第二章:異能力有(エクステンス)上
第二章です、能力を手に入れた恍太郎が新天地に行きます。
ここから、様々な人物と出会い始めます!
―異能力有は異能力無に対して異能力を使用することを禁ずる。この校則を破った者は、一ヶ月の停学処分と処す。―
突如として手に入れた異能力を同じ異能力無であった、佐野、高瀬、高木、小坂の4名に使用したことによって一ヶ月の停学処分を受けていた。
(あれが僕の異能力……)
自分の右手を上に翳しながら、学園での出来事を思い返していた。
その出来事は彼にとって今までの生活を大きく変えることとなった。
停学処分を受けてちょうど一ヶ月、久しぶりに通う学園に恍太郎は期待していた。
異能力有となった自分に逆らう者があの教室にいるのか、しかし、現実はそう甘くはなかった。いや、当然のことだった。
久しぶりの教室着くとそこにに恍太郎の席は無かった。あったのは黒板に張られた一枚の紙のみ。
―榊 恍太郎、貴殿を本日より、ブリランテへ編入することを許可する。―
ブリランテ、それはエクステンスにのみ入ることが許された場所。
以前の恍太郎を含む異能力無が通う校舎は一般科(別名B棟)と呼ばれ、国語、数学、社会学等の一般高校の普通科と同じ一般教養のみを受ける内容となっている。
それと対照的にブリランテ(別名A棟)は一般教養+異能力の基礎知識、使用方法、応用知識等、異能力有として将来活躍する為の授業内容となっている。
「おい、アイツ、あっち側行くんだってよ」
「この前まで能無しだっただった癖によ」
「一体、どうやって手にしてたんだよ」
「あ、もしかして元々異能力有で能力使えないフリして俺らを影から嗤ってたとか?」
「うわ、めっちゃ性格悪いやつじゃん」
ヒソヒソと周りのクラスメイトが陰口を言っているのが聞こえる。
自分の事を気味悪がる者、憶測で話す者、あることない事が口々に飛び交う空間の中でただ一人黒板の貼り紙を見つめていた。
ガラッ
教室のドアが開き、見てみるとクラス担任の小倉がそこに立っていた。
「あ、さ、榊君、君は今日からここのクラスではなく、A棟側の教室にい、行ってもらう」
小倉の発言は以前の様な威勢のいいものではなく、おどおどして挙動不審なものに変化していた。
「ちょっといいかな」
小倉の後ろから低く野太い声が聞こえる。小倉がは、はい!っと裏返った声を出し右にずれると長身の 見知らぬ男がそこに立っていた。
「初めまして、榊 恍太郎君。私はここの学園の校長龍宮寺という者だ。彼の言葉にもあったように今日から君はブリランテだ。頑張ってくれたまえ。」
肩をポンと叩かれ恍太郎は口を固く結んだ。
今まで馬鹿にされていた自分が、今度は馬鹿にしていた者達の上に立った。
その事が恍太郎の中で優越感として漂っていた。
「ブリランテまで私が案内しよう」
龍宮寺が着いてくるように伝え恍太郎を隣の校舎まで案内をする。
「どうかな、学校生活は、もう1年経ったが慣れたかな?」
恍太郎は、言葉を返さず黙って後を着いていく。
今まで話そうとも思わなかった人物が、突如、力を手に入れたら、媚びるように話を掛けてくる。その事が恍太郎の中で怒りにも似た感情になり心の中に募っていく。
思わず両手に力が入り強く握りしめてしまう。
「どうした?榊君、エリートたちの仲間入りになって少し緊張しているのかい?」
恍太郎の張りつめた表情が龍宮寺に伝わり、声を掛けられ、思わずはっと我に返る。
「い、いや、何でもありません」
「君がどうして、異能力者であることが我々には分らなかったのかは謎だが、どちらにせよ、君が異能力有であることに変わりはない、思う存分、その真価をここで発揮してくれたまえ」
固く強く握られたその肩に恍太郎が感じられる程の期待は無かった。
この男も所詮、自分の事を見ていない。見ているのは自分の異能力のみ。
「着いたよ、ここがA棟別名ブリランテだ」
