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破壊の魔王  作者: Karionette
アガド攻略編 第四章 戦前
143/340

05




あれから暫く経った。


ルナティクスは安定させることができ、本体というか基盤というか。核みたいなものは一番わかりにくいであろう白蛇のいた泉の中に隠すことになった。


移動手段は当然だが転移魔法陣。これでいつでも行き来することができる。


ルナティクスを存在させる魔力も転移魔法陣の魔力も、全てこの場所のマナから還元しており、その消費量を見て白蛇が蒼い顔をしていた。

良くも悪くも、これで暫くはここから魔物が生まれることはないだろう。それだけの魔力を人間で補えていたんだから、表のルナティクスはどんだけ栄えていたんだか。


で、その表のルナティクスだが。


どいつもこいつも実力行使。殺す攫うは基本として、商人や腕のある技術者たちが、流通を止めたり失踪したりで、世界的にどこも荒れ始めていた。急にスラム街が広がったというか、犯罪が横行したというか。


まぁルナティクスという鬱憤を晴らすのに最適な場所がなくなったんだから、そこまで染まってなかったやつらも何かしらの犯罪に手をつけるようになって、簡単に言えばどいつもこいつも大暴れだ。

そして、それで得た金や利益で、街の復興は急速に進む。


こうなると襲ったのが巨大なギルドだとしても守るどころではない。


ハンターギルドの本部がある街なんか、強盗はされ、商品は流れ、町人は去るで、その街自体が機能しなくなってきている。関係ないやつも大勢死んだだろう。


ついでにこの世界的な治安の悪さのおかげで、軍や国も俺を狙う暇はないらしい。


実に平和だ。



「しるばー!おれのなかまがきたんだ!いれてやってくれー!」


「…1人はいいとして、もう一人は…。あれは何だ」



平和。あれは嘘だな。

めんどくせぇ奴が合流しやがった。



「あれもティナ持ちだ。一応」


「一応とはなんだ。一応とは。ほとんど魔力がない。野山にいる動物どもの方があるのではないか?」


「俺は入れずに、外に出しといてもいいと思う」



クガネの催促が響く。


魔物と同伴じゃなきゃここには入れないが、白蛇が認めればその例外になるらしい。


今から魔物をあっちに向かわせたら黒焦げにされてみじん切りにされそうだし、ここに入れるなら許可してやった方が被害はないだろう。


ま、外に出しといていいと思うんだがな。本当に。



「…良い。通せ」



森が揺らぐ。


その瞬間にバカみたいな速度で赤い髪が靡いた。


避け、蹴り、それは泉に沈んだ。



「ルシファ!!!会いたかったぞ!!」



何でもなかったかのように泉から上がる赤い髪。


疲れはないらしい。さすがはヴァンパイア。



「良かったな。じゃ帰れ」


「ぬぅ!?それはあんまりというか、ひどいというか…妾はどこに帰れば良いのだろうの?」



馬鹿だ。



「ルナー!」


「イーリス!久しいのう!」



ずぶ濡れのままイリスに抱きつくヴァンパイア。


その後ろでは狐が白蛇に挨拶していた。



「すみません。ほんとにすみません。騒がしい馬鹿を連れてきてしまって」


「う、む。あれは何という生き物だ?」


「馬鹿でいいです。本当にすみません」



狐の肩にはクロもいて、恭しく礼をしている。どっちも目に見えて疲労がたまっている。主に馬鹿のせいだろう。


そいつは今、遥かに年下のイリスにちゃんとあいさつしろと引きずられていた。



「妾はルナじゃ!シルバとやら!よろしく頼むぞ!」


「…………貴様堕ちていないか?」


「うむ。でも正気じゃ。安心するがよい!」



得意げに腰に手をあて、デカイ態度をとり続けるヴァンパイア。


おいおい。相手を見ろよ。

只の魔物じゃねぇぞ?こいつ。


あ、こいつ魔物とわかってねぇのか。

ガキだと思ってんのか。



「無礼講は嫌いではないが、不遜で傲慢な態度は好かんな。この儂に対してその態度とは死にたいか、小娘」


