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「しろ!はなしだ!」
扉を開け放ったのはクガネ。改まって何の用かと思えば話、か。クガネにしては珍しい。
「どうした。手短に話せ」
「おれもいーりすをたすける!」
「………ああ、そういうことか」
クガネが外に出る。
私でも、正確にクガネが何者かはわからない。何度も調べたがその全てが新種を示していた。
いくつもの生き物の要素をはらんだ姿はキメラにも思えるが、それにしては、人の色が残りすぎている。
「私はお前に外に出るなとは言ってはいない」
「う?でもしろはいやなんだろ?そんなにおいがするぞ」
「この場所のこと、そしてお前自身を考えれば得であるとは思えんからな」
クガネは4つ足で歩き、私の足元で膝を立てた。足の間に両手を置いて、まるで犬のような仕草である。
「おれはあぶないか?」
耳を垂らして不安気に目を伏せる。その頭をなでるも、血の気のない私の掌では温度さえ伝わらないだろう。
「私は誰も縛るつもりはない。自由にするといい」
「でも、おれはみんなをあぶないにはしたくない」
「ゼロを見習え。あれくらい奔放に生きることもできるだろう」
「あぶないは、きらいだ。おれはもうひとりはいやだ」
気落ちしたクガネにいつもの溌剌さはない。イーリスのことを諦めることも、皆を危険にさらすことも、どちらもできないのだろう。まるで年相応の子供のように迷った表情だ。
解決策か。
「ならば私もいこう」
「!?」
びくんと体を跳ね上げる。
垂れた耳も天に逆らうように立ち上がった。
「しろが?ここじゃないとだめじゃないのか?」
「指示くらいならできる」
「でもけがとかだめだ!おれはしろのけーごもしてるんだぞ!」
「そうか。頼りにしている」
そっとクガネと離れ、私は窓の外を眺める。
裏のルナティクスと表のルナティクス。
この窓からはどちらもを空の上から眺めることができた。こうしていると、龍の姿だったころを思い出す。
あの頃は目下にいる命のこと、こんなにも重く考えてはいなかった。死んだ我が友が訴えていたことが今ならわかる。
「しろ?」
「クガネ。心配するな。ゼロがいる。
あいつが自身の目的のために動くときほど、頼りになるときはないだろう?」
「……う!」
「ついてこい。作業の合間に面白い物を作った。遊んで来い」
走り寄ってきたクガネの額に触れ、ある場所へと転送する。とはいっても意識のみで、肉体はここで眠っていた。
龍の記録の一部を伝えるのは禁じられているが、それは生き物に限ったこと。
クガネは生物ではない。
私は拍動のないクガネの胸に手を添え、暖かな毛皮の中にくるんでやった。