07
ゼロさんが寝た。
ニュースです!!ゼロさんが寝ました!!!
わたしの隣です!寝顔ですよ!
寝顔初めて見ましたよ!思ったよりも…普通だ。
うん。眉間に皺よったまま寝たりしてない。うん、よかった。
「いーりすぅ」
「ん?クガネ?」
「おれもねるぅ」
いや、寝てましたよ。クガネさん。
そう思うも、当の本人はのそのそと椅子に上って、それから机の上にごろん。
尻尾を抱きしめてごろんと丸くなって寝てしまった。
うん。かわいい。こんなの見せられたら、わたしも眠くなりそうなんだけど!
……いや、我慢できないわけじゃない。久しぶりに会えて、久しぶりに話して、ちょっと旅もして、ゆっくりな時間もそんなになかったから、少しはこうして浸っていたい。
シルク、ウラガ。
わたしは外の世界でがんばってる。
仲間もできた。心から信じれる人がこんなにできると思わなかった。
シルクは言ってたもんね。外で生きるのは大変だって。でもこんなに心強い人がいるから、わたしはそんなに大変じゃないよ。
ふたりは大丈夫?
そんなことを考えて、暫く経った。
「敵襲!!!!!」
飛空艇に耳を貫くような大音量が響く。声は見張りさんのもの。全体に設置された音声の伝達装置が働いたのだ。
それからお酒を飲んだ後とは思えない動きで立ち上がり行動を開始する船員たち。対してゼロさんは薄らと目を開けただけだった。
「……寝てたのか。俺は」
気付いてなかったらしい。
「うん。敵襲だってよ。空賊の敵って軍かな」
「…」
眉間にぐっと皺を寄せて唸るゼロさん。
寝起きが悪い。
すごく怖い顔してる。せっかく休んでたのに何してくれやがるんだクソ野郎と目が言ってる。
「殺す」
ですよね。
「待ちな。あんたの出る幕はないよ」
タイミングを見計らったように現れたのはルルクさん。
長い銃を肩に担ぎ、服もしっかりした戦闘スタイルだ。
「相手は空賊だ。ナワバリ争いだよ。あんたが出たら余計にややこしくなる。いいからここでじっとしておいで」
「それなら徹底的にやれよ。二度と飛べなくしてやれ」
「空は誰の物でもないよ。あと、お嬢ちゃん。あんたは魔法が効かないと聞いたけどホントかい?」
「え、あ、はい」
ゼロさんが言ったのかな。めずらしい。
「あんたも人がいいから、このを守ろうとしたりしないでおくれよ。
聞いたところだと、効かないのは人間からの直接の魔法攻撃だけなんだろうし、相手は武器を持ってる。魔力で充電させて撃つタイプのものさ。当たったら怪我しちまうよ」
「ま、魔道具は無効化できないので…」
「だから二人ともここでじっとしておくこと。いいね」
それを最後に飛び出していった。
年をとっているとは思えない早い動きだ。
「・・・」
ゼロさんはぼーっとその後ろ姿を眺めていた。そして軽く目を閉じて、ゆっくりと立ち上がる。
「どうしたの?」
「ティナ持ちがいる」
「……それで?」
「消してくる」
「そんなわざわざ行かなくても、疲れてるんだから休めばいいのに」
寝起きにどうぞと、わたしが水を差しだすと、ゼロさんは「はぁ?」とでも言うようにこちらを見ていた。急に馬鹿にされたというか、呆れられた?
「お前銀から聞いてねぇのか」
「なにを?」
「あいつの目的」
「死んだ友達の体のことは聞いたよ?」
「……は。あいつにしては珍しいな。身内に隠し事とはな」
と、ゼロさんは何故か笑った。
それから差し出した水をゆっくりと飲みほし、ぺろりと唇をなめる。
「なんで俺があいつと一緒にいるかわかるか?」
「…友達だからじゃないなら、ゼロさん達がいいそうな事でいうと、利害の一致?」
「正解」
友達だからだとうれしいんだけどね。
「あいつの目的の最重要項目は龍の死体探しだが、譲れない目的はティナの抹殺だ」
抹殺。
その言葉を繰りかえす。
そして目の前にいるゼロさんやリオ、ルナや、ルナティクスで会ったティナ持ちの人たちの顔を思い浮かべる。
みんな、銀の連合の人だったり良いお客さんだったりと、たくさんいた。
「ティナ持ちがいたら破壊する。俺と銀の決定事項だ」
それだけ言ってゼロさんは部屋から立ち去った。死神のような鎌は、ゆっくりと形を変えて、いつもの禍々しい剣へと変化していた。