表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏に空想、ただ君を描く  作者: 優衣羽
生きるとは、この世で一番稀なことだ。大抵の人は、ただ存在しているだけである。
28/65

「このいたずらが私たちの人生を変えるとは思わなかった」


 目の前にはスクランブル交差点。ファッションビルには女性アイドルのポスターが貼られていた。液晶画面にはお昼のニュースが現在の天気を教えてくれている。紫外線が強いから気を付けてとアナウンサーが言った。ガラス張りのビルの中にはお洒落なカフェでパソコン片手に何かをしている人たちが見える。


 白藍の空に入道雲が浮かんでいる。その奥に白い月が見えて月が満ちている事を知った。


 信号が赤の交差点を待つ人は溢れかえっている。私の手を取って離さないでと言った君に、離さないでくださいの間違いじゃない?と笑ってしまった。少しだけ心臓が高鳴ったのは私の中で留めておく。


 しかし、今日の私には目的がある。七年前から決めていたことを実行するならこのタイミングしかなかった。スクランブル交差点のどの向きに向かうかは決まっている。私はほくそ笑んだ。車の流れが止まっていく。信号が青に変わった。


 ちょっとしたいたずらだったのだ。いつかこのスクランブル交差点に放り込んでやろう、そしてあたふたする姿を見て君の手を引こう、それだけの理由だった。しかし、私のちょっとしたいたずらがこの先の私たちの人生を変えてしまうなんて思いもしなかった。


 信号が青に変わり人が一斉に動き始める。人混みの中、君の手を引っ張って歩く。後ろで人にぶつかりながら小さな悲鳴を上げている君が面白かった。そして中心部を越した時、君の手を離した。


「よる!?」


「じゃあ向こう側でねー気を付けて」


 焦る君に手を振りながら先を目指す。生まれてからずっと東京で過ごしてきたのだ。これしきの人混みなんて造作ない。スイスイと人を交わしながら先に向こう側へとたどり着く。後ろを振り返れば君は見えなかった。


 人の波を見て頭を動かすも、どこにも見当たらない。名前を呼んでみたが反応はなかった。


 これはやってしまったか。好奇心ゆえのいたずらを酷く反省した。とりあえず会ったら謝ろうと携帯電話を手に取る。信号は赤に変わり人は完全にスクランブル交差点内からいなくなった。幸いにも残されて事故にあったというような事はなかったようだ。そうすれば、この四隅のどこかに君はいるだろう。


 電話帳を開いて月代あおいという名前をタッチする。普段なら無料のアプリケーションで通話をするが、この人混みの中ではより音質がいい方がいいだろう。無料故に少し聞き取りにくい時があるのがアプリケーションの難点のため直に携帯電話にかける。耳に当てて辺りを見渡せば、近くから着信音が聞こえた。


「あおい?」


 音の鳴る方に歩けば君の後ろ姿が見えた。ああ、ちゃんと渡れたと安堵をするもスーツを着た男性と何かを話していた。君は携帯電話を手に取り画面を見る。男性に頭を下げ電話を耳に当てた。


『よる?どこに…』


「後ろにいる」


「うわあ!!びっくりした!!」


 跳び上がった君を見て私は通話終了ボタンを押す。君の隣に立って男性を一瞥した。男性はじゃあと言って軽く頭を下げる。その仕草を見て反射的に頭を下げれば隣にいた君も頭を下げていた。


 男性の姿が見えなくなった所で信号が再び青になろうとしていた。このままではまた人混みに揉まれるので君の手を引きその場を離れる。近くのカフェに入り、席に着いた所で君は声を上げた。


「何で置いて行ったの!」


 それは怒りというより心底不安だったと言わんばかりの表情で、幼い頃見た君の顔だった。


「ごめんごめん、いつか放り込んでやろうと思ってて」


「離さないでって言ったじゃん」


「ごめんって。うろたえる姿が見たかったんだよね」


 見れなかったけど、と言えば店員が注文を取りに来たので目に入ったフルーツ入りのソーダを指差す。君も同じ物を頼み鞄を隣の席に置いた。その手には名刺が握られていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