06
「ゼロ!」
周りの景色は、前に見たのと同じ森だ。綺麗な空気に静かで少し重い霧がかかった森。
前とは違うのは、今その景色が壊れようとしていることだ。
「クガネ!シルバを呼べ!魔物を近寄らせるなと伝えろ!」
「わわわかった!!」
クガネが走り出す。その反対側へゴルドも走っていった。魔物たちに伝えに行くんだ。
わたしは何もできなかった。
ゼロさんに近づくことも、近づいたところで何をすることもできない。
闇が広がって地面や木々を破壊し、その中心でゼロさんが苦悶の表情を浮かべている。それを眺めているだけだ。
ティナの暴走?いや、違う。
あの時はゼロさんは荒れるティナを魔力で抑えようとして、それができなくて自分もろとも破壊していた。
でも、今は溢れ返っている。
溢れたものが勝手に暴れている。まるでゼロさんから何かが零れたみたいだ。
「お前…何故私に言わなかった!」
銀さんが珍しく大声を張るも、ゼロさんはだらだらと汗を流しながら笑うだけだ。
なにが、なにがおきてるんだろう。
ゼロさんは何をしたんだろう。
「ふむ。大方純粋なる魔力を要したのだろうが、貴様にはそれほどの魔力が既になかったというわけか」
「シルバ!」
音もなくそこにいたのは、白髪の少女の姿をしたシルバだ。
ゼロさんのように口の端をつり上げて、腕を組む姿は少女には全く見えない。
「銀龍殿は魔力を知れるわけではない。龍の姿ならばともかく、その仮の姿では貴様のように見れるわけでもあるまい。
龍とは魔力と無縁の生き物。
想定よりも貴様に残された魔力は少なかった。覇力に呑みこまれてしまって。そうだろう、悪魔よ」
「……ククク。よく、しゃべる、蛇だな。お前は」
銀さんの想定より、ゼロさんの魔力が足りなかった。
だから、ゼロさんはこんなことをした。
いったい何を…。
「人間のように喉から発声するのも慣れてきてな。言葉はなかなか面白い。
して、その禍々しい物はなんだ。儂に何の手土産を持ってきた?魔力量はすさまじいが…これは貴様のものか?」
「さぁ…。少し、念というか、感情というか。何かを、込めただけ、で。
まさか、今の俺にも、制御できない程の代物とはな。なんか、使ったらまずいのは、前からわかってたんだけどよ」
「ふぅむ」
シルバは顎に手を当て、人間のように悩むそぶりを見せる。表情は笑ったままだ。
「貴様は核を突き破り、獣が魔物になろうとしている時と同じような状態に見える。己の知らぬ魔力に踊らされ、貴様本来の魔力まで漏れ出ているようだ。さすがの貴様でも魔力が溢れるというのは初体験か」
「…うるせぇ」
「かっかっか。抑えると思うからうまくいかぬのだ。溢れるものを抑えるのにも、限界がくるものよ。滝壺におちる水が止めれぬように、激情から荒れた魔力を留めることはできぬ。
ならばどうするか。その溢れ出す魔力を食い散らせばよいだけの話。
暴れる力なぞ捨ててしまえ。
こい、儂が相手をしてやろう。貴様に務まればの話だがな」
闇が弾け飛ぶように散る。
そして全てがゼロさんの周りに集まり、幾多の魔物を殺したという刀に纏った。
始まりの合図も何もないままに、巨大な闇がシルバへと降りそそぎ、爆発音が鳴り響いた。