17
少し前の話。
「で。お前らどうやって戻るんだよ」
「「「…」」」
「おれはしらないぞ!」
「ここからルナティクスまでの距離、わかってるか?」
「そ、そうじゃな。2日程度かの?」
「馬鹿野郎。陸路で行くなら1年かかる」
「…ゼロ、ごめん。まったく考えてなかった」
「銀何考えてんだよ…」
ということで、帰る手段を失くしたわたしたちは、ゼロさんのお金を使って泊まることになった。銀の連合つながりとのことで、情報関係も問題なく、ゼロさんも泊まることができるらしい。追加で料金を払って、銀さんと会話もした。
『まさか石が砕けるとは思わなくてな。力を失っている今、これを基点にルナティクスへ戻すことはできん。ゼロの魔力で転移するか、表のルナティクスへ向かうかのどちらかだ』
「俺の魔力を宛てにすんな。何人分支払わせるつもりだよ。つーか一緒に行動しない方がいいだろ」
『的を得ているな。お前は少し派手に動きすぎてるようだ。軍も動き出したぞ』
「知るか」
『まぁそれはいいが、ルナ、リオ、イーリス、クガネ。確かにお前たちは目立ちすぎる。まとめて行動するのは避けた方がいい』
「別れていくの?」
『その方がいいだろう』
ということで、別れていく話になったんだけど…。
「絶対蝙蝠女とは嫌」
「妾とて狐とはごめんじゃ!」
「うるせぇ。言うこと聞け」
効率の問題でルナとリオは一緒にいないといけなくなったのだ。なにせルナは夜じゃないと動けない。曇りや雨の日なら大丈夫だけど、ちょっとでも晴れたら死んでしまう。それを防ぐにはリオがいないといけないのだ。
というか九尾はなんで天候まで操れるんだろ?という話だけど、どうやら九尾は妖狐としての一面と、神様としての一面があって、人にとって崇められたり恐れられたりと忙しい生き物ならしい。天候とかはその崇められたりーの力なのだそうだ。
ともあれ、ルナとリオが一緒となれば、わたしとクガネが一緒になる。この世間知らずコンビが一緒なんていいはずもなく。
「………ガキ2匹が俺と来るのかよ」
そういうことになった。
クロちゃんはリオに頼み込まれて、リオと一緒にいくことにしたらしい。不憫だ。
「たびだ!たのしみだな!」
「うん!わたしも来たことないからね!!」
「うまいものあるか!?」
「あるかもね!!」
わいわい。がちゃがちゃ。
「………」
ゼロさんの機嫌が悪い。
眉間にはずっと皺が寄ってるし、めんどくさそうに煙草を吸いながら寝転がってる。部屋も安全面を考えて二部屋になったのだ。
「おい、ガキ」
「もう子供じゃないもーん」
「じゃあ、女」
「え。なんだろう。すごい嫌だ、それ。名前は?名前じゃだめなの?」
「わかりずらいだろ?銀とかクガネみたいな簡単なやつにしろよ」
「ゼロさんの頭の良さで、名前覚えられないとかないでしょ」
「色関係が分かりやすい」
確かに銀さんは銀色だし、クガネは金色だし、クロちゃんはそのまんまだけどさ!
くそ、改名してやるか!
「いーりす。ぜろはな、なまえでよぶのいやなんだ」
「ん?どうして?」
「しろはおぼえるのがいやなんだろうっていってたぞ」
ゼロさんを見る。ベストなタイミングですっと目を逸らされた。
「………人間は簡単に死ぬし、殺すことも多いからな。覚えるだけ無駄だろ」
「ふーん。ちょっと嫌なんだ」
「なにが」
「誰も覚えてないこと」
「……」
「誰も覚えてないのに新しい人だけ覚えるのが嫌なんだ」
そんな顔したってわかるもんね。
なんとなくそんな気がするんだもんね。
「お前昔からそういうところあるよな。殺したくなる」
「ちょ!?物騒!」
「意味わからん奴は消しときたくなる。悪魔の性質かな。俺の性質かな」
「悪魔の性質であることを切に願います」
「ぜろっぽいけどなー。おれよりもできるやつはたおしとけってことだろ?」
「ちょっとクガネ。黙ろうね」
獣耳をみーんと引っ張ってお仕置きタイム。
といってもクガネは痛みに鈍感すぎるところあるから平気ならしい。今日も結界に頭をぶつけた後、頭突きで割ろうとガンガンやってて、そのせいで自分の頭が血だらけになってることなんて気づいてすらなかったみたいだし。
ただ引っ張られるのは、長くなりそうで嫌ならしく、今やお仕置きには耳である。
あうあうと鳴くクガネを見ながら、ため息交じりにゼロさんは口を開いた。
「ガキ。とにかくあの魔力の受け渡し。前もいったけどあんまりすんな」
「………ん?」
「お前わかってねぇのかよ。過剰に魔力をいれるってことは、風船を破裂させようとしているのと同じだろ。核の傷は戻らねぇ。毎度破裂しかけてたら、いつか砕けるぞ」
なるほど。
そうか。だからゼロさんは前にもうするなって言ったのか。
確かに感覚的に、乱用するとやばいだろうなーっていうのはわかる。
そっかー。そうだよねー。
「うん。わかった」
「結果がどうでも変わらねぇって思ってんだろ」
「うん」
そう言われたって、そういう時はそうするしかないもんね。
「どうにかなるときにはすんな。堕ちかけてる時だけにしろ」
「うん。でも銀さんがそうしたってことは、きっとやらないと大変だったんだろうね」
「……まぁそうだな」
若干不満げに頷くゼロさん。
それにしても久しぶりだ。
髪が少し伸びたくらいでそんなに変わらないけど、煙草吸う姿とかほんと久しぶりな感じがする。こんなことなら作った煙草の一つや二つ持って来ればよかった。
そうだ、ここの厨房を借りてご飯を作ろ…
「いいから休んどけ」
止められてしまった。ちっ!
まぁクガネもいつの間にか寝ちゃったし、美味しいもの勝手に食べたりしたら悲しむか。クガネ、一度寝たら起きないし。
「ゼロさんは寝ないの?」
「お前が寝たらな」
「用心深いなぁ、もう」
ゼロさんは寝てても物音ひとつで起きる。寝てるところを襲おうものなら、死ぬ危険性がある。
前、遊び半分で上にのっかってやろうとしたとき酷い目にあったもん。ゼロさんが背中を預ける!って感じになるのクロちゃんだけじゃないかな?
「ほら、寝るよ。おやすみ、ゼロさん」
「ああ」
よしよし。寝たふりをして、ゼロさんが寝る瞬間を見てやろうじゃないか。
長い付き合いなのに見たことないからね。ふふふふふ。
わたしだって成長したんだ、から、ね。