍がくる。それまでにできることは済ましておけ』
「あのバカ3人組にさっさとしろって伝えとけよ」
『試みる』
もしもあいつの友達とかいう奴が死んでいた場合。それが面倒だ。
死んだ奴を探し続けるのも、死んでいることをわからず探すのも、どっちも無限に時間がかかる。
あのバカがそんな判断をしないことを祈る限りだが、場合によっては引きずってでも連れ出す必要がある。
となると、ひとり抱えて逃げる余力は残しとかないといけないのか。だるいな。
正直絵描きに関しては9割諦めてる。
なにせアガド牢獄だ。
絵を描く生業のやつが、生きているはずがない。そっちの路線で調べるのはもう無理だろう。
今は、子供の誘拐事件。
そこからアルテマに関する人物なり、事件なりが出てくればそれでいい。
「闇の帝王!オレはオークのティナ持ちの…」
「憤怒!!」
「え?あ、うぎゃぁぁぁぁぁあああ!!!」
ということで、次の目的地に向かうか。