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破壊の魔王  作者: Karionette
アガド攻略編 第一章 一年後
102/340

07




「まずはアガド牢獄内の地図だが、これで正確かを確認してもらいたい」



銀さんが指を一振りすると、わたしの前には巨大な映像が浮かび上がった。

地図というのだから平面のものを想像していたのだけれども、浮かんできたのは立体的な図。


……いや、だめだ。こんな骨組みの模型みたいなのを見てもよくわからない。



「そう言うと思った。視点を変える。ここが投下地点。そこから見えるものを映す」



その言葉と同時に映し出された道。

横は壁、前はごみと書かれた巨大な模型、後ろにも道がある。


懐かしさからぞっとした。



「できるだけ内部の再現をしたい。どこになにがあるか、できるだけ細かくに教えてくれ。既に聞いているものは作ったが、なるべく正確なものにする」


「……わかった」



なんだ。このアガド牢獄体験システムみたいなの。常識外れも大概にしてくれ。


…と思っても、どうせばれるので声に出して言っておいた。笑われた。


それから壁の傷から色まで事細かく説明する。あそこから脱獄してもう暫く経つのに、生まれた場所というのは、なかなか忘れられるものでもないらしく、鉄格子の折れた場所から、隠れるのに適した横穴、誰かが掘った名前。そんなことまで説明した。いやー、こうして実際体験すると色々出てくるね。



「ここはね。ウラガが暮らしてたところなんだって」


「……ほう?」


「暮らしてたというより居た場所かな」



だって、そこ拘束所だし。アガド牢獄という大きな牢屋の中にある牢屋だし。



「ここはシルクがいたところ。シルクはここで生きてたらしいよ」


「…………いよいよお前の仲間たちは人から外れた者になってきたな」


「え?」


「そのシルクという者。居た場所は立ち入れないほどの毒素に満ちた場所ではなかったのか?」



……あれ!?



「お前にとってはどちらでもいいのだろうが」



いや。どちらでもいいっていうか、そんなこと考えてもなかったっていうか。


そうか。まぁシルクはともかく、ウラガは強かったしな。ほんとに。

子供なのにオトナ倒しちゃうくらいだし。シルクも頭よすぎたもんね。うん。


まぁいっか。どちらでも。



「でね。えーと、ここにはね。変な絵があって…次は」


「待て」


「ん?」


「どんな絵だ」


「どんな………」



どんなだったかな。



「棒人間ばっかりだよ。確か。

たぶん誰かの気まぐれで描いたものが、増えてっただけだと思う。大きさも長さもバラバラだったし、そういう絵って珍しくもなかったからなー」


「…そうか」


「一番大きな絵ならこっち。まっすぐいって、次を左…あ、ここらへんかな。ここに大きな顔の絵があった」


「顔?」


「普通の顔だよ。男の子、女の子、男の子っていっぱい並んでた」


「……その付近にそれを描いたものはいたか」


「描いた人は知らない。ここにいる人はみんな頭おかしかったし」



何せ言葉すらしゃべれない人ばかりだった。うーあーうーあー言ってて、襲い放題だったし。


意味もないことをする人が多くて、今になれば毒素にやられたんだろうなってわかるけど。



「今…ウラガとシルクはどこにいるんだろう」


「わからんな。身の安全をとるなら、その毒素に満ちた箇所にいる可能性もある」


「え。入っちゃダメって言ってたのに」


「その二人は例外かもしれん。お前は入ったらダメなんだろう」



それからもアガド体験ツアーは暫く続き、いよいよわたしが脱出したルートの説明になった。



「再現度たかいよ」


「かわりに時間を要した。すまない」


「いやいやいや」



銀さんがほかにもいろいろやってるの知ってるし、文句なんてひとつもないですよ。

表と裏のルナティクスの運営に、道具や魔法関係の整備に情報の収集に…。一つの体で済むことじゃないと思ってます。ほんとに。



「えっと…」



順に説明していく。


ごみが捨てられるところしか穴がないアガド牢獄において、何故かその日は外に通じる道ができた。

それをシルクが知っていて、その道を狙って走る。もちろん見張りがたくさんいたけど、それはウラガが倒して向かった。


結局は追いつかれて、二人が足止めになって、わたしだけが脱出した。



「どのルートを行った」


「えっと…こういって、こういって…地の利はあるからね。撒こうと思ってこういって…」


「理があるならこの横穴に入るべきだろう。追手は知るはずがない」


「……確かに」


「いや、すまない。続けてくれ」



それからわたしは走ったルートをなぞる。

こうして冷静に振り返れば、絶対にこっちに行った方がいいと、わたしでさえ思うことが何度もあった。

そもそもどうして、隠れたり待ち伏せしたりしなかったんだろう。傷だらけだったのに。多少休んでから、頃合いを見て飛び出してもよかったはずだ。



「なるほど。そのシルクというお前の友人、興味が出た」


「ど、どうしたの?うちのシルクが何かしました!?」


「いや。ただ飛びぬけて優秀なだけだ」



首を傾げる。


シルクは確かに頭脳派だ。めちゃくちゃ頭がいい。

でも銀さんほどではないし、ゼロさんほどでもないと思うんだけど。



「まず脱獄した当日、あれはアガド牢獄の壁の調査日だった」


「壁?」


「耐久度の調査だ。アガドのリセット方法は単純だ。大量の海水を牢獄内に満たし、そのまま、ごみも人も砕いて海に流す。その水流に壁が耐えれなければ一から作り直しになる。

それを避けるために壁の強度を調べた。もちろん囚人たちに知られることはない。秘密裏に進められた計画だ」


「ふむ…」


「外部の人間が入り、そして外部へと戻る唯一の日。牢獄と外がつながる日だ。つながるのはここと、ここ」



銀さんの示した箇所がふわりと黄色く光る。


ひとつはわたしが脱出した場所で、もう一つは地上に近いどこかの部屋。



「ここは兵舎とでも言おうか。アガドの戦力の集まる場所だ」


「ええ!?」


「万が一でも囚人が外に出た時の対策だ。その場合は即座に殺すことになっている。


もちろん、イーリスはそんな場所へは出ていないだろう。出たのは全く別のこの箇所。中途半端な道の途中だ」



銀さんが示す場所。ほんとに何もない道。



「…うん。えーと。どうして兵舎じゃなくなったんだろう?」


「この逃走ルートだ。お前の友人は魔法陣の書き換えを行っている」


「書き換え?」


「転移魔法陣の座標のみの変更。さて、どうやってその知識を身に着け、それに至ったのか…。興味が尽きんな」



銀さんは長い指を顎に添えて、微笑を浮かべていた。


ちなみにゼロさんが潜入したのも、この日アガド牢獄と外とがつながる日だったからだ。もともと、ゼロさんはわたしのようなアビスシードの調査のために潜入した。そのためには牢獄内に入らなければならず、この日しかそれはできなかった。


転移魔法陣にもいろいろあって、あの魔法陣はなにか条件が適用されないと発動しない。いわば鍵がないと開かない扉だったらしく、その日だけは鍵が解かれていたのだ。


ゼロさんは普通に兵舎から入って、兵舎から出る予定だったのだそうだ。結果はあんなことになったけど。


それにしてもあの逃走中に、シルクがそんなことをしていたなんて。



「銀さん、そもそも魔法陣って誰でもできるの?」


「不可能だ。魔法陣は高難易度の魔法の発動や複数属性の魔法、それらを可能とする式だ。

簡単なもので説明しよう」



嫌な予感が。

自分で招いたものだけれども、これはおそらく…勉強タイムだ。



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