立ち止まった二人の前に赤と金の紋様が施された七メートルはあるであろう大きな扉が現れた。
「さ、今日からここが君の居場所さ」
右端にあるタッチキーに暗証番号を入力しガシャンとロックが解除された音が聞こえた。
『パスワードショウニンシマシタ』
機械仕掛けの声が聞こえると同時に扉が開き見たこともない景色が目の前に現れた。
「ようこそ、ブリランテへ」
そこは、まさに別次元の世界だった。
B棟よりも長く広い廊下、売店や食堂がいくつも並んでおり、大勢の学生、教師が右往左往している。
B棟のとは比べ物にならない未知の領域に只驚きを隠せないでいた。
「驚いたかい、これがブリランテだ。売店の商品はお金を払って買うしかないが、学食はすべてタダ、好きなだけ食べてもらって構わない。その代わり、勉強などの学生としてやらなければならないことは、やってもらわなければならないがね」
驚く恍太郎を見て、龍宮寺は嬉しそうに言った。
「さ、君の教室を案内しよう」
B棟より多い人間が入り乱れる中、龍宮寺は真っすぐ迷わず進んでいく、恍太郎も必死に後を追いかけるが人混みが邪魔をしてなかなか進むことができなかった。
なんとか、人を押しのけて辿り着いた先には、今度は白い扉が現れた。
「ここが、君が通う教室だ」
2年C組。
そこが、恍太郎の次の教室だった。
同じ学園内でも、組み分けはそれぞれ別であることに、少しばかりか強い差別意識を恍太郎は感じた。それを、平然と意識せずに紹介するこいつも狂っていると。
しかし、そうは思う者の、彼にとってそれはどうでもいいことだとすぐ自身の心の中で解決をした。
今まで虐めてきた人間が存在するあの教室を今頃思ったって何も変えられるわけではないし、されたことを忘れるわけでもない、そう自分の心の中で以前の学園生活のことを思い返した。
その時、チャイムの音が鳴って廊下に出ていた生徒全員が各々の教室に戻っていった。
「ちょうどよかった、さ、中に入り給え」
龍宮寺に背中を軽く押され、教室の中へ入った。
「よーしみんな揃ったかな」
「こ、校長?!」
突然の学校長の登場にC組の担任「寿 司」は声を大にして驚いた。
「今日から、このクラスに入る榊 恍太郎君だ、皆、仲良くするように」
小学校での転入生の紹介のような言葉を言い、「それでは」と残し龍宮寺は教室を後にした。
なんて低能なんだ、ここは小学校か。と思い恍太郎は名門校の学校長の紹介に呆れ果て、溜息を吐いた。
「榊君、君の席はあそこです」
一番奥の窓側の席を指さされ、恍太郎は自分の席へ移動した。
「それでは授業を始めます」
終業のチャイムが鳴り授業が終わると生徒達は席を立ち、生徒同士それぞれペアやグループを作り教室を出る者や、談話をする者達もいた。
そんな中一人の生徒が窓の外を眺めている恍太郎に声を掛けて来た。
「さ、榊君……であってるよね?」
茶色く少しパーマ掛かった中性的で端正な顔立ちで声質も女性か男性か区別がつかない声をしていた。
「ぼ、僕、遠山怜って言うんだけど、もしよかったら、僕と友達になってくれない……かな……?」と、少し照れくさそうに言った。
「……」
怜の言葉に耳を傾けず無視をする恍太郎に怜は悲しそうな表情を浮かべるがもう一度勇気を振り絞って話を掛ける。
だが沈黙の時間だけが長く続き、怜にとって苦痛なだけだった。
その時、始業のチャイムが鳴り、生徒がそれぞれ自分の席に戻っていく。怜も頬を膨らませムスッとした表情を恍太郎に向けた後、自分の席へと戻っていった。
「それでは、授業を始めます」
―校長室―
「榊恍太郎か…なぜ、彼の能力に気が付かなかったのだろうか……早く彼らの体内に流れる核電波の有無を識別することができる装置を完成してもらわねば困るな……」
異能力有達は体内に通常の人間には備わっていない核電波と呼ばれる物に影響しやすい体質になっており、その核電波によって異能力が使えるようになっている。
