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破壊の魔王  作者: Karionette
アガド攻略編 第一章 一年後
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15




「!」



ゼロの反応は早かった。


目を向けるよりも早く、大鎌を天にむけて振り抜く。


そこに現れた2対の剣は激しい音をたてて弾かれた。



「…あ?」



ゼロの前にいるのは仮面の人間。


白い飾り気のない仮面とフードをかぶった人間だった。


何気なく、己の鎌を握りなおすゼロ。


鎌に受けた一撃は重く、ティナ持ちを凌駕するほどの威力だったのだ。



「仮面の」


「仮面」



双子が立ち上がる。

ゼロの使用した技、色欲(アスモデウス)は精神を破壊する技だ。


それぞれの恐怖を煽る幻覚を見せ、逃れられない悪夢から精神の破壊を行う技だが、少しでもゼロの集中が切れれば終わる。

この技を使いながら戦うことはできない。


ゼロは立ち上がる教会の敵を見て、小さく舌打ちをした。



「教会の方々。お下がりください」



仮面の男は短く伝え、次の瞬間にはすさまじい速度で、ゼロに斬りかかった。反応ができるほどとはいえ、魔力の動きよりも早い動きにゼロは目を見開く。


ゼロの戦闘方法は、魔力を見ることによる先読みが多い。それが追い付かないほどの速度を目にすることは早々ないものだった。



「ま。あのイヌもどきで慣れてるがな!」



剣と鎌が打ち鳴らす。

火花が舞い散り、離れようとする相手の刃をゼロの腕が止めた。


籠手を着けたようなその手で、相手の刃を握り込み、ゼロは力に任せて体制を崩しにかかった。

しかし、仮面の男も容易にそれに流されることはなく、一瞬で剣を手放し稲妻の走る脚でゼロの肩を穿(うが)つ。

反動で離れた男は地面に手をつき、新たな剣を作り上げる。



「…2属性持ちかよ」



闇に堕ちた赤い目でゼロは嗤う。


蹴りを受けた肩は焼け焦げ、威力のために骨が砕けそうだった。当てる位置をずらして大事には至っていないとはいえ、直撃すればただでは済まなかっただろう。ティナ持ちの自分の体が、だ。


また、魔法の発動の速さ。柔軟さ。動きの対応力。そして魔力が流れて発動するまでの時間が恐ろしいほどに短い。


これが単なる魔法使いならば、魔法攻撃の破壊に専念するだけでいい。しかし、あの2対の剣。龍剣を破るほどの剣術をないがしろにするわけにはいかない。



「お前アルテマの人間か」


「………」


「答えろ。アルテマは俺の何に関わってる」



ゼロの左腕に矢が刺さる。

ゼロはそれに見向きもせず、緩慢な動作で引き抜く。



「俺の何を知ってる?」



降りそそぐ矢も、体を蝕む呪文も意を返さず、ゼロは仮面の男だけを見て鎌を薙いだ。体に矢が刺さっても、体の溶けていく音を聞いてもそれは変わらない。


やっと見つけた手がかりを、手放すつもりはなかった。


それに対して仮面の男は何も言わない。


何も言わずに、剣速を極め、更なる連撃を繰り出す。打ち合い、散らし、組みあい、離れ……周りを圧倒するような戦闘が続く。


状況はゼロにとって不利なものだ。


血の滴る体からは魔力の枯渇が始まり、闇に堕ちた目は更にその狂気を高めた。


進みすぎれば、戻れなくなる。

それでも、ゼロは止まることはなかった。


剣撃を真っ向から受け止め、男の目だけを離さない。何かを語るまで、何かを知るまでやめるつもりはなかった。



「っもう、やめてくれ…」



剣激を止めたのは、仮面の男だった。



「何も、聞くな。何も、知らないでいい。早く、体を戻せ。頼む……」


「あ?」



息を荒げ、血の滴る体でゼロは変わらない目で睨む。闇に落ちた紅の眼は怒りを灯した。



「意味が、わからねぇ」


「それでいい。そのままでいい」



瞬間ゼロの姿が消えた。



「ふざけんな!!」



己の血で染まった右腕で剣士の胸倉をつかみ、原型を失いつつある左で殴りつける。仮面にはヒビがはいり、男の口からは血が散った。

そして血潮を散らせながら、爆発したかのような闇が辺りを包み、そのまま仮面の剣士を大地に引きずり倒す。おぞましいほどの闇とゼロの迫力に、神に祈る声すら止まった。




「俺に今まで起きたことも、これから起きる意味も知らないで、そのまま耐えろって言うのかよ!

俺を殺した()()を知らないで、夢にまで出てくる女を無視して、毎日狙われて殺されかける毎日に納得しながら、生きろと?


ふざけるのも大概にしろ‼


俺のことだ!俺が起こした、俺に関することだ!知らないでいいなんざお前ごときが決めんじゃねぇ‼‼」



悲鳴のような、苦痛が混ざった怒声。


辺りは静まり人の手を止めるのには十分なほどだった。



「俺はティナ持ちだ。いつかは壊れる」



戦場の真ん中で、血の流れ続ける体のままゼロは続ける。



「ティナを得るほどの……殺される理由くらい…死ぬ理由くらい知ってから死なせろ」



ゼロの下敷きになっていた仮面の男は、割れた仮面の下で目を見開くいた。


そしてその青緑色の目から涙をこぼした。その目は輝きを失った、機械の目のようだった。



「ごめん…」



男はつぶやく。



「ごめん…、ごめん…」


「だから、お前は何を…」



ゼロの言葉が途切れる。力のほとんどを使い果たしたゼロの背中には一本の矢。教会の射手は体勢を立て直し、続きを始めたのだ。


ゼロの体からぐらりと力が抜ける。


仮面の男は、自分に向けて倒れるゼロに慌てるが、ゼロは寸前で持ち直し、男に再度拳を放った。



「くそ、が…!!」



胸にほど近い位置に刺さった矢を破壊し、血の吹き出す体で立ち上がろうとするも、順に手足を穿たれていく。遂に立ち上がることができず、ゼロは地に膝をついた。



「仮面を守れ」


「仮面を死なせるな」



射手の手は止まらない。

動かなくなったゼロの前に、仮面の男は飛び出そうとした。


その時だった。



「があああああああああああああ!!!」



激しい獣の声が空から降りそそいだのは。




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