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『これはすごい。人間の欲の根源がこれか。人間という生物が栄える理由もわかる』
「すごいだろ!いーりすはすごいんだ!」
「がうがう!」
『よし。滞在を許す。小娘、次をよこせ』
「うん。いいんだけど、箸の使い方上手だね。大蛇さん」
目の前に奇妙な光景が写る。
まずは大蛇。はじまりの魔物とか言ってたが、いまやただの喰い盛りのクソガキだ。威光もなにもなく、出される料理にむしゃぶりついている。
で、その後ろのデカイ虎。こいつどこから仲間を呼んだんだよ。魔物だらけじゃねぇか、ここ。さすがにこの数は相手にするとなると骨が折れる。どいつもこいつも、食材持っておとなしくしてるから大丈夫だとは思うが。
で、クガネ。お前じゃれるな。魔物がへばってんじゃねぇかよ。
最後にイリス。お前の料理スキル万能すぎるだろ。再会してから料理の腕で切り抜けることばっかりじゃねぇか。
『クガネは貴様が拾ったのか』
「あ?」
白銀の髪の少女がばくばくと肉をかじりながら、すぐそばに座る。
目だけは蛇らしいそれだが、ぱっとみるとあの女を連想する。
「お前その姿いい加減やめろよ」
『ほう?脳裏にいた唯一の人間と思ったが、憎悪の対象だったか?』
「知るか。人の頭覗いたなら理由はわかるだろ」
『わかるが、わからんな。儂は記憶を覗くことはできても人の身の感情は知らんし、記憶も完全なものではない。魔物たる儂から言わせれば、くだらん固執に過ぎん。どうせ短い生ならば今を生きればよいものを』
「うるせぇ。黙って食ってろ」
『かかか。口の減らん奴よ。それで、話を戻そう。クガネは貴様が拾ったのか?』
「拾ったっつーか、魔物だと思ったらそうじゃねぇっぽいから、とりあえず捕獲して帰っただけだ」
魔物は手強い。俺宛てに討伐依頼がくることも別に珍しくない。
なにせ相手は獣が魔力を持った存在だ。魔法が使えるという人間の利点も、魔物が持っているもので、肉体的にも魔物の方が勝っているのだから、結局俺のようなティナ持ちに頼ることが多い。ティナ持ちなら、魔物の強打にも耐えることができるし、体力的にも競える程度はあるからだ。
本来なら、魔物の討伐はハンターギルドに依頼されるのが常だが、クガネのときは正体不明の魔物の討伐という内容だった。ギルドに依頼するには、特徴だとか性質だとかの情報が必要だが、今回はまったく情報がないためにギルドに断られ、結果連合経由で俺に回ってきた。
情報は、すばやいこと。すべて食い殺されていること。これだけだった。
で、見つけてみたら、人間の形をしているが人間じゃない。ティナ持ちでもない意味不明生物だったってわけだ。
『クガネは蠱毒だ。忌まわしき人間の欲望と好奇心が作った呪われた術の犠牲者よ』
「あー。銀もそんなこと言ってたな」
『クガネの身には、フェンリル、バジリスク、神獣白虎。少なくともその3方が宿っている。蠱毒にて何があったのかはわからんが、かの方々はクガネを生かすことに決めたのであろう。その命を儂は守ろうと思う。敬愛する彼らの忘れ形見としてな』
「只の蛇が何言ってんだか。具体的にどうするつもりだよ」
『さぁ、今からゆるりと考えようと思っての。ただ、貴様には礼をせねばならん。クガネを殺さずにいたこと、儂の前に連れてきたこと。感謝しよう』
「気持ち悪い」
『かかか。そう言うな。礼に情報をくれてやる』
音も立てずに立ち上がった白蛇は、その顔でその髪で、俺の前に立った。
『この姿をもつ人間。これは生きている。ずっと貴様を求めているようだ』
そして、白い髪の少女は泣きそうな顔で目を閉じた。
『…これと会えば遠からずして貴様は死ぬ。そしてこれは壊れ、貴様の守りたい者を殺す』
白蛇はそう言った。
9月です!
早くコロナ収束しないかなぁ…