「やっぱり自分で作った料理の方がおいしいと思ったのは内緒だ」
「だからごめんって」
台所に立つ私の横で君は両手を合わせ謝り倒している。
太陽はいつの間にか沈み始めていて、風は日中よりも涼しくなり始めていた。縁側に吊るされた風鈴が鳴り蝉時雨はまだ止む事を知らない。私は君の言葉を無視し冷蔵庫を開ける。昨日は気づかなかったが溢れかえるくらいの食材が入っている事に気付き安堵すると共に、記憶の中にあるこの冷蔵庫はいつもパンパンだった事を思い出した。心配性な叔母の性格故なのだろう。いつ、何があってもいいようにと考えられて買われた食材は無駄になってしまうのではないかと心配するほど沢山あった。
「ねえ、よる聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
君の言葉を適当に流し、冷蔵庫から胡瓜やハム、卵を手に取り調理を始める。卵は割り溶いて油の敷いたフライパンに、ハムと胡瓜は細長く食べやすいサイズに切っていく。
「もうしないから」
「その言葉生きてる時もよく聞いたけど本当にしなかったことないよね」
フライパンいっぱいに伸ばした薄焼き卵を箸でひっくり返して火が通るのを待つ。隣に水の張った鍋を火にかけて沸騰させる。その間に流し場にざるを置いてすぐ後ろに立つ君をジェスチャーでどっか行ってと指示する。それを見た君は顔を両手で覆い再び謝罪の言葉を口にしてきた。
「本当にしない。人のアイス勝手に食べるのもうしない」
「別に怒ってないよ。ただ、あおいがもうしないって言って本当にしなかった事ある?」
「ぐうの音も出ない…」
焼きあがった薄焼き卵をまな板の上に乗せて何度か折り、胡瓜やハムと同じくらいの大きさに切り揃えていく。沸騰したお湯に中華麺を入れて換気扇の上についているひよこ型のタイマーをセットする。君はまだそこにいた。
「ねえ、すっごい邪魔なの気づいてる?」
「はい、すみませんでした」
君を一瞥すれば反省した様子で台所から出ていった。料理をしている間真後ろに居続けられるのはかなり邪魔だし、やめてほしいという事は生前から口にしていたが君は構わず後ろに立ち続けた。効率よく動きたい私にとって同線上に君がいるのはかなり邪魔なのだ。君は大人しく居間に敷かれた座布団の上に座っている。
帰り道に食べられたアイスのせいで機嫌が悪いと思われているのだろうが、半分正解で半分間違いである。確かに勝手に食べられたのは腹が立ったし食い意地ばかり張っている私には大変イラつく行為であった。しかし君がもうやらないと口にした事は大体もう一度やるし、言った事すら覚えていないのも分かっている。
いい加減学習してほしいと思いながら調理を進めていく。タイマーが鳴って麺をお湯ごとざるの中に流しいれていく。流水でしめて麺つゆ、しょうゆなどを計量カップに入れタレを配合していく。麺を盛りつけ先程切った具材を盛りつけた後、冷蔵庫に残されたカニのかまぼこを割いて入れ計量カップに作ったタレをかければ完成である。
「出来たよ」
「分かったー」
間延びした声が聞こえ、私は両手を洗いエプロンを解いた。麦茶の入った容器とグラスを二つ手に持てば君が現れて盛りつけた料理をおいしそうと言いながら卓袱台に運ぶ。向かい合わせに置かれた皿の中には冷やし中華が入っていた。
「やっぱり夏は冷やし中華だよね」
「あおい好きだよね」
「よるの作る冷やし中華のタレは絶妙だからね」
「大したもの入れてないけどね」
グラスに注いだ麦茶を口にし、いただきますと声を揃えて箸を持った。部屋には赤い夕陽の光が差し込んでいた。