だが、異能力が使える原因が最近になって解った為、まだ、核電波が体内に備わっているか識別する為の装置が開発してはいるものの、完成はしておらず、冬帝学園は異能力試験と呼ばれるものを行い、私見的にその異能力を実際に目の当たりにして異能力有もしくは異能力無であるか判別しなくてはいけなかった。その為、城谷月神の様なタイプの表出することができない異能力を持つ者を判定することができなかった。
「もしかすると、彼の他にも力を隠している者や我々が気づいていない者が多く存在しているかもしれない……」
ブラインドに人差し指を掛け外の景色を目を細め眺める。
「教頭先生、君はまだ、あの負け組の中に勝ち組が居ると思うか?」
「いや、私からは何とも……、しかし、もし、彼等の中にまだ見ぬ芽があるのならばもしかすると、我が校長年の夢であるストライクでの優勝が実現するかもしれませんね……」
「あぁ、200年の歴史があるこの学園でも叶わなかった夢……。ストライクでの優勝が……。もし、優勝することができれば更なる企業が我等に助力してくれるだろう」
龍宮寺は唇を噛み締めた……。
―放課後―
「榊くぅーん!!!一緒に帰ろう?」
靴箱から大きな声で怜が勢いよく走ってきた
「榊君の家ってどっちの方面?僕はリリコの近くなんだけどさ!」
「……」
恍太郎は怜の顔を一瞥して、そそくさと校門を出て左に曲がる。それに負けじと、怜も歩く速さを速め、恍太郎の後をつけていく。
(なんだ、恍太郎君も僕と同じ方角じゃないか!)
怜は口元を緩め、朗らかな表情になり、胸の高鳴りが段々と強くなっていく。
それは、初めて自分から友達になりたいと思った相手への期待感でいっぱいだった。
段々と足を速める恍太郎の後ろを5メートル程度距離を開けたところで怜は後をつけていた。
そんな、怜のポケットから突然、アイドル『片桐実梨(通称:ミリリン)』の曲が鳴り始めた。
(!!こんな時に……!)
怜はポケットからアニメカバーのスマホを取り出し画面をタップする。
「はい、もしもし?」
「お、遠山!良かった~!!出てくれた~!」
「その声、錦山君!?」
「おお!俺だ!誰だと思ったんだよ!」
電話の相手は、2年D組の錦山紅蓮からだった。電話相手が誰であるか確認せずに電話に出たため、通話相手が錦山と分かった怜は少し口調を強めた。
「要件は何!?僕、今、ちょっと忙しいんだけど!」
電話に気をとられているため、前を歩いている恍太郎との距離が段々とひらいていく。
「何やってんだお前?」
こちらの事情も知らずに呑気に質問を質問で返してくる錦山に遠山は少なからずイラっとしていた。だが、錦山は、そんな怜を電話越しに察したのか、すぐに質問に答えた。
「あぁ、実はな、今日お前のクラスに、転入生来たんだってな、だから、俺とお前と、転入生の3人でカラオケ行こうと思ってな!」
もうすでに恍太郎がブリランテに転入してきていることは、学園中に広まっていた。そして、その話を聴いた錦山は、怜に恍太郎とカラオケに誘ってきた。
「はぁ!?錦山君!それは流石に早すぎない!?」
思ってもいなかった発言に怜は立ち止まってしまう。その一瞬の隙に視線を戻すと、そこに恍太郎の姿は無く怜唯一人になっていた。
「あぁもう!錦山君のせいで逃がしちゃったじゃ~ん!」
「あ?俺のせい?何がだよ」
「榊君をつけてたのに逃がしちゃったんだよ!」
怜はスマホを自分の顔真正面に構え大声で錦山に伝えた。
(……やっと振り払った……か……)
恍太郎は近くの裏路地へと逃げ込み一息ついていた。
慣れない行動に、息が上がり、壁に凭れて目を閉じ先ほどの青年の事を思い出す。
(なんだったんだ、アイツ、俺に友達になろうなんて……。騙されるな!アイツもアイツらと同じ腐った心を持っているに違いない!あぁやって、友達のふりをして、そのうちに裏切る決まっている!)
