「君が私を照らすのと同じように、私が君を輝かせたのだ」
「太陽は皆から愛されるでしょ。最初から無条件に。でも月は違う。夜を照らす光にはなるけれど、毎日見えるわけではないし太陽が昇っている間も空に見えるのに目立たない」
「まあ、最初から大勢に愛されるような人生ではなかったね」
「でも夜を照らすには月が必要で、影で一番頑張っているのは月だと思うの。だって私たちは真っ暗な夜に月明かりがなかったら迷ってしまう」
星の明かりと月の明かりではレベルが違う。真っ暗な夜に星が輝いていたとしても、数え切れないくらい無数の星が輝いていなければ、足元は見えないだろう。けれど月は違う。古来から人々を照らしてきた。真っ暗な夜を優しく照らし、人々を助けてきた。太陽と比べたら地味かもしれない。しかし、なくてはならない存在だ。
「あおいの人生は月明かりだと思う」
「よるを照らすから?」
得意げに口角を上げた君に私は苦笑してしまう。
「そう、よるを照らすから」
「でも逆に、夜がなければ月は輝かないよ。太陽が昇っている間と同じように見る人にか分からない惑星になる」
「暗いから輝くの?」
「よるがつきを輝かせるんだよ」
「私がいなくてもあおいは輝いたよ」
「違うよ。よるが背中を押したから挑戦しようと思ったんだ。よるがいなかったらこのままこの町で生きていたと思う」
「東京に憧れを抱いたまま?」
「そう、スクランブル交差点の人混みを体験しないまま」
君と目を合わせて笑い合う。もし出会わなければ、君は確かに人前に立つ職業を選択しなかっただろう。私は東京でありがちな人生を送っていただろう。そしたらこんな若さで死ぬこともなかったのかもしれない。けれど、会ってしまったから。君は人前に立つ職業を選び、私はありがちではない人生を送ろうとしたのだろう。今更何を言った所で変わらないが、結末が分かっていようとも私は君と出会う選択をしただろう。
夜が月を輝かせたのと同じように、月が夜を照らしてくれたのだ。もう一度空を見上げれば月は輝いていて夜と共存していた。まるで私たちのようだという言葉は恥ずかしいので口にはしない。けれど、君も同じ事を考えているだろう。
「さて、もうお風呂湧いたよね」
食べ終わった西瓜の皮が入った皿を持ち、立ち上がった君が一度伸びをする。伸ばされた手が風鈴に当たり音を鳴らした。私もタオルを手に取り立ち上が伸びをする。肩甲骨から不気味な音がしたが気のせいにした。
障子に手をかけ縁側に繋がった廊下を閉めようとする。すると君が振り返るから後ろ手で閉めて首を傾げた。
「なに?」
まるでいたずらをしようとしている子供のような顔だ。その表情に思わず頬が引きつってしまう。この顔をしている時の君はろくな事をしないからだ。
「一緒に入ろう」
力いっぱい腕を引かれて引きずられてしまう。ほら、やっぱりろくな事じゃなかった。溜息を吐き、お皿を流し場に置いた君を見て思いっきり腕を振り解いた。
「絶対嫌!!!!!」
この後三十分にも及ぶ攻防戦があり負けた私が腹いせに昼間駄菓子屋で買ったガムの外れを君の口に放り込んで悶絶させた事は、語る必要すらない話だ。




