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第一章:不女神(ヴィーナス)

第一章です。

ここから、主人公の物語が始まっていきます!

 人類は原始時代より人間本来の能力である「知恵」、「力」を使い現代にまで文明を発展させてきた。

 その長い歴史のどの時代にも必ず1人や2人、発見や発明をし人類の文明を更に発展する者達がいた。

 しかし、突如として現れたただ一人の『異能力者』によってその者達の功績は小さく儚いものとなっていった。

 その異能力者を筆頭に次々と異能力を持った子供達が生まれ世界は異能力者によって新たな文明を造り上げていった。

 ここ、冬帝(とうてい)学園は設立されてから二百年を迎えようとしている由緒ある伝統校である。

 全校生徒は1万人という超マンモス校であり、その規模の大きさから、周りからの期待は高まっていた。

 つい先日には改築工事が行ったため校舎の内装は白く綺麗で汚れ一つない校舎に変わった。それに伴い、冬華祭(とうかさい)と呼ばれる文化祭が行われる為、生徒達は冬華祭の準備に追われていた。

そんな、お祭りムードの中一際黒いオーラを解き放っている生徒がいた。

その生徒は背中を丸め地面ばかりを向きひたすらと段ボールで作った看板や劇に使うであろう小道具を運ぶ生徒たちの横を通り過ぎてゆく。

ガチャ

地面を向いたまま向かった先はトイレだった。

新校舎になったのでトイレも綺麗になっていたが恍太郎が見たトイレの景色はとても薄暗く異様な雰囲気を纏っていた。

「よぉ、やっと来たか」

正面には虐めグループの一人『高瀬 亮』がニヤニヤしながら立っていた。

恍太郎は顔色変えずにそのまま高瀬に歩み寄ると隣の個室トイレから

「オラァ!」とバケツに入れられた水を掛けられ恍太郎は水浸しになった。

男子トイレの前から女子の高い笑い声が聞こえる。

虚ろな目でその方向を見るとクラスのマドンナ的存在である『夏木りん子」が仁王立ちをして大きな口を開け笑っていた。

「ざまぁないわね!!」

クラス一の美女と言われていた彼女の顔はとても醜くマドンナとは思えない顔をしていた。

「なあ、恍太郎、お前なんでこんなことされるのわかってて来るんだ?」

髪を鷲掴みにしてグループの一人『佐野京輔』は聞いた。

しかし、その問いに何も答えずしびれを切らした佐野は恍太郎を思い切り殴り、濡れた地面に恍太郎は倒れた。

「けっ、面白くねぇ、テメーいつか殺すからな」

そう言って、佐野は恍太郎の顔に唾を吐き捨て、高瀬は恍太郎の右手に高く振り上げた右足を振り下ろし踏んづけるとそのままトイレを出て他の虐めグループの仲間達もそれに続いてトイレを後にした。


恍太郎はゆっくりと水を滴らせながら立ち上がり、トイレを出た。

すると、廊下の角から一人の女子生徒が歩み寄ってくる。

「あ、あの、大丈夫?さ、榊君」

女子生徒はハンカチを握った両手を差し出したが女子生徒のその優しさに一瞥してその場を立ち去ろうとした。

衝撃的な言葉を呟いて。

「いつか殺してやるためさ…」

「え?」



-校長室-

「どうかね、今年の闘争祭は…」

 冬帝学園校長『龍宮寺 要』は副校長である『木下』に問いかけた。

『闘争祭』。

 それは、異能力を持った学生達がそれぞれの異能力(のうりょく)を駆使し対戦を行なうための模擬試合の大会である。

 闘争祭は世界大会もあり、各国の代表者10名ずつ出場し優勝校には各企業がスポンサーにつきメディアでの露出や資金の援助を受けることができる。

「はい、今年も、我が校の優勝は間違いないかと…」

「ふっ、そうか」

 冬帝学園は闘争祭屈指の強豪校であり開校以来負けなし、冬帝学園に在学する学生は下位クラスの学生でも、実力は平均以上である。

 しかし、そんな格式高い学園にも、少なからず生徒の中には異能力持ちである『異能力有(エクステンス)』の他に異能力を持つことができなかった者達も在学しており、その者達を『異能力無(ノーン)』と呼び迫害の日々を受けていた。

