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破壊の魔王  作者: Karionette
アガド攻略編 第二章 旅
118/340

05




遠くでルルクさんとゼロさんが穏やかに話をしている。



「嬢ちゃん!」


「もうできてるよ!はい!」



いいな。なんだかいい雰囲気だな。

ゆったりとしていて、隣のクガネも寝ちゃいそうじゃん。



「嬢ち…」


「はい!」



なのになんだこちらの忙しさは!楽しいけど、過酷すぎでしょう!?


男の人ばかりだから良く食べるし、みんな酔っぱらってるし、結構無茶言うし。


なにさ!魚を肉みたいに食べたいって!肉食べればいいじゃん!!


それにしても、こことゼロさんの関係ってなんだろう。熊おじさんの海賊団みたいなかんじかな。ゼロさんはやっぱり犯罪者だから、何かしら賊の人たちとは繋がりがあるみたいだし。



「ねーねー、そこのおじさん」


「んあ?」


「ゼロさんとどういう関係なの?」


「ゼロはここの恩人さ。ちょっとあって…まぁゼロのせいでもあるんだけどよ。その時助けてくれたのさ」



この飛空艇の操縦を担うという空賊さんはそのときのことをいろいろ教えてくれた。


ゼロさんが改造ならできるというのも驚きだけど、そんな小さいときにそれができる方が驚きだ。というか、壊れることが確定しているなら改造というより改悪か。


ゼロさんよ。幼いころから可笑しいよ、ほんとに。



「無茶苦茶な契約をしちまったけどよ。助けるかわりに動けって、内容も決まってないし。

でもゼロは無茶難題をこっちにふっかけたりもしなかったし、契約も今回で終わりだ。よくわかんねぇが、ゼロのなかでの等価交換がこれで終わるんだと。なんか本人にはわかるらしいぜ」


「そっか…ありがとう。はい、これお礼のデザート。みんなにあげて」



おじさんは大喜びでみんなに配膳しに行った。空の上では甘いものなんて中々食べれないらしい。喜んでもらってよかった。


みんなお腹もいっぱいだろうし、あとはちょこちょこ肴でも作ったら終りだろう。酔いつぶれた人のために果実水でも作っておこうか。


いや、もういいか。疲れた。さすがに。



「……って、うわ!?」


「なんだよ」



いつの間にか、調理場の前の席のカウンターみたいになっているところにゼロさんがいた。


片手にさっきルルクさんが飲んでいた琥珀色のお酒を持って、いつも着ている上着も脱いで、なんだかリラックスしている。



「どうしたの?ルルクさんは?」


「部屋に戻った。寝たんだろ」


「クガネは?」


「そこらへんに転がってる」



ちらりとさっきまでいた場所をみると、もふもふ尻尾がゆらゆらしているのが見えた。ほんとどこでも寝るよな。クガネは。



「今日、契約っていうの。初めて聞いた。わたしの時もしてたの?」


「ああ。お前裏切る気が無さ過ぎて、契約に対して恐怖心すらなかったみたいだけどな」


「うん。ゼロさんが怖かったし」


「うるせぇよ」



わたしは声を抑えて笑った。今気付いたけど、もうみんなうつらうつらしてる。ちゃんと起きてるのはわたしとゼロさんくらいだ。まぁそんな時間だよね。真夜中だ。



「あんなちっちゃいクソガキも用心しないとだめだったの?」


「……昔、記憶がねぇまま、俺は人がいる所へ行った」


「うん」



ゼロさんが昔話!?ちょっとアルコール度数高いんじゃない?いや高くてもゼロさんには効かない…でも目がちょっと眠そうだよね。



「言葉もわからねぇ、俺もしゃべれねぇ。そんなでもガキの俺を助けようとした物好きもいた」


「うん」


「俺は俺が始まってすぐに力の抑え方は心得ていたから、見かけじゃただの捨て子だ。ティナ持ちじゃなくてな。だから、そういう親切心の塊みたいな奴がいてもおかしくはねぇだろうよ。

飯に住処に…俺はまだ無力だったから馬鹿みたいに安心していた」


「…うん」


「俺がゼロだと知られた。知られたっつーか、当時は俺も初めて知ったんだけどな。

自分の子供にしてやると言った夫婦は俺を全力で殺しにきやがった」



ゼロさんは琥珀色の液体を、くるりくるりと回しながら笑った。机に体を預けて、遠い目をしている。



「俺の体は戦闘に長けてる。初めて見る魔法にも武器にも難なく対応できて、俺はそいつらを殺した。俺にはその時殺す以外選択肢が浮かばなかったしな」


「…それで、どうしたの?」


「どうもねぇよ。前に言ったろ。俺は誰を殺そうが、誰を傷つけようがどうもないってな。

だから俺にとって初めての殺しで、戦いでもあったけど、俺は何も感じなかった。というか、勝手に体が動いて終わってた感覚に近くて………ま、信用することは危険だと思っただけだ」



