08
その日の夜は久しぶりの大宴会。
しかもわたしは何もしなくてもいい宴会だ。
何でも、ルナティクスにいるみんなが激励したいということで、保存食も持ち出して準備してくれたのだ。
うん。大半がわたしの作ったものだけど、それでも嬉しかった。
「薄い。もっと強く」
ルピが作ってくれた花の水は、とても香高くて元気の出る香だ。応援してくれているような気がする。
「ダメだな。香りが弱い」
「わかんないよ!煙草の香りとか強さとか!」
「逆ギレかよ。お?これはいいんじゃね?」
「え?ホント?やったぁ」
それで、食べ物をつまみながらお酒を飲みながらで煙草を作って、ゼロさんに試してもらっている。
ほんとはすぐにしたかったんだけど、裏のゼロさん家に置いてきちゃったから、今まで取りにいけなかったのだ。
煙草とは難しい物で、強さや香りが大切なのはわかるんだけど、お酒みたいに味やにおいを確かめることができない。なにせわたしがちょっと吸ったら、頭がぐわんぐわんするし、「まずい」という印象しか抱かない。
葉っぱごとのバランスが大事みたいだけど、美味しい香りとまずい香りを組み合わせるって理解できない。
「これは軽いな。空気吸ってるみてぇ」
解せぬ。そいつら一応同じ配合のつもりなんだからね。
「まだ銀印を超えれそうにはねぇな」
「うぅうう」
悔しい。非常に悔しい!
「まぁあいつ自身、機械みてぇなもんだし、作るもの全部1ミリもずれてねぇしな。飯もそうだろ」
そうなのだ。
銀さんにやらせたら指をぱちんで何でもできちゃうんだけど、味も温度もボリュームもまったく同じなのだ。
一言で言うならコピー品。食べられないこともないけど、ずっと食べれる物でもない。確実に飽きる。
わたしの料理をコピーできるかって聞いたけど、それは無理だって言っていた。自分の脳にある味を再現しているだけだから、仕組みの理解できない味を出すのは不可能ならしい。えへへ。
「お前の作るやつの方が香りが面白い。果物とか酒とか、よく考えたな」
「だってまずいだけだったんだもん。煙草って」
「ククク。まぁ確かにな。俺がこいつ吸ってる理由って、そもそもは単なる脅しだしな」
「脅し?」
「俺の顔に合う。恐怖を煽るって意味でな」
うん、確かに。ゼロさんにお酒とたばこはすごく似合う。これでアメとケーキだったら吹き出しちゃう。
「お前すごい失礼なこと考えたろ」
おっと。相手はゼロさんでした。
「そうだ。ゼロさん、これ」
「おい。逃げんな」
「はい。お金。言われた通り用意したよ」
積み上げた金貨。
これだけあれば一生遊べるとはいえないけど、生きていくには十分なお金だ。
毎日仕事をして、掛け持ちして、たまにもらったチップも全部貯めた。
生まれのせいか、わたしは別に欲深くはないみたいだし、何もしたくないというタイプでもないから、仕事をすること自体が辛かったわけでもない。
そんなことはないけど、自分でもなかなか頑張ったとは思う。
「おう」
ゼロさんは数えもせず、そのまま袋に詰め込んだ。
それ、そもそもわたしが作った煙草が入っていたやつなんですけど。
「これはお前に預けとく」
「……はい!?」
頑張ったものが袋にぱんぱんに詰め込まれ、目の前で揺れている。
今さっき手放したばっかりのやつが、片手でずいっとされている。
え?おかえりなさい?
「こう言うとむかつくだろうが、俺は金には困らねぇんだよ」
「…いや、お金持ちなのはわかっているつもりだよ?」
「そうじゃねぇよ。もしも身ぐるみ剥がされることがあったとしても、一文無しになることがあったとしても、俺は道端でなんか歌えば金が勝手に入るし、街1つ落とすのだって簡単だし、盗みを働けって言われたら盗賊相手にでもできるんだよ」
それは、なんというか、世の中の頑張っているお父さんに謝るべきかもしれない。
「だから金が入っても銀にやってる。俺から銀に依頼するときの金を積み上げてる状態だ。俺とあいつはそれで契約が成り立ってる。
まぁ金が必要なときは、いくらでもあいつから請求できるし、俺からの依頼が積み上げた金額に足りないときは、魔力か労力で支払ってる。
そうだな…俺が支払続けた金があいつに貯まっていると考えたらわかりやすいか?」
「う、ん」
あれだ。ゼロさんは無限のお金を銀さんに支払って、その貯金で仕事の依頼をして、余りがあるからそれを引き出すこともできて、万が一足りなくなったら別で支払ってる。そんなところか、たぶん。
「それで何でわたし?」
「たぶん銀には十分払った。だからもういいだろ。これ以上は俺が無駄働きになりそうだ」
「それなら自分で持っておけば…あ、いらないのか」
「そ。持ち物が多いのは嫌いだし。俺は武器と、酒と煙草があればそれでいい」
なんという自分勝手なめんどくさがりやだろうか。
「俺が使うかもしれねぇし、お前が使っても別に問題ねぇよ。俺はその金貨のなかの1枚あればとりあえず問題ねぇ」
いつのまにかゼロさんは1枚だけ引き抜いていたらしく、指の間をくるくると回っている。
なにそれ、すごいんですけど!
「まぁその金使って酒と煙草をよろしく。正直お前の作るもんは、その金額じゃ足りねぇかもしれねぇし」
「え。そうなの?」
「俺の飲む量とか、価値とかを考えるとな。…そう考えると飯もか。いよいよ足りねぇ」
いやいやいや。そんな価値高くないよ。わたしのは。
「好きでしてることだし、お金とかいいんだけど。わかった。
じゃ、わたしがゼロさんのお財布になるね」
「は。お前が?………まぁそれはそれで面白いか。好きに使えよ。俺は平気で人の数年分を1時間で稼いでくるぜ?頑張って収納しろよ、財布」
お、おおう。
大丈夫かな、わたし。破裂しないか?
「とりあえずはその金使って煙草でも練習してくれ。楽しみにしてる」
「うん!楽しみにしてて」
わたしたちはグラスを奏で、きれいな甲高い音を響かせた。
数日後に戦いにいくとは思えない程、にぎやかで穏やかで楽しい夜だ。
「……イリス。一応言っとく。分かってるだろうけどな」
「ん?」
「俺が前に伝えた、絵描きの件。それからお前の友人2人。死んでる可能性の方が高い」
「……うん」
「判断を誤るなよ」
…うん。
そうだ。
いない人を探し続けることは、できない。
間違えれば、みんなを危険どころじゃない状態にしてしまう。
「ま、俺のことは気にするな。勝手にやってる」
「うん。わたしも、頑張るよ」
そう。覚悟しなければならない。
助けにいくこともそうだけど、2人が死んでいることを、知る。そんな覚悟も必要なのだ。
前にも言ったかもしれませんが
ほんとにタイトルのセンスが欲しい