恍太郎は自身の中で自己解決をし心の底から噴き出る怒りを拳にし壁に思い切り叩きつけた。
非力な恍太郎の拳からは鮮血が流れ始め、肩まで激痛が走る。
(ッつ……!)
思わず目を閉じてしまう恍太郎だったが、少し痛みが癒えるとゆっくりと立ち上がり、人がいないか角から辺りを見渡すと表通りへと歩を進めた。
(いないみたいだな……)
辺りには誰もいなかったため、自分の住むアパートへと帰路に就いた。
その途中、RIRICOと書かれた看板が目の前に見え、その看板の先を見ると、そこには1件のコンビニが建っていた。
(リリコ……。そういや、さっきのやつが確か言ってたな……。アイツと同じ方角か……)
店内の方をチラッと見ると、背を向けて商品を選んでいる遠山怜の姿が見えた。
恍太郎は、気づかれまいと足早に歩いた。
―翌日
「榊君!昨日どこ行ってたの!」
怜が恋人の様に机に押し寄せ問い詰めてくる。昨日、恍太郎に気づかれないようつけていた怜だったがこれでは、自身がつけていたことを自白しているのと一緒で明白だった。
しかし、恍太郎はそのことを気づいていたが、関わりたくなかったのか怜の言動には一切触れず、只、無視し続けた。
「ちょっと聞いてるの?榊君!」
自分の発言をことごとく無視し続ける恍太郎に怜は頬をまた膨らませ、ドンと机に何かを包んだ風呂敷を置いた。
「榊君、ちゃんと栄養と摂ってる?コレ、榊君のために作ったからちゃんと食べてよね」
それは、怜が恍太郎の為に作ったお弁当だった。
怜は、自分の席に戻ると物凄い目つきで恍太郎の方を睨み返す。だが、そんな事を恍太郎は気にしておらず、窓の外をずっと眺めている。木の枝を歩く雀を見て、恍太郎は自分の今いるこの学園(世界)はとても小さいものであると実感していた。
鳥は自分たちとは似て非なる存在であると恍太郎は思った。鳥の中には飛べる鳥、飛べない鳥の2種類がいる。しかし、2種類の鳥達は自身と同じ仲間同士で群れを成し過ごすが、そこに人間達と同じ差別意識と言うものは一切ない。
恍太郎はいっそ、鳥に生まれ変わりたいと願った。そうすれば、自分の行きたい場所へ、好きな時間に行くことができる。自由な鳥に。
気づけば授業は終わっており、昼休みに入っていた。恍太郎は、机の中にしまっていた怜から貰った弁当箱を片手に教室を後にした。
一人辿り着いた場所はトイレだった。恍太郎の脳裏に以前の記憶が蘇る。
つい先日まで、彼は虐めを受けていた。4人の男女のグループにトイレへ連れ込まれ、バケツ一杯の冷水をぶっかけられ、腹部や頭部等に重たい拳や蹴りを入れられた。
そんな過去のことを思い返しながら、個室トイレに入り、貰った弁当の風呂敷を解く。さらにその弁当箱の蓋を開けると、到底男子学生が作ったとは思えない程のクオリティの高いものだった。
箸を手に取り、白米を箸に乗せる。口に運ぼうとしたとき、一瞬戸惑いを感じた。
彼は、編入して間もない自分にどうしてそこまで仲良くなろうとするのか、どうして、弁当を作ってくれるのか、そう考え始めると突然として、自分の両上下肢が震えるのが分かった。
「ふっ……!うぐっ……!ぅおえっ……!」
怜の理解できない行動にあらゆる思考が混雑し、恍太郎に激しい嗚咽感として襲い来る。
口に含んだあらゆる物が吐物として溢れ出て床に弁当箱を撒き散らし便座に両手をつく。
(とことん、腐っているな……。いや、腐っているのは僕の方かな……)
