03
「ということで、力を貸せ」
『……………貴様、意味がわからんことを抜かしとるとは思わんのか』
「思わねぇ。どうせ魔力は有り余ってるだろうが。お前もお前のいる場所も」
『だからといって、その…ルナティクスのために場所を貸せと言われても可不可さえわからん。そもそもルナティクスとは何かさえ……』
「クガネのためだ。やれ」
『貴様…。誠にいい度胸を…』
俺の連絡相手はあの魔物の白蛇。シルバとか名付けられた奴だ。
あれから数日いろいろ考えたり、手を回したりしたが、裏のルナティクスを維持するのに魔石や数人の人間の魔力では不十分だった。
瞬間的な水がほしいんじゃなくて、滝の水がほしいというか、海が欲しいというか。とにかく限りがあると難しい。
ということで、魔力にあふれた場所だった表ルナティクスが壊れた今、同じように魔力にあふれた場所が必要で、それならばと白蛇の居場所ならと考えた。魔力じゃなくてマナに限りのない場所だが、銀の技術があればなんとかなる。
それにしても参ったな。魔物と交渉なんかしたことねぇから、相手の求めてるものがわかんね。ごり押し感が否めねぇな。
ん?どうやって通信してるかって?
置いといたから。俺の通信機。早速、役に立つとはな。
『ここに溢れておるのはマナであり、魔力ではない。それは問題ないのか?』
「ああ。それは銀がなんとかできる」
裏のルナティクスなら銀に任せとけば大抵なんとかなるんだよ。
『……ならばよかろう』
へぇ?
「物わかりがいいな」
『利益やリスクばかりを気にするのは人の業よ。単純に己が出来ることで、したいと思えばすれば良い。儂からすれば人間は頭を使いすぎる』
「誰も損したくねぇからな」
『カッカッカ。損得なぞくだらん。長い年月からすればどれも小さきことよ。命の短い人間には理解できぬかもしれんがな』
白蛇との通信はそれで途絶えた。
日取りも手筈も何も説明してないが、あの蛇からすればそれさえもどうでもいいんだろう。やりたいならやれ、できるならすればいい。そういう縛られていない考え方は嫌いじゃない。
「ねぇ!ゼロ!どうだったの!?」
「なんとかなるっぽいな」
「そう!ぽいっていうのが不安だけど!よしとしましょう!」
「うるせぇうるせぇ。そのセミみたいな声どうにかしろよ。ハエの女王」
「妖精の女王よ!せめてセミかハエかどっちかにして!そしてルピって呼んで!」
あ~うるせぇ。つれてくるんじゃなかった。
表で大勢が働いている音よりこいつ一匹の方がうるせぇ。
「それにしても…さみしくなるわ!みんなは暫くここに来れないんでしょ?」
「そうなるな」
「イーリスの、ごはん……」
あいつ何人餌付けしてんだよ。
「みんなも心配よ!これからイーリスのことで大仕事もあるんでしょ!?」
「まぁな。問題ねぇよ。一国滅ぼすとかじゃねぇんだし」
「比較の規模が大きすぎよ!」
妖精女王はきんきんと声を張る。
だが、こいつ相当へばってるらしく、さっきから空を飛ぶこともせずに俺の肩でへばってる。
本人は何も言わないが、魔力が足りないせいでここの空気も悪くなっている。
死ぬほどではないにしろ、妖精なんていう特別な環境下でないと生きていけない奴らにとってはきついだろう。
ここは多種族が住んでいるせいで、それぞれの性質に適応した環境を用意する必要がある。それに多大な魔力が必要だったわけだが、それが少ないせいで十分な環境が用意できない。
だから、こいつはこんなことになってるんだろう。他の妖精は自分の花の中で眠ってもらって、妖精のために使ってた魔力を他に回してるのだそうだ。
「お前も寝たらどうだ」
「あら!気遣ってくれるの!?」
「いや、うるせぇからちょうどいいだろ」
「ホントに失礼なことばっか言うわね!」
「じゃあせめて動くな。じっとしてろ」
「……うん」
肩にへたりと横になる妖精。
人間なら体の状態くらい見ればわかるが、この虫みたいな小さな体ではそれもわからない。
まぁ無理はしてるんだろうが、こいつらの心臓部分は花だ。それが死なない限りは、こいつも一応は死なない。どうせそんな考えで、他の種族の奴らのためにエネルギーを回したんだろう。
「うちは大丈夫よ。ゼロ」
妖精は珍しく小声だった。
「銀とゼロがなんとかしてくれるって知ってるから。うちは何もできないけど、それを待つことくらいはできるんだからね」
妖精女王はいつもの通り子供みたいな顔して笑っていた。