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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第二章 外の世界
12/339

04




あぁ、ちくしょう。た


あの嬢ちゃん、ほんとなら保護してやるのが軍人の勤めってもんだが、大罪人のゼロのもとにいた方がいいと思っちまう時点で狂ってるよな。

軍は、あの子を利用する。場合によっては平気で消しちまう。


その点、ゼロなら理由もなく殺したりはしない。


……たぶん。



「おい!」



そのゼロから聞いたことのない声が上がった。振り返ると同時に(オレ)は走る。


ぐったりとした嬢ちゃんと、それを支えるゼロ。

嬢ちゃんは顔を真っ青にして、目からは涙、口や耳からは血が溢れている。

明らかにおかしい。ただごとじゃない。


ゼロはというと即座に嬢ちゃんを寝かせて、胸に手を当てていた。



「おい、どうした!?」


「……あ"ー、そうか………。たぶん核が破裂しかけてる」



ゼロが煙草を咥え、近づいてきた残りの二人を闇で牽制した。



「お前らは近寄るな。そこから踏み出したら殺す」



有無を言わせない態度に顔をひきつらせる二人。アンデッドのティナ持ち、シュウでさえ動きを止めていた。

それからゼロは手早く少女の服を破り捨てる。

あまりにも痩せすぎた体は鬱血し、所々赤黒くなっていた。



「核が破裂って……。嬢ちゃん、まさか穴開いてないのか!?」


「だな」


「この年でやってねぇって、どういうことだよ!?」


「そういう奴なんだよ。お前ならわかるだろ。どれだけ探ってもこいつから魔力は感じられねぇ。穴開ける前のガキと同じでな」



魔力は、大気や食べ物、あらゆる物にあるマナを体にいれることで得ることができる。

魔力の保管場所とでも言える場所を核といい、普通5歳くらいの時に魔力属性を調べるのと同時に核の魔力開通が行われる。

開通と同時に魔力は全身に広がり、そこでやっと魔法も使えるようになる。核はその源となるのだ。


嬢ちゃんにはそれがされてない。


外から無限に入るも、行き場のない魔力は核に溜まりつづけ、限界が来れば破裂して死に至る。今それが起きようとしているのだ。



「ち。ミスったな。こいつが開通させてないのはわかってたけど」


「はぁ!?どういうことだよ」


「まぁ、それ踏まえても核が破裂するにはどう考えても早すぎるけど……どうでもいいな。そんなことは」



ゼロはぐっと魔剣の刃を握った。どろりと血が流れ、その血を使ってゼロは少女の体にラインを描く。



「……まさか今から魔力開通する気か?」


「まぁな」


「馬鹿か!それは特殊な魔道具でするもんで、人の手でするもんじゃねぇ!わかってんだろ!核は心臓のなかにあるんだぞ!!」



核は心臓の中にあり、開通は魔力で行う。本来なら、胸に特殊な機械を当てるだけで終わるものだ。


ゼロの実力は嫌と言うほど知ってる。だけど、心臓の中にある核だ。

もしも核を木っ端微塵に破壊してしまえば、魔力が無くなって死ぬ。その前に心臓を破壊すればそれもまた死ぬ。

やらなきゃいけないのは、心臓は無傷に。心臓の中の核だけを壊すのではなく貫通させることだ。


どう考えてもできるわけがない。



「やらねぇと死ぬだろ。こいつ」



慌てる己に対してゼロは冷静だった。冗談の欠片もない真剣な顔つきで、もはや冷たくすら思える。



「……やれんのか?」


「やったことはねぇ」



そしてゼロは笑った。いつもどおりの、口を歪める笑みで。



「ま、日は落ちた。これならよく()()()



ゼロの背中で月が嗤う。妖艶な光を食らって、ゼロの深紅の目は鈍く光った。


ぞっとする。


こいつが見てるのは人じゃない。人のうちにある魔力だ。



「……だから己だけ、か。あいつらは無駄に魔力高いからな」


「そういうことだ。最小限に魔力を押さえて、こいつを固定しろ。あと光な」


「へいへい。わーったよ」



どっちにしろゼロは譲る気がないし、力ずくでやめさせるほど己は強くない。そして止めたところで別の手立てがあるわけでもない。

こいつに任せるしかねぇってことだ。



「違うな。選ぶのはこいつだ。おい、ガキ。起きろ。聞こえるか?」



ち。読みやがった。魔力を読めるやつは人の考えまで多少わかっちまうというが、こいつのはほんとに尋常じゃねぇよ。


舌打ちひとつしている間に、ゼロは弱った女の子の頬をバシバシと叩く。ほんとこいつは情が欠けてるが、行動としては正しい。気を失っていいことなんてない。


嬢ちゃんは目から血を流しながら、真っ赤になった目をゆっくりと開いた。



「ぜ、……ぁん」


「生きてぇならやるだけのことはやる。楽に死にたいなら引導下してやる。どっちにする?」



ほんと、このド悪魔が!!

