「君の人生を語るのは、君を知っている人であれ」
「そっか」
「思い出す気にはなった?」
「思い出さないと無意味にあおいに当たって傷つけたっていう最低な理由になるからね」
「当たった件に関しては僕も人のこと言えないけどね」
「そうだね。反省すべきだね」
「反省してるよ?だからよるも反省してね?」
「考えとく」
君の肩から頭をどかし手元に残っていた西瓜を食べ切った。皮を皿に置き、隣に置いてある濡らしたタオルで手と口元を拭く。ついでに君の口元についていたカスも取ってやった。
「ちょっと待って。いつからついてた?」
「よるにはやりたい事があったよって所から」
「うわ…格好悪い。めちゃくちゃ良いこと言ったと思ったのに」
「あおいが格好悪いのは今に始まったことじゃないから大丈夫だよ」
「フォローになってない…」
うなだれる君を見てこの姿は私だけしか知らないのだと思い嬉しくなるのは内緒だ。
「思い出すねぇ…複雑だ」
何を忘れたのかも分からない。どこから思い出せばいいのかもわからない。複雑だ。難しくて仕方がない。
「シンプルだよ」
「そう?」
「よるがよるである限り、必ず思い出せることだから」
君の横顔が月明かりに照らされている。長い睫毛が頬に影を作っていた。それを見て、死ぬ前にスクランブル交差点で見た君の映像を思い出す。
「そういえばさ」
「何?」
「死ぬ前にスクランブル交差点であおいの映像が流れてたんだけど」
「へえ、何で?特集?」
「多分三回忌だからかな?その中でコメンテーターが、太陽のような人生を歩んだ人だったって言ったの」
「太陽?それはまた大げさだね」
君はおかしそうに声を上げて腹を抱えた。
「でもね、あおいが死んでからメディアは皆、太陽のような人だったとか、太陽のような人生を歩んだって言ってたから皆の頭に染み付いちゃったんだろうね」
メディアの情報は影響力がある。それが真実か嘘かは置いておいて、一度つけられたキャッチコピーがそう簡単に消えることはない。
「よるもそう思う?」
ツボに入ったのだろう。おかしそうに涙を拭う君は楽しそうで、その表情は年相応のものだった。
「思わない」
即答だった。君は鼻を啜りながらだよねと呟く。
私は君を知っている。君の母親の次に、君の事を理解している。だから君がどんな人間でどういう人生を歩んできたのか、全て見てきた。どれだけ努力をして、理不尽な事と向き合って、悔し涙を流したのも知っている。全部見てきたからこそ、太陽のような人だとは思えない。
太陽はずるい。朝、東の空から昇って西の空に沈むまで皆に愛される。曇りの日があれば太陽を恋しがる。太陽が沈んだ後の夜を嫌う人は多い。太陽は最初から皆に愛されている。でも、君は違った。
「私はあおいの人生は月明かりのような人生だったって思ったの」
「月明かり?」
「うん」
「月代だから?」
「そんなくだらない理由じゃないよ」
事故に遭う前の正午過ぎの月は薄く白く太陽と比べたら目立ちはしなかったけれど、目にする人は目にするだろう。夜になって、空に月が浮かんでいる日が毎日あるとは限らない。太陽は朝になれば曇りであれ雨であれ、雲の上で世界を明るくさせるが月はそうではない。




