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夏に空想、ただ君を描く  作者: 優衣羽
教育は結構なものである。しかしいつも忘れてはならない。知る価値のあるものは、全て教えられないものだということを。
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「今はまだ、その選択はしないままでいたい」


「じゃあ海上花火はそろそろかな?」


 君はスケジュール帳を確認している。海上花火と言えば、君の地元である港町で有名な夏の終わりの風物詩だ。吸い込まれてしまいそうなくらい美しい青い海に、夏の終わりの一夜だけ花が咲く。水平線から空に向かって咲き誇る花は、都内の物と比べれば派手さはないが美しかった。あの花火が好きだった。


「海上花火見たい?」


「見たいね」


「そんなよるに朗報です」


「何?」


 君は開いたスケジュール帳を目の前に押し付けてきた。八月と書かれたスケジュールの中は仕事で埋まっている。しかし、その中に四日間だけ連続で何も書かれていない日を見つけた。


「この四日間、休みを貰いました」


「お仕事大丈夫なの?」


「大丈夫。休みが欲しくて詰めてもらったから」


 今の君は日曜朝の有名なヒーローだった。つまり子供向けドラマの主役だった。放送が始まってから半年、人気はうなぎ登りで仕事が桁違いに増えた。忙しそうにしている姿を間近で見ていたからこそ、可能な限りサポートしてあげようと思っていた。そんな中で取れた休みはとても貴重な物である事も知っている。


「去年は簡単に取れたんだけど、今年は駄々こねて夏休み貰った」


「だろうね。だって今が売り時だもん」


 事務所の人からすれば今人気が上がっている俳優を売り出していきたいに違いない。現に今月の雑誌コーナーの表紙は君ばかりだったし、夕方から始まるニュースでは君の特集が組まれていた。すっかり有名人である。


「でも僕契約する時言ったんだよね。毎年夏休みくださいって」


「何で?」


「当時はよると住めるとは思ってなかったから、とりあえず会える時間を確保しようと思って」


 どこまで行っても君は君だった。どれだけ有名になろうが私の知っている君は変わらないままだ。


「それで、花火大会はこの日」


 君は最終日の四日目を指差す。次の日は夜から仕事が入っていた。


「一日目に行って五日目に帰れば行けるんだけど」


 行かない?と問うてきた君に反対するはずもなかった。何度も頭を縦に動かして私も自分のスケジュール帳を開く。君の物よりも黒くはないが程々に予定が入っているスケジュールに新しく出来た予定を書いていく。


「どこ泊まるの?実家?」


「あー、それでもいいんだけど実家狭いからなあ」


「じゃあ叔父さんの家?」


「出来れば」


「凄い喜ぶと思うよ。この前あおいが送ったポスター玄関に貼ったって連絡来たし」


「何か恥ずかしいね」


 早速叔母に連絡を入れる。するとすぐに了承の連絡が返ってきて思わず笑ってしまった。


「早いね」


 それを隣で見ていた君が驚いている。私は叔母に返事を返して携帯を伏せた。


 そうと決まれば必要なものを買っておかなければならない。クローゼットにあるキャリーバッグはまだ使えるだろうかと思い立ち上がれば窓の外の夜景が目に入る。カーテンを開け窓の外ベランダに出れば煌びやかなネオンが煌々と光り続けていた。空には星も月も見えやしない。曇ってもいないのに、この街はいつも人口の明かりが世界を照らしている。きっと世間の人から見ればこの夜景は羨ましいものなのだろう。奥には真っ赤な東京タワーが見え隠れしている。しかし、私の好きな夜はこの色ではない。夜景は綺麗であるが眩しすぎるのは好きじゃなかった。


 君が私の頭に自分の顎を乗せてきたので頭を揺らす。そして目元を隠した。


「何で隠すの」


「撮られても知らないよ」


「こんな高さ撮られないよ」


「いつどこにいるか分からないからね」


 有名になった君に釣り合う人でありたいと願い続けているが、世間の目が厳しいのは分かっていた。いくら努力をしようが言われてしまうだろう。人は誰かの幸せを妬み他人の不幸が好きである。きっとばれてしまえば批判を浴びるのは間違いない。私だけが言われる分には構わないが、君の評判を下げるのだけは嫌だった。


 出来ればこの幸せが続けばいい。もし世間に知れ渡ってしまう日が来たとしても、どうか優しく受け入れてほしい。もしかしたらいつか、君から離れる選択をしなければならない日が来るかもしれない。しかし、今の私にはまだ出来そうもない事だ。


 夜風に当たりながらまだ起きてもいない事に対し心配をするのはやめようと思い、お腹に回された君の手に自分の手を重ねた。短い夏休みを楽しみに、あの町へ思いを馳せた。

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