落とした弁当箱を再度拾い上げゆっくりと教室に戻り自分の机に突っ伏した。
「あ、あの榊君、どう、だった?おい、し、かった?」
照れくさそうに身体をモジモジさせながら、怜は恍太郎に質問した。しかし、先ほどのこともあり、無言のまま机に突っ伏したままだった。
「む~!」
怜は、頬を膨らませ、ふん、と言い席に戻った。
授業も終わり、下校時間となった教室は生徒がそれぞれ、部活の準備や帰宅の準備をしていた。
恍太郎も自分の荷物をまとめ、帰宅の準備をしていた。
「榊君!一緒に帰ろう?」
相も変わらず怜は恍太郎にその輝かしい瞳をぶつける。
対して、恍太郎の瞳は光が無く霞んだ瞳をしていた。
鞄のチャックを閉め教室を出た。その後を怜はついていく。
「ねぇ、榊君、榊君」
恍太郎の後ろで、怜は絶えず声を掛けてくる。しかし、恍太郎はずっと沈黙を続ける。
校門を出て、以前と同じ場所についたとき、怜は声を荒げた。
「どうして……、どうして僕のことを無視するんだよ!!」
それは、今までのムスッとした表情の怜とは違い、涙が流れ、怒りと哀しみが混じった表情をしていた。
「僕の何が嫌なんだよ!僕が君に何かした!?なんで、そんなに冷たくすることができるんだよ!僕は、君とただ仲良くなりたいだけなのに!」
怜は心の中にあるもの全てを恍太郎の前に吐き出した。
恍太郎は立ち止まり、ゆっくりと口を開く。
「君は、僕のことを知っているの?僕の過去を、僕が今までされてきたことを」
恍太郎は過去のことを思い出し、そのことを怜に伝える。
「そうだったんだ、だけど僕はただ君と仲良くなりたいんだよ!君がされたこととかそんなこと関係ない!僕はこれから仲良くなりたいんだ!それに、もし、君がまた虐められていたなら僕が必ず守る!」
怜は恍太郎の肩を思い切り掴み顔を近づける。
「ダメ……かな……?」
潤わせたその瞳と怜の気持ちに負けた恍太郎は、はぁ……と溜息を吐いて観念したように顔を下に向け、怜を少し突き放した。そして、きっぱり、怜に伝えた。
「僕は、君とは違う。人間の括りとしては一緒かも、いや、君は元から力を持っている時点で、一緒では……ないか。」
最後まで言おうとした言葉を途中で遮り、訂正した。
「取り敢えず、人種としても違っていれば、生まれた環境、育った環境も全然違う、そして僕は、クラスという檻の中で、虐められ、蔑まれ、戒めを受け、逃げられず、誰も助けてくれず、唯一人、孤独に生きてきた。誰も信用できないそんな状態の僕に君は『友達になろう』なんて言葉を軽く掛けることがよくできるな。」
恍太郎の瞳は眼前の物全てを飲み込むような、そんな暗い瞳になりじとっと怜の方を見る。
「君には、裏切られ、誰からも期待されずに生きていく、ましてや、同種の人間からも嫌われる人の気持ちなんて微塵も分からないだろうね」
淡々と続ける恍太郎の言葉を、怜はひたすら聞くことしかできなかった。
「そ、それでも……」
怜は、恍太郎の言葉を遮るように口を開けるが、「無理だ」とこの後の怜の言葉を予想したかのように更に上から言葉を被せる。
「……」
何も返せない怜を後ろに、恍太郎は自分のアパートへと向かった。
「だったら、僕が友達っていうものを、本当の友達っていうのを教えてあげる!」
怜はその言葉を恍太郎に聞こえるように大きな声で発した。
しかし、恍太郎は無言のまま振り向かずに歩いて行った。