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「魔法陣とは簡単に言えば、人間が魔法を放つ仕組みを図式したものだ」
銀さんが床に手をあてると、その瞬間にぱぁっと光り、床には複雑な模様が描かれた魔法陣が出てきた。
「まず陣を描くのに魔力などの力はいらない。特殊な道具も原則は不要だ。
必要なものは“理解”。単にこの図を描けば発動するというものでもない」
「魔法の理解って、何を理解するの?」
「すべてと言っていい」
全てか。銀さんの言うすべてって範囲が広すぎて想像もつかないんですけども。
「魔法陣は、人間が魔法を使うのと同様のことを魔法陣で行う。
魔法陣が意味しているものは、人間の肉体であり、肉体では行えない媒体だ。
魔法の属性、魔力をためる核、組み合わせ、考える頭、発動する手足、循環…。それらを描くために、あらゆる知識が必要だ。
単に発火するだけの魔法陣でも、魔法陣で描くのは炎属性の魔法を放つ人間そのものであり、その仕組みとなる。
魔法陣の強みは、人間という命を使わなくてよいことだ。
例えば、戦場の真ん中で爆発魔法を、魔法の使い手の中心として全方位に放つとする。そうなれば、使い手本人もただでは済まないだろう。
ただし、魔法陣ならば人命を失う心配はない。魔法陣は爆破されて、跡形もないかもしれんが、命を失うことはないだろう。
次点として維持できることだ。
永遠の炎を望んだり、水を望むことができる。設定した魔力が続く限りにはなるが、魔法陣は人間という魔力を持つ存在ではなく、マナを魔力へ変換し、利用することができる。組み方によれば、ここのように永久に水源を保つこともできる。
そして複数属性の組み合わせが可能であること。人間は、基本的には1種の魔法しか利用できないために自由度は低い。魔法陣ならばその限界値はない。5種すべてを利用することも可能だ」
ふあああああああああああ!!ながいいいいいいいいいいいいいいい!!
「つ、つまり、魔法陣は人間事態を陣として書くもので、いっぱい属性もたせたりもできるってことでいい!?でも人間じゃないから怪我もしないし、消費もしないってことだよね?」
「その認識でいいだろう」
よしっ!
「欠点は多い。まず難易度が高い。
魔法陣に正解はなく、核を意味するものを文字で核と書くことも模様として描くのも、自由だ。しかしそれらは、バランスよくつながっていなければならない。1ミリのミスでも魔法陣は発動しなくなる」
「…ん?」
「Aという魔法に必要な魔力量、それに基づいた核の大きさ、発動に必要なパイプの長さ・太さ、属性の強さと割合、周りの環境への対応…それら全てが少しでも違えば発動しない。
つまり、魔法陣においては人間が魔法を放つのとは違い、余裕を持たせることも節約することもできないということだ。
また、当人が描いたものを他の者は基本的には利用できない。
その当人の理解の上で、作成されたものだからな。他人の作った魔法陣を利用するということは、画家の描いた絵のすべてを、誰かにわからせるようなものだ。使った色や描きたい想いなどすべてな」
「む、無理、だね…。でも銀さんの作った転移魔法陣は?」
「この転移魔法陣は、私が作成したものだ。単純に、踏み入れた者を別の箇所へ転送する魔法陣であるため、これを移動装置として利用することは誰でもできる。
しかし、これを発動させているのはあくまで私だ。“ここに入ったものを移動させる”という設定を私がしているため、誰でも利用はできているが、誰もこれを停止させることはできない。
作成者である私には、これを少し調整するだけで、私のみしか移動しないものや私の前にしか移動できないものにすることも可能だが、他者には不可能ということだ。
これを個人で利用しようとしても、先ほど言ったように発動はしない。学ぶことも不可能ではないが、相手の考えを1ミリも違えずに理解する必要がある。それは実質不可能だろう」
はい。無理です。ましてや銀さんの考えを理解するなんて脳みそがいくつあっても足りない。
ゼロさんが100人いても足りない気がする。
だって龍だし。
「加えて魔法陣は脆く繊細だ。一部でも欠ければ発動しないどころか、何が起きるかわからん。傷を癒すためのものが毒を吐くことになるのこともある」
「魔法陣難しすぎる!!!」
「そういうことだ。だからこそ、それを補うものとして魔道具が開発された。誰もが魔力を込めれば利用できる。化学や技術で補っている分が多いために、使いやすく量産もしやすい。
欠点として魔道具における魔法の要素はあくまで魔法だ。炎や水の代理を、魔力が務めているだけ。転移魔法のような大規模のものは不可能だ」
「ちなみに転移魔法陣って他のところにもあるんでしょ?」
「たしかに転移魔法陣は、世界中で利用はされているが、私のものほど遠方に移動できるものはない。魔法陣事態を書ける人間も少ないからな。アガド牢獄のような重要施設内や、都市にひとつあればいいほどだ」
「魔法陣書ける人がいっぱい書くのは難しいのか」
「どんな画家でも、まったく同じ絵を何枚も書くのは不可能ではないかもしれんが困難だろう?複製という方法もあるが、それも全く同じでは無いために、危険が多い。私もその技術の流通は許していない」
たしかに。
「シルクという者が行ったのは、すでに完成した魔法陣に対してアクセスし、その転移場所だけを変更させること。その術式さえ目視できない状況で行ったとなると、笑いたくもなる天才だ」
お。おおおおおおおおお。シルク!天才のなかの天才に褒められてるよ!龍に褒められてますよ!
「そして、そうなるとシルクはアビスシードではない。罪人の可能性が高くなり、アガド牢獄に携わった人物とも考えられる」
「………へ?」
シルクが罪人?あんなわたしと背丈も変わらない子供が?いやいや、そんなのウソだ
「アガド牢獄では魔法の使用はできない。そこで生まれ育った、お前のようなアビスシードは魔法の知識も一切ない。当たり前のことだ。
私は言っただろう?理解がなければ描けないと。
つまりお前の友人は魔法に理解がある。魔法に理解があるということは、外の世界にいたことがあるということだ。
そして見たこともない魔法陣を改変させたとなると、その魔法陣事態に携わっていた可能性が高い」
わたしは言葉もでなかった。何で気づかなかったんだろうと思った。
あんなに知識があって、魔法にも詳しくて、オトナにも頭脳で勝てるというのに。
それは、シルクがわたしと同じだと思っていたからだ。同類だって、仲間だって。
でもシルクは犯罪者……。
「いや。どうでもいいけどね」
「そう言うだろうと思った」
銀さんはふと優しく笑った。
でもさ。犯罪したならしたで、そうと言ってくれてもいいよね。シルクのやつ。
魔法陣
めっちゃ難しく
書いた人しか使えず
作り方次第で何でもできる
魔道具
簡単だし
誰でも使えるけど
道具次第だから何でもではない
こんなかんじです