 異能力持ちが当たり前の世界となった今、古来から存在する人間達は全人口の3割と激減していた。

「我が冬帝学園は、ナンバーワンでなければならない。例えどんな手を使ってもな…」

龍宮寺は窓を眺めニヤリと笑みを浮かべ呟いた。

「木下君、闘争祭は学生にとっては自分が輝くための青春の全てだと言って過言はないだろう。しかし、我々からしてみればあんなものは、只の商売道具だ。優秀な人材を生み出し、優秀な企業へ投資する。その見返りとして、資金という形で多額の金がこちらに入る。これほど簡単で効率の良いビジネスが他にあるかい?だから学園長も闘争祭出場メンバーの育成に力を入れているんだろう。」

「そうですね。」

 木下は眼鏡をクイッと持ち上げ不気味な上目遣いで同意した。

「取り敢えずは、闘争祭の前にある冬華祭が無事に終わることを願おう」



-第二闘技演習場-

 冬帝学園には、異能力者同士が闘争祭に向けて日々特訓するための闘技場が3つ設立されている。

それぞれ、第一闘技場、第二闘技場、第三闘技場と別れており、第一闘技場は闘争祭全国大会出場メンバーを選定する校内選抜戦を行なう用途として使われ、第二、第三闘技場は異能力有(エクステンス)達による、自主練や授業での練習試合に使用される。

 この3つの闘技場のうち第二闘技場は現在、異能力有(エクステンス)による練習試合が行われていた。

燃え盛る俊足( サラマンダー)!!」

「メタリック・シールド!」

 赤髪の男は炎を纏った両足で地面を蹴り鋼鉄の盾に向かって行った。

 常人の数倍にも速くなった赤髪の男・錦山紅蓮(にしきやまぐれん)はすぐさま、盾の後ろに回り込み、渾身の一蹴をガラ空きの生身に打ち込んだ。

 蹴り込まれた相手は、息が吸い込めない状態に陥り、その場に塞ぎ込み悶絶した。

「勝負あり!勝者、錦山紅蓮!」

「おっしゃー!!」

 紅蓮は片手を高々と天に掲げ、勝利の雄叫びを上げた。

「紅蓮、お前すげーなー!」

「お前の能力、羨ましいぜ!」

 闘技台から降りてきた紅蓮に、クラスメイトが群がり、個々に羨望の眼差しや、科挙圧巻の声をそれぞれにぶつける。

「まぁそうでもないぜ、たまたま相手が俺と相性が良かったってだけだ」と周りの声に有頂天になることなく、謙虚に答えた。

 そんな、異能力有(エクステンス)達の姿を遠くから眺める姿があった。

(…あれがエクステンス)

 黄色く光の無いその(まなこで見ていた恍太郎に黒い影が近づいてきてドンっと後ろから軽い衝撃が来る。

 ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには佐野と高瀬が不敵な笑みを浮かべ、恍太郎の肩を思い切り掴むと、否応なしにどこかへ連れて行こうとした。

「おい、恍太郎、お前は俺らと同じ無能野郎なんだよ。ま、俺らよりお前は本当に無能野郎だけどな。」

 無能。

 佐野と高瀬も異能力無(ノーン)であり恍太郎と同じ部類の人間だった。

「俺らより下の人間の癖に、俺らより優秀な異能力有(エクステンス様の試合を見て憧れてたか?バカじゃねぇの?」

 佐野のその言葉には恍太郎に対するものの他にどこか異能力有(エクステンス)に対する皮肉のようなものが込められていた。

 佐野と高瀬はいつもの場所に恍太郎を連れ込むと、激しい罵詈雑言と共に怒りに身を任せた暴力を恍太郎に振るった。

「どいつもこいつも、異能力有(エクステンス)異能力有(エクステンス)!そんなに、アイツらが優秀かよ!親父もお袋も自分のことは棚に上げて、俺が異能力有(エクステンス)で生まれてこなかったら、只の作業のように俺を育てやがって、異能力者(アイツら)のことがそんなに良いかよ!俺ら無能な奴らを下に見てるアイツらがよぉ!!」

