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トラの上というのは案外寝やすいもので、振り落とされることも、ぐらぐらとずれることもなかった。
魔物は基本的に賢いから、そういう風に動いていたのかもしれない。今は近くの泉で休憩を取っていた。
「おい、トラ。お前火くらいだせんだろ」
「・・・」
「それとも無能なデカネコか?ならバラして肉にする方が使い道あるんじゃねぇか?あ?」
「ゼロさんゼロさん、なぜ魔物ちゃん相手に煽ってんの」
こいつ、何喰わない顔してるけど、俺のこと心底怖がってんだよ。それなのに強がってる感じがなんか気に食わねぇんだよな。獣なら獣らしく、降参して腹でも出してろ。
「こら、ぜろ!おれのむれをいじめるな!」
クガネは水泳に勤しんでいる。ちなみに犬かきしかできない。
「お前の群っつってもルナティクスには連れて行けねぇだろ。たかだか魔物を。意思疎通もとれねぇし」
「そうか?しろならなんとかしてくれるとおもうぞ!」
「そんな奴をどうやって運ぶんだよ」
「もちろんはしるぞ!」
「走ってルナティクスまで行けるか、馬鹿。そんな目立つトラを連れて船になんか乗れるわけねぇし、俺用の通路も、こんなくそ重いやつ抱えていくなんざごめんだぞ!」
「そこをなんとかってやつだ!」
「なんとかならねぇよ、この馬鹿」
「ねぇねぇ、それよりこの子の名前どうする?」
こいつも話きいてねぇな。捨てろって言いたいんだけどな、俺は。
「きいろのとらだから、きいろとらだ!」
「うーん、とらすけ?とらとら?」
ネーミングセンスが絶望的だな。
心なしか、この虎も顔つきが戸惑ってる。
「トラでいいだろ」
「ゼロさんのネーミングセンスないなぁ」
こいつぶっ殺すぞ。
「よし!じゃあきんにしよう!おれのくがねってなまえも、きんといういみだってしろがいってたぞ!」
「おお!キンちゃんかー!」
「きんきらきんだぞー!」
「きらきらちゃんだー!
やめろ、トラ。そんな目で俺を見るな。なんでこういうときだけ救いを求めるんだよ。
あ、こいつ腹見せやがった。
「……せめてゴールドにしてやれよ」
「ごーるど?」
「金の意味。お前もクガネって多少ひねってんだから、こいつにも多少工夫してやれよ」
「ごーるど…ごるどか!よし、じゃごるどだ!」
トラは歓喜の咆哮をあげた。
それから夜明けが近いという最悪のタイミングのため、適当にイリスの飯を食い、虎が餌付けされるのを見届けた後、俺は眠ることにした。
便利なことに寝ている間もこの虎が移動してくれるらしい。クガネが通訳するに、連れて行きたいところがあるようだ。
「にんげんのくびわをこわしてくれたおれいだって!」
それやったのはクガネだが、まぁ楽できるならいいだろう。休んでいられるのは助かる。助かるが、こいつらがなぁ…。
「おれがついてるからだいじょぶだぞ、ぜろ!ゆっくりやすんでろ!」
ものすごく不安だ。
「わたしもついてるから大丈夫だよ」
いや、変わらず不安だな。
「おい、任せたぞ。トラ。面倒なことにしやがったら解体するからな」
トラの目がぎらりと光り、大きく頷いた。
よし。多少安心できた。
「クガネ。わたしとクガネよりも、ゴルドの方が信用あるみたいよ」
「う?」
うるせぇよ。
お前ら二人に任せられる理由がひとつもねぇだろ。
俺は無言でトラの背に昇り、上着で全身を隠して転がった。
太陽がなきゃ、よかったんだけどな。