09
3日後。
攻略日だ。
向かう先はアガドルーク。
さほど遠くはねぇし、夜には問題なく到着できるだろう。
向かうまでに何もおきなきゃいいが。
「わ、妾、飛空艇に初めて乗ったぞ!」
「てかゼロさん、飛空艇の操縦までできるの!?無用の長物!!」
俺らが乗っているのは銀印の飛空艇。
あいつは万が一のために、ルナティクスの生き物全員が乗れる巨大な飛空艇と、小回りの利く飛空艇の2機を作っている。
重火器はまったくねぇけど、速度と音の無さ、高度で、これに敵う飛空艇はまだ無い。銀が作るものはやっぱり常識がずれてるからな。
つーかうるせぇな。なんで操縦室に全員集まってんだよ。
「二人ともうるさい。クガネを見習って」
「そうだぞ!そらではしずかに、だ!せんちょーにおこられるぞ!」
たぶんクガネが言ってるのはあの婆のことだろう。
ここにいるのは、俺とイリス、ヴァンパイアと狐、クロと虎と一羽の鳥だ。
その鳥はタカのようなやつで銀の分身体だ。
魔力のないイリスやクガネに通信機をつけるのは不可能だが、こいつなら頭に直接指示することができるらしい。係で言うなら通信係か。
つーか、お前の本体はルナティクスの基盤に使ってて人間の姿がそもそも分身体なのに、それの分身体ってどういうことだよ。
『整理する』
鳥の口は開いていないのに銀の声が響く。
『ゼロは陽動。敵を引き付ける役目だ。わかっているだろうが殲滅させる必要はない。うまく切り抜け、できることなら内部情報を私に伝えろ』
「了解」
『イーリスは要だ。お前だけは倒れることを許さない。お前しか対象2名の顔さえ知らないのだから当然だ。途中尽きることがあればすぐに引き返す。わかるな』
「はい」
『ルナ、クガネはイーリスの護衛だ。イーリスを守れ。
重ねて言うが、お前たち3人の役目は潜入だ。
敵に存在を知られるな。知られたのなら即座に対象を始末しろ。
牢獄内に入れば囚人に手を出されることもあるだろうが、それでもお前たちの存在を出来るだけ知られるわけにはいかない』
「要は静かに行けば問題はなかろう?大丈夫じゃ。妾はティナ持ちのなかでも上をゆく存在。その程度なんともないぞ!」
「おれはかりはとくいだ!」
『………』
不安なのは俺だけじゃないらしい。なにせ馬鹿3人組だ。
『リオはアガド牢獄内へ他者が侵入するのをおさえろ。あくまで抑えるだけでいい。一人も通さないなんて無理なことは考えるな』
「あたしは大丈夫だよ。自分にできることとできないことくらいはわかる」
『クロはゼロにつくのだろう?ゴルド、お前はリオについてやれ。幻影の中ならその巨躯も十分に活用できる』
「うきゅ!」
「がるる」
クロ、いらねぇよ。イリスについとけ……って、あの3人の相手をするのはキツイか。それに空気がやばいか。そうだな。
「はい、はい!銀さん」
イリスの手が挙がる。
「入るのはいいけど出るのはどうするの?」
『簡単な話だ。壊して進め』
こいつこういうところあるよな。
「大丈夫じゃ、イーリス!妾の力で壁でも天井でも粉みじんにしてしまえばよい!」
「おれもぴょーんとじゃんぷしてでるぞ!」
『そういうことだ』
どういうことだよ。こいつらの馬鹿さ加減に任せてねぇか?
最下層は海の中にあるんだろうが。打撃斬撃程度で壊れてたら耐えられるか。
「…わかった。二人と協力する」
『手綱を握っていてくれ』
鳥の目線がこちらを向く。
ああ、俺だけに話か。
『他には聞こえない。
例のアルテマについて。今回お前はそれを探りに来たと知らしめる必要がある。イーリスたちの潜入がバレないように。
それを公にせず、理解している者にはわかる。そんな行動がとれるか?』
は。できねぇわけがねぇだろ。
『そうか。お前についてきているやつ、仮面の者といったか。その行動を予測している人物を見つけたら、殺さず顔を覚えろ。後に私が調べ上げる。そこが例の組織につながる道になる』
念のためアガドの情報をため込んでる部屋。可能性順に挙げてくれ。
『思念内に地図を表示する。お前なら処理できるだろう。黒のルートが推奨ルートだが、あくまで推奨だ。状況によって変更しろ。あまりイーリスたちのことは気にせずいつものように動け』
気遣うのは苦手だからな。
『…ゼロ、本当に問題はないか』
あ?何がだよ。
『いや。何でもない。お前はお前の思うままに動け。情報が欲しい時に私を呼べ』
それを最後に頭に響く声は止んだ。
なんだよ。らしくねぇな。気持ち悪い。
『では、これより始める。ゼロ、準備はいいな』
操縦席からはなれ、そこに銀が飛び降りる。
船尾にあるハッチがゆっくりと開き、足元に鈍く光るアガドルークの街並みが見えた。
「ゼロさん!」
イリスの鈴のような声が響く。髪が風で乱れてえらいことになってんぞ。
「気を付けて!よろしくお願いします!」
「ああ。お前も適当に頑張れよ」
マスクを引き上げ、瞳を赤に背中には翼を設定する。魔剣を携え、肩にはクロがしがみついた。
「クロ。派手にいこうか」
俺は後ろの連中に手をあげ、そのまま飛び降りた。
さて、ショータイムのはじまりだ。
ようやく攻略編にこぎつけました!
いやぁ、長かったなー