 それは、恍太郎に対する怒りではなく、今まで育ってきた環境。即ち、この世界に対する怒りであった。

「糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!」

 怒りに任せたその右拳は、恍太郎の顔面を何度も何度も殴り続け恍太郎の顔は赤く膨れ上がり血液がポタポタと音を立てながら滴り落ちている。

佐野が行なった一連の行動は理不尽な世の中に対する怒りを恍太郎にぶつけて昇華する俗に言う八つ当たりと呼べるものであった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

「佐野…」

「高瀬、行こうぜ」

「あぁ」

 二人はトイレを後にし、残された恍太郎は段々と意識が遠のきゆっくりと目を閉じた。

「けっ、何奴も此奴も気に入らねぇ!」

「それにしても、アイツほんと無口でやがんの!まじ笑えたわ!何格好つけてんだか!」

 高瀬は怒りに満ちている佐野を余所に一人で腹を抱え笑っていた。

「どうしたんだ、高瀬、佐野」

「一真!」

 2人の前に立っていたのはイジメグループのリーダー『小坂一真』だった。

「佐野、お前まさかまた勝手にあの愚図を力任せに殴ったんじゃないだろうね」

「!?」

「当ったり〜流石学年首席」

「茶化すな、佐野の事ならある程度予想はつく、これで何度目だと思っているんだい」

 小坂一真も異能力無(ノーン)であるが成績トップの秀才であり、ノーンの中では学年首席である。

異能力無(ノーン)であるが故に、プライドの高い小坂は勉学だけは負けまいと幼い頃から勉強一筋に頑張ってきた。

 しかし、世界は広かった。常に学年トップだったが実際は下位クラスでありそれは、異能力有(エクステンス)側の成績が反映されていなかった為である。

 そのことを知った小坂は絶望し、異能力有(エクステンス)に対する怒りが増強しさらに勉学に励むようになった。だが、世界は甘くなかった。どんなに努力をしても、異能力有(エクステンス)を越えることが出来ず、小坂のプライドはボロボロだった。


「どうした?主席ぃ~?」

「俺をそんな風に呼ぶな、本当の主席は向こうだろ」

「いいじゃん、別に、俺らにとっての主席は主席だし」

 高瀬はひょうきんな態度で過去の忌々しい思いを噛み締める小坂に話す。

「次はどうする?まぁセンコーは俺らのやることに文句は言わないだろうしな~」

 そういうと高瀬は胸ポケットから一枚の写真を取り出した。

「ふっ、アイツはもう俺らの手の中だ」

 その写真は教師「小倉」と冬帝学園の女子生徒との援交写真だった。


-なんでこの子は能力を持って生まれてこなかったの

-何もお前が気にすることじゃない、悪いのはこの子だ。俺らの望み通りに生まれてこなかったこの子が悪い

-能力を持って生まれてこなかったあなたが悪いの。だからここで生きて頂戴。

-恨むなら私たちじゃなくて自分を恨みなさいよね

-あぁ、その通りだ、異能力有(エクステンス)として生まれてこなかった自分を恨むんだ

-恍太郎


(!!)

