02
太陽は能力を奪う。
純粋な筋力や体力に、感覚もだ。
「!!」
ガキに魔法が直撃し、強風で俺は吹き飛ばされた。発動の予兆さえ感じさせない魔法。
腕を突き立て勢いを止める。岩山に爪痕が残った。
誰がやった?いや、わかってる。それよりもあのガキだ。高威力の雷魔法をくらって無事でいれるか?あいつ。
「めんどくせぇ…!!」
物々しい騒音と共に空に飛空挺が現れ、そこから3つの影が飛び出す。その影のひとつは一直線に俺のもとへ飛んできた。
「ぜぇろぉぉぉぉおお!!」
上空から落下しながらの一撃は半歩身を反らして避け、追撃のナイフは手の甲で弾いた。そのまま当人は爆音をたてて地面に刺さり、間もなく無傷で立ち上がった。
「はろう!ゼロ!」
「よぉ、ゾンビ。今日はやけに調子よさそうだな」
「ゾンビじゃないよお、アンデッドだ」
「同じことだろ。腐った不死者が!」
褐色というには無理があるほどの土色の肌。白く濁り、開りききったままの瞳孔。髪はなく極限にまで痩せ細り、落下の衝撃で粉々になった体を元に戻しながら立ち上がる。
不死者のティナの所有者。
「どけよ、死体が!バラして埋めるぞ!」
「…あれぇ?なんか怒ってるし、そういえば無傷だ。隊長の雷砲は?あたってないの?」
細首がガクガクと揺れながらつながる。
ち。この馬鹿に付き合ってる暇はねぇ。死なないモノをどれだけ破壊しても終わりはない。
周りに魔力が集まってきた。連中もお揃いならしい。
「軍犬どもが」
現れたのは攻撃魔法の嵐。即座に闇で破壊し、高速で貫く槍を剣で受け止め、潜り込まれる前にアンデッドを蹴り放す。
「おいおーい、兄貴の魔法をくらって無傷っすか?」
槍使いがひゅーっと驚きの音をあげる。槍をへし折る前に風魔法で即座に離れていった。
チャラチャラした茶髪軽装備。サポート、槍、風魔法。
「当たってねぇんだよ。そいつじゃなくて別の何かに当たっちまった。
おかしい、あの魔法はこいつの魔力を追ったのに……。精度、あげたつもりなんだがなぁ」
渋い面した髭面ジジイ。司令塔、雷魔法。
「おい、ゼロ。どんな身代わり用意した?」
「ちっせぇガキだよ。正体不明のな。軍人がガキ殺していいのかよ」
ちんたらやってる場合じゃねぇな。あいつの死体だけでも回収してさっさと逃げるか。
「子供?そりゃぁ、ちと、堪えるなあ」
「ええー。ゼロが子供つれてるなんて、嘘っぽい」
「まぁ仕事優先だ、仕事。だから兄貴……そんなへこたれんなよ」
「いや、へこたれる。子供は駄目だな……」
そう項垂れながらも岩を砕く雷撃が走る。闇で相殺し剣を振るうも、風使いがジジイを風で即座に移動させて回避。で、死んでも死なない馬鹿が、味方の風も雷もくらいながら特攻。
あ"ー、めんどくせぇ。ほんとめんどくせぇ。
「邪魔だっつってんだろうが!!」
ゾンビを地面に叩き潰し、周囲に円を描くように闇を放つ。やつらは風で逃げる。それを破壊し、剣を薙いだ。
雷が体を貫かんと走る。その前に闇で破壊。剣は相手の槍を砕くだけで届かない。
「おい、ゼロ。お前まさか結構魔力使ってんのか?」
雷が放たれる。追尾するそれを闇で防いだ。
「お前はほんと底知れない奴だが、太陽のせいだけじゃねぇよな、その弱り具合。もしかして捕まってくれるのか?」
「なわけねぇだろ。くそジジイ」
力を使うには魔力を消費する。こいつの言う通り、残りの魔力は減ってはいる。
だからなんだっつーんだ。
「来いよ。そこまで邪魔がしたいなら相手してやる」
高まった魔力がこちらを向く。俺もそれに応じるべく、意識を集中させた。
何か、動いた。
こいつらじゃない。なんか、小さい、動物みたいな……。
………動物?
この殺気が渦巻いてるところで?
「やれぇ!!」
号令がとぶ。
絶妙なタイミングだったと思う。確かに俺の意識は少しぶれていたし、チームの魔力も合わせたかのように全員が最高潮だった。
だがそれは一番隙のあるタイミングだ。言いかえると俺にしか目がいっていない時だから。
ガゴッッッッッッ!!!!
「…え?」
「ほ?」
「わぁ」
そいつは息を潜めて上から飛びかかり、両手に持った岩に全身の体重をのせて打ちつけ、倒れるジジイと一緒に頭から落ちた。それから、片手を地につけて華麗に回り、軽々と着地。俺をかばうかのように真ん前で。
「………猫かよ」
「え?猫ってなに?」
ソイツは明るい髪を夕日に染めて、こてんと首をかしげた。