「儂とは幼女に似合わぬ言葉遣いを。大人の振りをしておるのか?妾はそなたよりは小娘ではないぞ」



わかってねぇな、この馬鹿。


相手の怒気すらもわかっていない馬鹿と、謎の生き物に直面した魔物は、何故かどちらも動けず硬直していた。


わからないってすげぇな。



「ルナ」



その空気を割ったのは銀。



「その少女の姿をしているのはここの主である魔物だ。この場を借り、世話になる立場だ。敬意を払え。

シルバ、このティナ持ちは特殊であるが問題はない。警戒を解いて問題ない」



それから銀は全員の中心に立つ。

視線を集め、ゆっくりと口を開いた。



「ルナティクスの処置は今先程完結した。これよりアガド牢獄の攻略を進める」



指を鳴らす。

途端に景色は変わり、何もない真っ白な部屋に俺たちは座らされていた。


ルナティクスで慣れている俺らはそうでもないが、何故か招かれた白蛇は口を開けたまま辺りを見渡す。



「ぎ、銀龍殿!?ここは…」


「仮想空間だ。ここなら誰かに話を聞かれる心配はない」


「そ、そうか…」



納得がいかない様子のまま頷く白蛇。


まぁな。無理にでも理解するしかねぇしな。



「つーか、白蛇には関係ねぇだろ」


「確かにシルバには不要な話だが、一応ここの代表者として、話だけは通しておこうと思ってな。不要ならばすぐにでもこの場から出すが。どうする?」



そういうことは連れてくる前に言えよ。



「儂なら問題ない。人間のやることに手出しをするつもりはないが、この場所に何かが起こるなら儂も行動を起こす。その時のためにも聞いておいた方が良かろう」



もうこの場所について考えるのをやめたのだろう。どっしりと座りなおした白蛇は、突然現れた飲み物も臆せず飲み干した。飲み干した瞬間にグラスに注がれるそれにも、もう何か言うのを止めたらしい。


俺も軽く飲み物を口にする。おお、いい酒だな。



「これイーリスが作ったんでしょう?」



狐が顔を綻ばせて果実水を飲み干す。当のイリスは首を傾げていた。



「ん?最近作ってなかったよ?」


「ああ。それなんだが裏のルナティクスに保管してあってな。上客との接待用に利用させてもらっていた。商人から商品化の声もあがってるぞ」



おい。このガキ見ないうちにどんだけ腕あげてんだよ。銀が客用に使うとか……職人としてどこでもやっていけるじゃねぇか。



「いや、お金はいいよ。そんなにいっぱい作るの大変だし、お客さんに出すだけでいいや。

そしたら銀さんとの話がいい感じに進むかもしれないし、ルナティクスの価値もあがるでしょ?」


「そうか。気が向いたらルナティクス内のみでの販売も考えてみるといい。まぁ金に興味がないなら特に必要ないかもしれないがな」


「うん。考えとく」



もう一度酒を飲みなおす。どっかの高級品かと思ったらこれもコイツが作ったと思った方がよさそうだな。


コイツ自身は酒のめないくせになんでこんなもの作れるんだ?



「さて、落ち着いたところで始めよう」



背もたれに体を預け、煙草を燻らせる。


天井には気分が悪くなりそうなほどの記事やら地図やら人の顔やらが表れた。……よし、覚えた。



「まず情勢から説明する。


アガドルークという国事態、犯罪者対応で情勢を回している国だ。よって、その対策として国の戦力は、セントラルを除けばどの国よりも高い。また、居住している人間も、罪を負い、償った後の者が多い。

イーリスも見たようだが、やはり少し普通とは異なった者たちが集まる国でもあり、気性が荒く、狡猾な人間が集まっていると考えていい」



アガドルークは一言でいうなら犯罪大国だ。


国から犯罪者を買い取って、一括で管理している。これは政府が決めたことだ。


こうすれば軍も戦力を分散させる必要はないからという理由が表向きの理由だが、本当のところは、国ごとに犯罪者の取り締まりもすべて管理をさせれば、同時に戦力の増強も必要となり、挙句その戦力を使って戦争になる可能性が増えると考えられたからだ。