 目を覚ましたその視界には夕焼けの日差しが差し込んでいた。

(痛っ…)

 体中に鋭く激しい痛みが走る

 軋む体をなんとか立ち上がらせ、よろけながら夕焼けに染まったトイレを後にした。

 長い時間気を失っていた為頭がボーとしており脳の処理能力が追い付かず壁に凭れながらゆっくりと自分の足を交互に歩ませていたその時、自分の教室の扉が見えた。

2年B組。

 そこが、恍太郎の教室であった。

 教室の扉を開けるとそこには一人の少女が教室の奥で佇んでいた。

「大丈夫?榊君」

 その少女は以前、恍太郎にハンカチを渡そうとしていた少女だった。

「…」

 恍太郎は依然として返答せず黙って教室を出ようとした。

「待って!榊君!実は私、榊君にお話があるの…」

 少女は組んだ手をモジモジさせ頬は赤く染め上がり、恥ずかしそうな表情で恍太郎に近づいていく。

「あ、あのね・・・榊君」

 どんどん近づいてくる少女に少し違和感を感じた。

「あなたのことずっと見てて」

「私、分かったんだ」

 恍太郎はその違和感が何なのか段々と理解し始めていた。

「あなた」段々と

「この世界の事」声色が

「嫌いでしょ」変化していった。

 大人の様な妖艶なその声色と話し方になったところでその少女は続けた。

「君、この世の中全ての異能力有(エクステンス)異能力無(ノーン)を怨んでるでしょ」

「そんな君に渡したいモノ(プレゼント) が有るんだけど」

 恍太郎の眉毛がピクっと動いた。

「こっちに来てくれない?」

 警戒しながらも近づく恍太郎の手を少女は思い切り引き寄せ額と額をくっ付けた。

 すると謎の光が恍太郎を包み体の中が暖かくなるのを感じたと思いきや両手が急に冷たくなった。

 自分の中の異変に気づいた恍太郎はつい少女に質問をしてしまった。

「何、コレ」

「君に彼等と似たような力を授けたのよ、その力で君がやりたい事をやればいいわ、例えば」

 少女はニヤリとして言った。

「復讐とか」


 帰り道。

 辺りはすっかりと日が落ちてしまい、白く光る月と街頭だけが辺りを照らしていた。

 恍太郎は先程感じた暖かさと冷たさを宿した右手を見つめながらとぼとぼと帰路に就いていた。

(何だったんだ、アレは)

 少女に貰った力を未だに実感出来ないまま二階建てのぼろいアパートの一室に入った。

 冬帝学園は1人暮らしをしている生徒には必要最低限の生活保護を譲渡し学園内の生徒の生活をサポートしていた。凡そ学園から出る生活保護は10万ほどであり、我欲の無い恍太郎は家賃2万の八畳の狭い部屋に一人住んでいた。

 買い溜めしていたカップラーメンにお湯を入れ3分間待ちズルズルと啜りながら食べる。これが、恍太郎の日課だった。

 お風呂に入りながら放課後にあったことをボーッと考える。

 トイレで出会った少女が実は異能力有(エクステンス)であったこと、そんな彼女が、自分に能力を与えると発言したこと、彼にとってその言葉は信用していいのか、もしかしたら、それは嘘で異能力無(ノーン)である自分を心の奥底で嘲笑っているのかもしれない。そう考えると、心の奥底から計り知れない怒りが込み上げてきた。