ゼロさんは残ったお酒をすべて飲み干した。



「だから俺一人で生きれるように世界を学んで人間を学んだ。言葉も聞いて見て覚えた。何が必要かもわからねぇから、片っ端から知識を入れこんだ。

その知識すら、信用できるかわからねぇし、人の口から出てきた言葉なんて、その最たるものだったからな。正しい情報を得るために嘘かどうかがわかるように学んで、魔力を見ることでそれをもっと正当化した。

ま、それでも状況次第で人間は簡単に心を変える。だから裏切られない保証なんてねぇから、結局信じたやつはいない」


「嘘だ。銀さんやクガネは違うでしょ」


「あいつらは根本が違ぇよ。人間じゃねぇから裏切るっつー概念がないらしい。


それでも、どうなんだろうな、俺は裏切られても対処できるよう準備はしてる。あいつらにはそれも伝えてるよ」



クガネはわかってるかどうか怪しいがな。

そう言ってゼロさんはくっくと笑った。



「わたしには、わからない」



アガドも恵まれた環境ではなかった。


でも、わたしにはシルクとウラガがいた。信じないなんてこと考えてもみなかった。逆に言うと二人以外は誰も信じてはなかったしむしろ敵だった。


もしも、ゼロさんのように、一番最初に信じた二人に裏切られて殺されかけたとしたら?


そうだったら、わたしも誰も信じれなくなるのだろうか。



「違ぇよ。お前は俺とは違う」


「心読まないでよ」


「お前は過去に何があろうが、それでも人を信じるんだろうよ。俺や銀、クガネを信じるようにな。

俺は裏切りを悲しいんじゃなくて、危険だと感じて、誰も信じなくてもいいように俺を作った。

お前はそうじゃねぇだろ。馬鹿みたいに悲しんで、また繰り返す」


「…うん」


「それで出来たのが契約。俺の中にあった強制力。契約を結べば、なんか相手は怯えて従うようになったからな。

破った奴もいたが…何故か知らねぇけど勝手に死ぬことの方が多い。自殺とか病死とか。

俺も破れば、なにかあるのかもしれねぇな」



なんともはっきりしない。はっきりしないけど、ゼロさんにとってはとても有効な力なんだろう。交渉とかの仕事もしてきたから、その有用性はわたしにもわかる。


ただ、結果的に植えつけるのは恐怖で、信頼じゃないのが、なんというか…。



「ゼロさん。良いこと思いついた」


「あ?」


「わたしと契約しよ」



机に突っ伏していたゼロさんが、がばっと起き上がった。


転がり落ちそうだった酒瓶をなんとか回収する。



「お前話聞いてたか?」


「なにが?」


「破ったら死ぬかもしれねぇようなものを結ぶとか馬鹿じゃねぇか。初めてだぞ。

この力を知ったやつに契約を求められたの。つーか、俺から契約を持ちかけねぇと発揮しねぇからな」


「そうなの?じゃ、持ちかけて」


「お前なぁ…」



項垂れるゼロさん。疲れた顔で明らかに馬鹿にしてる。


馬鹿でもいいさ。


でもその契約って、破らなきゃ何でもいいんだから、どうってことないと思うんだよね。



「わたしはゼロさんに信じてほしい。ゼロさんはわたしを信じる代わりに何をわたしにお願いする?」


「…そこを俺が決めるのかよ」


「だってわたしがお願いしてることだもん。じゃないと平等じゃないじゃん。伊達にルナティクスで仕事してないよ?わたしも」



お願いごとには、お願いごと。これが平等だ。



「あ。絶対にミスするなとかやめてね。信じるかわりに今後何も食べるなとかもやめてね」


「俺がそんなことするかよ」


「だよね。ゼロさんなら、わたしのお願いにぴったりのお願いをしてくると思う」


「そこまですることか?」


「そこまでって思う方がきっと変だよ」


「………馬鹿だな。お前」



ゼロさんが、やさしく笑った。

そして柔らかい沈黙が続く。


ゆっくり口を開いた。



「俺が出来る限り守ってやるよ。その代わりに、信じさせろ。裏切るな」



………あれ?



「そんなでいいの?ゼロさん大変じゃない?それに信じてって言ってるのに守ってももらうって変じゃない?わたしお願いされてない……」


「四六時中くっついとけねぇからな。できる限り、だ。俺の知らねぇ内に死んだりしてもしらん」


「あれ。無視か。うん、まぁ、わかったよ」



それほどゼロさんにとって信頼とは重いということ。それだけ大変だってこと。


うん。わかった。わたしも大切にしよう。



「それじゃよろしくね」


「約束は破らねぇよ。安心しな」



わたしたちは初めて、ぐっと固い握手をした。






魔王の手帳を消してしまった…

今、復旧中です

御迷惑おかけしてすみません


新しくブクマ評価頂けたら幸いです…



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