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夏に空想、ただ君を描く  作者: 優衣羽
生きるとは、この世で一番稀なことだ。大抵の人は、ただ存在しているだけである。
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「変わった関係性を受け入れるしかなかった」


 結論から言うと、いつかの約束は三年後に形を成した。


 十八歳の春、大学生になると同時に家を出た。学生時代アルバイトで貯めたお金は全て一人で暮らすために使われた。都内郊外、大学から徒歩十分圏内に借りたワンルームのアパートは六畳半で、バストイレ別の賃貸であった。築十五年、決して外観は良いとは言えないが、家賃が五万円なのと二口ガスコンロがついていたのが決め手だった。大きな窓から西日が入り昼間は目を瞑ってしまうくらい眩しいが、そもそも大学生活を送るにあたり日中家にいられる事はほとんどないと思っていたのでどうでも良かった。一週間の内二日ほど我慢すればいいだけだ。もしかしたら二日もないかもしれないが。


 実家から通える距離であったが父は反対しなかった。元よりすれ違い続けてきたのだ。今更止める理由もないのだろう。金銭面の援助は受けない事を決めてから、話はとんとん拍子に進んだ。初めてこのアパートに着いた時、実家の部屋が少し恋しくなった。マンションの部屋から見える空が綺麗だったからだ。七階と二階では見える景色も変わってくる。しかし、あの無機質な実家とは違いこの部屋は生活感に溢れていた。六畳半に机やテレビ、ベッドなどが所狭しと置かれた。廊下には小さめの冷蔵庫、脱衣所に洗濯機を置くスペースがあって安堵した。あっという間に自分色に染め上げられた部屋を見て嬉しくなり部屋を歩き回ったのが初日のことだった。


 十八歳になってからも、月代あおいとの交流は続いた。しかし、毎週水曜日の約束は破られる事が増えていった。私はアルバイトに明け暮れていた。水曜日は極力休みを入れていたが、ヘルプに呼ばれて鳴り響く着信を何度も無視してしまった。君は君で仕事が忙しくなり始めたため、電話に出られない事が増えた。


 仕方がない事だと思った。変わらないものなんてない。出会ってから十年の月日が経った。私も君も、未成年である事には変わりないが、もうとっくに大人になっていた。各々の生活があって、優先すべきことがある。年々離れていく距離に諦めを感じていた。


 十五歳の夏、芸能界に誘われた君はその道を選んだ。芸能事務所に入り、少しずつ俳優としてキャリアを積み始めた。まだ大きな仕事はないものの、脇役やコマーシャルに映る生徒の中の一人であったりと、少しずつ活躍の場を広げていた。


 年に三回しか会えなかった私たちは、年に一回も会えるかどうか分からないくらいになってしまった。そのため君の成長を知るのはいつだってインターネットだ。君は自分の写真を撮る事はしないし、もし撮るとしても誰かと一緒に写る時だけだった。君とのツーショット写真はパソコンの中に数え切れないくらい入っているが、今年に入って取ったものは一枚もなかった。


 君は大人になった。あの頃の面影なんてないくらい背が伸びては端正な顔つきになった。三年前の君と比べてみてもその差は歴然である。元より長かった上向きの睫毛は意思を持った瞳を隠すようになった。喉仏が目立ち、顎はシャープになって頬の肉を消した。細身だが引き締まった身体を出すことも多くなっていった。すっかりイケメンの芸能人と呼ばれる姿になった君を、遠巻きに見る事しか出来なくなっていった。想いは少しずつ心の深い所に仕舞われていく。君に恋をするのが、現実的ではなくなってきたからだった。

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