あくまで戦力の頂点は軍であり、政治の中心は政府であり、それらを終結させたセントラルを勝らないように仕向けている。


まぁそれはどうでもいいとして。


事情はともかく、あそこはとにかく治安が悪い。俺の首を狙ってるやつもごろごろいる。



「今回の目的はアガド牢獄にいるイーリスの友人2名、ウラガとシルクの救出になる。


これはきわめて困難だ。なぜなら、アガド牢獄には入口はあっても出口はない。構造から説明しよう」



俺は以前、イリスらアビスシードの調査のため潜ったことがあるから構造は理解している。


イリスの友人2名がいる場所は、ごみ捨て場としても兼用されている牢獄だ。あそこに入ったやつは、もう外に出ることはない。だから出口はなく、入口があるだけだ。


それに、犯罪者という力が少なからずあるやつらを管理するため、アガド牢獄自体で魔力が制限される。投獄される奴らは限界まで吸魔石で魔力をとられ、それからマナが一切廻らない牢獄に突き落とされ、魔法やティナの能力すべてを奪うことになる。


だから、もしも俺らがあそこに入ることになるなら、魔力の回復は一切できない。身の内にある魔力が尽きたらそこで終わりだ。


まぁ俺からすれば夜じゃねぇと魔力回復しないから変わらないんだけど。



「そうか…妾とイーリスに関しては全く問題ないな!」



そういうことになる。まったく魔力が必要のない連中には何の異常もない。



「その通りだ。魔力のないクガネ、夜しか回復もしないゼロも例外となる。影響があるのはリオだけだ」


「でもアガド牢獄を管理している普通の奴らがいる場所は、大丈夫なんでしょ?じゃないとあの場所を管理できるわけないし。あたしはそこで敵を押しとどめといたらいいんじゃない?」


「いや、そうとも言えない。これを見てくれ」



狐のいう事はもっともだが、あそこはほぼ牢獄全体が魔力が使えない。


壁に触れるだけで魔力を吸われるし、ほとんどの場所が回復すらしない。特定の場所のみマナの流れがあり、そこだけは魔力の回復ができるようになっている。


あの場所にいる奴らは、身の内にある魔力を使っての行動がほとんどで、誰も無制限に魔法を使ってるやつはいない。


それに基づいて、というかそのためにというか。あいつらは武器や魔道具の使用が多く技術も高い。めんどくせぇことに。


ちなみに昔、ケルベロスのティナ持ちを破壊した場所は、魔力回復することができる場所のひとつだ。だから大勢で大魔法構えて取り囲んだってわけ。



「場所を示す」



銀が示した場所が数か所色が変わる。この数室しかないところでならマナの回復が可能と指していた。


おいおい、前と場所が変わってんのかよ。めんどくせぇな。



「もともとイーリスがいた場所へ入るには魔法陣か、捨て口から入るかのどちらかだ。だが、魔法陣を操作することは不可能だ。よって侵入するには捨て口から入るしかない」


「う?しろがやればいいんじゃないのか?」


「私は作成することはできても、改変することはできない。私の魔法陣は魔力を使うものではないからな。


あるいは、そこにいる人間を捕えることも考えたが、魔法陣の知識がある特定の1名を見つけて行動するのは時間の無駄だ。捨て口から行く方がいいだろう。

加えて私も向かうつもりだが、指示のみで戦闘や行動は不可能と考えてくれ」


「たしかにな!かりをするより、ぴょんととぶほうがらくだ!」


「……いや、ちょっと待て。お前来るのかよ」


「問題あるか?」



銀がルナティクス以外へ動く?ありえるのかよ、そういうこと。


昔言ってなかったか?龍だからどうとかこうとか…問題あるんじゃなかったのかよ。



「…言いたいことはわかる。だが、今回は状況を見る必要がある。ゼロ、お前が思っているより大きな仕事だぞ。これは」


「あ?」


「数日前よりアガドルークへ伝わった情報がある。

アガド中にそれは伝わり、差出人も発信方法も不明のままだが、そんな情報のために軍まで動いているようだ。

内容は、”近日、闇の帝王ゼロが襲撃する” それだけだ」



銀の灰色の目がこちらを向く。冷静沈着なこいつにしては珍しく、殺さんばかりの鋭さをもって。



「ゼロ。私に話すべきことがないか」



あー。まずいな。これ、黙ってたら殺されるか。


俺は頭上に浮かぶ大斧と全く動けなくなった体を理解し、ため息をついた。




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