 風呂から上がり洗面台の鏡をじっと眺める。

 そこには切り傷や打撲痕が刻み込まれており見るに堪えない痛々しい身体が映し出されていた。

 恍太郎はこの世界の全てを呪い、そして、忌み嫌い続けた。

 異能力が有る者こそ全てのこの世界を、同じ異能力無き者なのにそこでも差別、虐めをする愚かな人間共とその愚行を。

 その身体に刻み込まれた傷は決して癒えることのない、思い返しただけでまた、痛みが現れる。

 服を着るとそのまま、ベッドに塞ぎ込んだ。

 いつまでも考えたって仕方がない、どうせ考えたところで何も変わらないし変えることもできない。

 そんな当たり前の結果が彼には見えていた。これまでの経験上、そんな事は1度たりとも無かった。

 少年のような青年はゆっくりと目を閉じ、眠りについた。


 翌朝、何も変わらない1日がまた幕を開ける。

 学校に通い、いつもと同じ、虐めグループに絡まれ、教師からも罵声を浴びせられる。

 しかし、この一日は、いつもと違うことが起きた。

「お前ら…いい加減にしろよ…」

 授業中、震え上がる声で恍太郎は言った。

 その声は、怒りに震えあがる声、だけではなく、恐怖も混じっており、初めての反抗に恍太郎の心臓は鼓動を速め、恍太郎自身も内に秘めていた感情が初めて表に現れ始めた。

「あ?なんつったお前?」

 恍太郎の首元を掴み佐野はイラついた表情で問いただした。

「いや、だからその…へへっ」

 初めての反抗、そして余りの恐怖に自分が抱いてる感情とは真逆の反応をしてしまうその態度に更に佐野をイラつかせた。

「おちょくってんのか!?あぁ!?」

 佐野は恍太郎を突き飛ばし思い切り殴りかかろうとする。

 当然、誰も止めようとはしない、止めるどころか好奇な目で眺めている者が多かった。教師も含め。

 恍太郎は瞬時に体勢を立て直ししゃがんだ状態で構えた。

 その光景に周囲の人間たちは一瞬で唖然とした。

「なんだその構えは、俺とやろうってのか?昨日のアイツらの試合でも見て影響でも受けたか?フン、 ガキじゃあるまいし、妄想も大概にしろよ!」

 恍太郎は殴られ、意識を失った。

 彼は信じていた。彼女の言葉を、誰も信用せずに生きてきた彼が何故か彼女の言葉だけは信用できた。

 だが実際は、信じたことが間違いだった。彼女の言葉は嘘だった。彼女の言葉を信じた自分が馬鹿だった。彼女も、所詮アイツらと同じなんだ。そんな事を、恍太郎は意識の奥で思っていた。

 目が覚めると目の前に先日の少女がひらひらとスカートを靡かせながら横たわっている恍太郎を見下ろしていた。

 目の前に現れた、彼女の姿を見てバっと起き上がり、両手で襟を掴み大声で問いただした。

「お前!僕に嘘を吐いたのか!あんなことを言っておきながら、本当は心の奥底で笑っていたんだろ!そんなに、人を馬鹿にするのが好きなのか!流石、異能力有(エクステンス)だな!いい性格をしてるな!」

 今まで溜まっていた怒りが心の奥深くから沸き起こり、恍太郎は止まることのない罵詈雑言を彼女に浴びせた。

 彼女を左手で掴み、逃がさないように右手で壁に手をつこうとした時、恍太郎の身に変化が起こった。

 右手に白と黒が入り交じった光が宿りその中に現れた物質は壁を破壊した。

「な・・・に・・・」

 その物質は形状は釘の様な形をしているが、大きさは通常の釘よりも5倍程の大きさだった。

「五寸・・・釘・・・?」

「これが君の異能力(ちから)か」

 少女は不敵に笑い続けた。

「言っただろ、君に力を授けるって、私が嘘を言うわけないじゃないか」

「この異能力(のうりょく)を見る限り君の異能力(のうりょく)は君自身の感情を別の物質に具現化する能力の様ね」

 恍太郎は只、呆然とするしかなかった。余りの出来事の多さに頭の処理能力が追いつかなくなっていた。

「君の場合、怒り、怨み、妬み、嫉み等の端的に言えば負の感情を具現化するみたいだな。それにしても五寸釘とは、君も中々えげつない事を考えるものだな。具現化能力はその感情に対してイメージしている物を具現化し武器として使用すると言った能力だ」

 少女は淡々と無表情のまま言葉を発した。

「申し遅れた。私の名は城谷月神(しろやつぐみ)と言う」

 月神は更に言った。

「何故、異能力有(エクステンス)である私が異能力無(ノーン)と同じ空間に居るのかだが、私の異能力の性質上、検査にて不適正と認定されて此方で一緒に授業を受けさせて貰っている」