相手はまだ子供だ。そんなこと選ばせるなんて酷すぎる!


でも止めにはいる時間はなかった。それはあの子が迷わなかったからだ。



「わた、し、は…生きる」


「痛いどころじゃねぇかもしれねぇよ?」


「がん、ばる……」



息も絶え絶えで言葉を紡ぎ、少し胸を張って笑う。とても見てられないほど、痛々しい。自分は大丈夫だと精一杯伝えようとしているのか。鼻の奥がツンと痛む。



「じゃ、決まりだ。で、次の質問」


「ふ、ぇ…」


「動いたら死ぬと思う。絶対動かないように全身の骨、死なない程度に砕こうか?」


「………」



おい、こらぁぁぁぁぁあ!!



「おめぇ!ゼロ!ほんと!おめぇってやつは!」


「冗談だ。このジジイが抑えといてくれるだろうよ。力抜いてろ」



そう言うとゼロはふっと嬢ちゃんの胸に手を当てた。

己は急いで嬢ちゃんの体を抑え、ごく少量の魔力で手元だけを照らす。そして、何があってもいいように、あの二人にはありったけの医療道具を持ってくるよう指示した。

とはいっても何かあったときに対処できる医療の知識なんて、己にはねぇんだが。



「さて、と。おいジジイ。俺を殺すなら今のうちだぜ?」


「抜かせ。(オレ)がそんなことするわけねぇって確信しての行動だろうが」


「ククク、さぁな」



ゼロの左手が胸に触れる。体に描かれたラインは大きな脈のある場所だ。これを避けるつもりなんだろう。


嬢ちゃんは何も喋らない。ふーっふーっと息を整えるだけだ。己はたまらず嬢ちゃんに目隠しをしてやった。


そのまま時間が過ぎる。


重たい沈黙のなかで死にかけた吐息だけが音を鳴らしていた。己の背中は汗だくで額からも玉のような汗が吹き出て止まらない。


沈黙は思考だけを巡らせる。


やはり、無理だ。


確かに己は自分の魔力操作は得意だし、相手の魔力を見る目も多少ある。というか、生まれついて魔力を視れるやつは魔力操作が得意だ。これがゼロを討伐する隊のリーダーに任命された理由だ……とかは余談になる。


見えるし操作できるからといって、命の中心ともいえる場所にある魔力の塊を、ぼんやり感じることはできてもとらえることはできない。しかもそれがわかったとしても心臓だ。死なないように、心臓の中を破壊する方法なんてわかるはずもない。


(オレ)とゼロとの差は歴然だ。

魔力を見る目も、魔力操作もどっちも。そんなことはわかってる。わかってるが、できる気がしねぇ。



「ゼロ、やっぱ…」



耐えられなかった己の口が開いた瞬間、ゼロの右手が動いた。



「っっつ!ふっ!」



ゼロの闇が嬢ちゃんの胸に吸い込まれる。


強い魔力だ。


嬢ちゃんは喘ぎ、息をこぼした。



「ふっふっ……ふ?」



一瞬だった。


闇が走ったあと、途端に嬢ちゃんの息づかいが変わり、嘘のように落ち着いた呼吸をしていた。それと同時に優しい魔力がふわりと香る。



「やるじゃねぇか。ガキ」



手をどけたゼロは上着を脱ぎ、嬢ちゃんにバサリとかけた。体の鬱血も出血も徐々におさまっていく。

ゼロの頬に汗が伝い、心なしかほっと安心したような優しい顔つきをしていた。



「まじ、かぁ…」



ほんとやってのけちまったらしい。


きちんと全身に魔力が通り、あの一点に溜まりこんだ魔力も消えている。念のために心音を確かめたが、何の異常もなかった。


馬鹿みてぇ。


こんな芸当見せられて、こいつに勝てる気がしねぇや。



「う、ぅぅ……」



体をゆっくり起こし、ぼろぼろと涙をこぼす嬢ちゃん。安心したんだろう。大きく息を吸って吐いて、その感触に身を震わせて喜んでいる。


己が離れた瞬間、嬢ちゃんはゼロに飛びついた。



「来んな!クソガキ!」


「死ぬかと思った!ゼロざぁん!ありがどぉぉぉぉぉお!」


「来んなっつってんだろうが!!」



まぁ嬢ちゃんも嬢ちゃんだ。


少しでも動揺したり動いたりすれば、それだけで死ぬ。ゼロを信じて、落ち着いていないといけなかったはずだ。

それくらい繊細な作業だったはず。なにせ心臓だし、荒れた心拍でうまくいくはずがない。

だからゼロも褒めたんだろう。珍しく。



「ゼロさぁぁぁぁん!!」



元気よく泣く嬢ちゃんを背中に、己は残った二人に状況を説明しにいく。

二人は二人で心配していたらしく、医療道具どころかベットが丸ごと運ばれていたりしていた。


己はそれに苦笑しながら、終わったことを伝えた。





ここから、ゆっくり進めまする~


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