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夏に空想、ただ君を描く  作者: 優衣羽
稚拙な詩は、全て本当の感情から生まれる。
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「二十四歳、夏、君が死ぬまで」


 二十四歳の夏、一枚の写真で私たちの運命が大きく変わった。それまでの幸せな暮らしは一変し、君との関係性は音を立てて壊れ始めた。しかしそれはまだ序章だった事を後から知る。


 その日はいつものように平凡な日だった。前日振った雨がアスファルトを反射させ街を輝かせていた。初夏の雨はいつも唐突で傘を持ち歩かなければずぶ濡れになってしまうほどだ。数日前その雨に二人してやられたのは痛手だった。久し振りに外食をした帰りだった。君は少し歩こうと言って家から五分ほど離れた所でタクシーを降りた。夜風に当たりたかったらしい。無理もない、昨日の君はかなり酔っていた。アルコール耐性が低い君が嬉しくなって飲みまくっていたのは、新しい仕事のせいだった。君がずっと憧れていた映画監督の作品に出る事が決まったのだ。それはとても喜ばしかった。私自身、その監督の作品はいつも見ていた。いわゆるファンだった。鮮やかで切ない夏を描く作品が多く、君を起用したのはオーディションで今作のテーマである海町の出身だったから判明したからだそうだ。縁はどこで繋がるか分からないと思いながら、興奮する君の話を聞いていた。


 私も私で仕事は好調だった。君ほどまではいかないが順調だった。順調すぎて怖いくらいだ。君と暮らし始めてから四年。大学を卒業してこの道に進むことは不安もあったがよるなら大丈夫と君が言ってくれたから何とかなった。その言葉を信じてきて良かったと思う。


 話は尽きる事を知らなかった。仕事の話から始まってくだらない日常の話をした。家族の話やいつでも出来るような話を、高そうなレストランで話し続けた。最近の君はとても忙しくて夜遅くに帰ってきて朝早くに出ていく生活を送っていた。可能な限り起きていようと君の帰りを待つ事も多かったが、疲れ切った君を見て他愛もない話を振るほど私は能天気ではなかった。


 君の話によるとこの撮影が終わったらしばらく仕事をセーブすると言う。さすがの過密スケジュールに辛くなったのだろう。ここで休んでも支障が出ないくらい君は世間の人気者になっていた。街を歩けば君ばかりだ。君を見ない事の方が少ない。ドラマに映画に雑誌、新聞、ポスター、ネット、君だらけだった。おかげで少し会わなくとも寂しさを感じなかったと言えば君は拗ねていた。その表情を見れるのは私しかいないと思うと少し嬉しくなった。


 数年前から染め始めた髪の毛は役柄によって色を変えていた。最近は明るい茶髪になっているが、地毛の色が明るいからか違和感がなかった。しかし脳天を見ると元の髪が伸びていて金髪の人たちがいう、プリンのような状態になっていた。それが面白くて笑えば、まだ他の人にはばれてないと君が言った。頭のてっぺんを見る人なんて少ないからまだ大丈夫だと言う君に対し、私はじゃあ内緒にしとくねと返した。


 酔った君はいつも以上に緩くて、手を繋ぎながら家まで帰った。外で手を繋ぐのは久し振りだったから鼓動が速くなったのを隠すように早く歩いた。その途中で雨が降ってきて早く帰ろうと言っているのに、君はひたすら愛の言葉を口に出すから恥ずかしくて、照れくさくて、でも嬉しかったからつい歩く速度を遅めた。迷惑かけてごめんね。いつもありがとうと言われた時には涙腺が緩んだ。同じ事を思ってるよと言おうとしたけど、びしょ濡れになってしまった姿を見て言うのは帰ってからだと思った。

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