はっと我に返った恍太郎は月神に対し質問をした。「僕にくれた、その異能力(ちから)の事・・・?」

ええ、と頷き「私の異能力は与えし者(プレゼント・ギヴァー)。他人に異能力を与える力よ。異能力無(ノーン)に異能力を与える異能力の為、異能力有(エクステンス)での異能力検査では発揮されず異能力無(ノーン)に認定されたわけだ」

「なんで僕に、こんな異能力(ちから)を…)

「君がこの世界全体を誰隔てなく平等に嫌っているから」

 ふふっと軽い笑みを浮かべ月神は恍太郎の両頬に手を添えて更にこう言った。

「さぁ、その異能力(ちから)でこの世界に復讐するがいい」

 自分の右手を強く握りしめた恍太郎のその表情は人形の様に冷たく固い感情を感じさせない表情に戻っていた。

「あぁ、因みに君のその異能力は君の感情が昂るつまり、君自身の負の感情が増強するにつれて強くなることはさっき言ったが、それに加えて、感情が昂るにつれて相手の異能力を打ち消す力も備わっているみたいだ。正にいろんな意味で-(マイナス)ウェポンと言った感じか」

「マイナス…ウェポン…」


「おい、榊、何ボーっとしてんだ?あぁ?」

 あぁ、またこれか…。恍太郎のクラスの担任である小倉は顔を近づけ眉間に皺を寄せている。

「何々、まーた恍太郎君は怒られてるの?ほんっと懲りないなぁ、小倉ちゃんもこんなに皺寄せて怒りまくってるからさらに老け顔になっていくじゃないのぉ」

 高瀬はにやにや笑いながら小倉を少し小ばかにしながら喋りだした。

「高瀬、その辺で止めとけ、先生に失礼だぞ」

 小坂は眼鏡を押し上げ恍太郎の方を睨みつけた。

「なぁ、榊、もうさ、お前ここ来るなよ、邪魔なんだよお前の存在が、何も努力しないで、何も立ち上がろうとしないで、何も抗おうとしないで、何も挫折しようとしないで、何も挑戦しようとしないで…何も悔しい思いをしてないお前を見てるととても腹立つんだよ!」

「おい、佐野」

「あいよ」

 小坂の声に佐野はゆっくりと立ち上がり、恍太郎の首を思い切り絞め始めた。

「おら、恍太郎、まだここに通うか?通い続けるなら俺はここでお前を殺すぞ?いくら、アイツらでも人を殺したことはないだろうな、だから俺はお前を殺してアイツらを超えてやる!」

首を締め上げる両手に更に力が加わる。

 だが、恍太郎の表情は無表情で涼しい顔をしていた。

「ここで、お前を殺しても俺は捕まることはない、先生が隠してくれるもんなぁ!ねぇ先生?」

「あ…あぁ…勿論さ、あ、いや、勿論ですとも」

 高瀬に写真を見せられた小倉は顔が引きつり冷や汗を流し始めた。

「佐野、そんな奴さっさと殺しちゃいなさいよぉ」

 高木りん子が声を発する。

 その時だった。佐野の表情が一気に曇る。

「!!」

 佐野は恍太郎の首を離し全身の力が脱力し崩れ落ちる。

「は?」

 一斉に全員の視線が凍り付いた。

「何だ?何が起こったんだ?」

 周囲が騒めきはじめ、先程までの好奇な目をしている者は誰一人として居なかった。

「お、おい、恍太郎お前、何したんだ」

「佐野の奴に何しやがったんだ!」

 高瀬が大声で怒鳴りあげ背後から羽交い締めにし、小坂が慣れない拳を何度もぶつける。

恍太郎は崩れ落ちる中、足を奮い立たせ、開いた両手を二人の頭と胸にそれぞれ当て実態の無い五寸釘で貫く。

 自分の身体を通過するその実体の無い物体に彼らは意識を失った。

 自分の感情の大きさによってその実体のある武器になり、またある時は、実体のない武器になることもある。

 小倉は悲鳴を上げ勢いよく教室を飛び出した。

 自分の命を守るため自分の保身を顧みず。

 次の日、榊 恍太郎は1か月の停学処分を受けた。

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