「おいしさも感動も、全てを共有していた」
色鮮やかな駄菓子たちに目を奪われていたが、支払いは君持ちだという事を思い出す。あの財布の中に紙幣が大量に入っている事は知っているが些か気が引けるものだ。
「三つまでね」
案の定制限を出してきた君に苦笑しながら駄菓子を選び始める。
お金の問題ではないだろう。金銭面で苦労していない事は知っている。昔はそうでもなかったけれど、君の職業上、稼いでいたのは知っていたし給料明細もいちいち見せてきたから大体は把握している。これは夜ご飯が入らなくなるから食べすぎるなという牽制だ。
何を選ぼうか考えていると奥の方に白い大きなクーラーボックスが目に入った。近づくと冷気を放っていて、中には凍ったゼリーやアイスが入っていた。霜が降りてパッケージにこびりついている。その中に一際輝くお目当ての物を見つけて思わず口角が上がってしまう。それを手に取り、先程まで見ていた棚に戻って赤色の小さなプラスチック製の缶に入ったラムネと一つだけ酸っぱい味が入っているガムを手に取った。
「決まった!」
駄菓子を選んでいた君は私の手の中を見て少しだけ驚いた表情を見せた。
「そのガム三個入りだよ。どっちかが当たらなかった場合どうするの」
「じゃんけんして負けた方が食べればいいと思う」
箱の隣に置かれた大量のビニール袋から一枚拝借し商品を入れていく。
「三個までって言ったけどアイスはカウントに入れなくても良かったのに」
「いいの。食べ過ぎはよくないから」
君の手には透明な袋に入ったカルメ焼きが二つとラーメンのスナックが入っていて、私も君も、選んだ全てのものが一緒に食べる前提の選び方で笑ってしまう。お互い好きな物を選んだけれど、相手と同じ食べ物を食べ感動を共有したいがために一緒に食べる事が出来る食べ物を選んでしまうのだ。
「それでいいの?」
「うん。家に帰ったら食べよう」
「いくらだった?」
「えっとね、三百八十円」
君の選んだものも含めて値段を見て脳内で足し算をする。算数はあまり得意ではないが間違ってはいないだろう。君は選んだ物を私が持っている袋に入れて財布を出し箱に小銭を入れた。
「細かいのなかったから四百円でいいかな」
「いいんじゃない?チップ代って事にしよう」
支払いを済ませた君は私の手から袋を奪い中に入っていたアイスを手に取った。アイスの袋を破けば二本の棒がついた綺麗な空色のソーダアイスが顔を覗かせる。真ん中には線が入っていて君は両方の棒を持ち力を入れた。パキッと音が鳴ってアイスが半分になる。片方を私に差し出してきたのでそれを受け取って感謝の言葉を口にする。荷物は君の手に収まったままだった。
「久しぶりのソーダアイス」
引き戸を開いた君が嬉しそうにアイスを口にする。外に出て引き戸を閉めた後、私もアイスに口をつけた。
唇が張り付いてしまいそうなくらい冷たいアイスが口の中の温度によりゆっくりと溶けてソーダの風味を広げていく。久方ぶりに味わった懐かしい味に目を閉じて堪能する。これだ。これが青春の味なのだと頷きながら口の中でアイスの欠片を転がした。君を見れば同じように目を閉じて久しぶりに食べた懐かしい味を堪能していたので嬉しくなってその腕に抱き着いた。
「おいしいね」
「懐かしい。よくよると半分こしたよね」
「した。この安っぽいソーダの味が好きだった」
おいしいソーダアイスはいくらでもあるだろう。けれど私たちの中のソーダアイスはこれだったのだ。安っぽくて香料が沢山入っている偽物みたいなソーダアイス。夏の間幾度となく半分にして食べたこのアイスは、現実世界にはもう存在しない。無くなったと知った後食べ始めたのはプラスチックの容器に入った二つ入りのアイスだったが、やはりどうしても物足りなさを感じていたのは否めなかった。それがこんな所で味わえるとは。白昼夢万々歳だ。
相も変わらず私の手を引いて歩く君の背を見ながらアイスを頬張る。昔も同じようにアイスを食べながら家路についたが手を繋ぐようになったのは思春期を越してからだ。だからこの路地裏で前を歩く背中が大きいのに少しだけ違和感を覚える。この路地裏を歩いていた頃の私たちは子供で、君は私よりもずっと小さかった。
「ごちそうさまでした」
「早い」
早々に食べ終わった君は棒を回しながら歩く。私と言えばまだ半分ほどアイスが残っていた。先が溶けて指に伝い始めたから焦って下の部分を舐める。
「いつも思うけどアイス食べるの遅いよね」
「これでも頑張ってる方だよ」
アイスは好きだが一口食べる度冷たさに顔を歪めて咀嚼してしまうため早く食す事は出来なかった。
慌てて食べる私を見て君は一口アイスをかじる。一口と言えどそれは大口で一気に残り半分以下になってしまったアイスを見て私は声を上げた。
「勝手に食べないで!」




