03
それからは慌ただしかった。
持ってきたルナティクスを、この場所へと接続し、ルナティクスにつながる道を作る。膨大な魔力を使う作業だが、作業自体は銀さん、魔力はシルバで何とか構築…と言いたいところだが、シルバはすぐに撃沈する羽目になった。
周りのマナを扱えることでゼロさんを凌駕するほどの力があるけど、シルバの体に蓄える魔力はゼロさんほどではないらしい。異常量ではあるみたいだが。
だから、こう…何かのための電池代わりになるとすぐにバテていた。
とはいえど、激しい戦闘後のゼロさんにそんな魔力があるはずもなく、自動的に犠牲になったのは森に棲んでいたその他の魔物たち。みんな力尽きた。
「お前絶対に過剰にとったろ」
ゼロさんはそう言っていたが、銀さんは何も答えなかった。
ルナティクスとこの地が繋がっても、すぐにルナティクスに行けるようになるわけでもなく、しばらくルナティクスは眠った状態になるらしい。一度停止したのだから起動するには時間がかかると銀さんは言っていた。うん、よくわからん。
ルナティクスは異空間化しているとはいえ、異空間ではなく一応実在する。見えないし、入れないようになっているだけだ。
前は…どこかの島の底とか裏側とか言ってたっけ?今回もどこかには存在させないといけないから……うん、まぁ、いろいろ大変ならしい。
そんな精密な作業について、わたしにできることがあるはずもなく、へとへとの魔物たちと常に腹減り属性を持ってるクガネに料理を振る舞った。
ゼロさんは魔力と体を治すと言って早々に寝てしまい、マナを扱うシルバがいる限り、どこも安全地帯ではないと考えたのか、遠く離れたりもせず、近くで座ったまま眠っている。頬杖をついているだけだから、顔も首も痛そうだ。
「奴は気を抜くということをせんのか」
シルバは、ばきりばきりと骨をかみ砕きながら言った。
少女の姿でそれはやめてほしい。かるくホラーだよ。
「よくも精神がもつものだ」
そう。そこだよね。もう普通の神経はしてないよ。
「その強靭な精神力が奴を今まで生かしてきたのだろう」
しみじみとシルバは肉をかじる。
子供の体で牛5,6頭分の肉をもしゃりもしゃりと…。もう完全なホラーです。
もう料理が追い付かなくて、遂には生肉をつまみのようにぶちりと齧っていた。
もうわたしも作らん。きりがない。
「ゼロさん…大丈夫なの?」
「なにがだ?」
「いろいろと」
「そう言われても儂は人間のことなんぞわからん」
牛を丸ごと引っ張り、頭からかぶりつくシルバ。
「魔力については心得がある。だから今回は力になれたが、儂はティナにも人間にも詳しくはない。大丈夫かと言われても答えれん」
「そっか…」
「魔力をいうならば問題はない。覇力に呑まれているとはいえど、通常量が尋常ではないのだ。まだ余力はある。すぐさまティナ堕ちすることなどはないだろう。
先ほどの暴走した力も既に扱えておるし、魔力の暴走を起こすことは今後はないと思って良い」
シルバはあっという間に、頭蓋骨も残さず牛を食べきるとごろんと草むらに横になった。
遠くではクガネが魔物たちと一緒に遊び、ゴルドはあわあわと見守っている。なんとも微笑ましい光景だ。
「儂は占術が使える。未来を占い、過去を知る技だ」
「それがどうしたの?」
「あの小僧を見た瞬間、過去と未来の暗さに驚いた」
シルバはそこで初めて真剣な目つきでこちらを見た。
「あれは凶星だ。ティナの有無なんぞ関係ない。過去を追えば奴とて壊れるぞ」
「シルバはゼロさんの過去を知ってるの?」
「知らん。知らんが追うべきではない。今でさえ明るい道とはいえんが、過去が関わる限りどんな闇より暗い。
小娘。できるならば奴を止めろ。できぬなら離れろ。あの闇は周りすべてを喰らい尽くしても足りんぞ」
シルバの目は、真剣だった。
シルバの言っていることはよくわからない。よくわからないけど、その曖昧な言い方がなんだか気味悪く感じた。
止めろ、か。ゼロさんを?難しそうだな。
「…ちなみにわたしの未来は?」
「魔力があるやつでないとわからん。貴様とクガネ、銀龍殿もさっぱり見えん」
あ、そう。
魔力占いなわけね。
もしもわたしの未来が明るいなら、ゼロさんの暗い未来も晴らせるかなと思ったけど。
「ありがとう、シルバ」
「良い。儂は貴様らを気に入っているからの」
シルバは明るい顔に戻り、優しく微笑みながら目を閉じた。
ゼロさんとは違ってのびのびと安らかに寝息をたてる。わたしもそれにつられて隣で眠った。