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ご飯は洋食だった。あまりにもそれっぽくて面白くない。意外性というものがない。ゲテモノを出されるよりはマシかもしれないけれど、それでも裏切られた感じが否めない。すごく期待していたのに。
厚くスライスされているバゲットにスープは多分コンソメ、サラダも見慣れたもの。その横にたかそうな器にゆで卵と少し分厚いベーコン。そして果肉が綺麗に見えるようにカットされた柑橘系フルーツ。ゆで卵のそばに置かれた小ぶりのスプーンがお貴族様って感じだ。
「どうぞ、食べてください。食べながら話しましょう。」
そう言ってブライトはバゲットを手に取る。そして当たり前のようにちぎって口へ。正しいパンの食べ方そのままだ。
「いただきます。」
手は合わせて言うときと、言葉だけの時と、手だけ合わせるときとある。けど今日はちゃんとする。正しいパンの食べ方を見ていたらちゃんとしなくちゃいけない気になる。
「いただきます。」
「いただきます。」
いつ話していいか分からないから、自然と咀嚼音が響く。美味しい。コンソメスープ、絶品。バゲットも美味しい。ゆで卵はコツンとメイドさんが上の方だけ殻を取ってくれた。やっぱり中身は半熟。あったかい。
「さて、コトリとは昼からもすこし話をしたんですが、ショウタとサキはどうしましたか?何か不便なことはありませんか?」
「いえ、特にはないです」
「私もありません」
「そうですか」
会話が終わる。気まずい。咲ちゃんと中田くんがちらちら目配せをしていて、多分したい話があるんだろうけど、周りがお邪魔なんでしょう。けど何の話をしたいか分からないから、話が振りにくい。
「いいですよ、自由に話してください。食事は楽しくとるものですから。」
あ、気を使われたな。じゃあ遠慮なく。
「ピータン粥じゃなかったね。予想外だよね。」
「それは琴ちゃんだけだよ。」
あれ、そうだったかしらん。中田くんに目を向けると、可哀想な子を見る目で見られてしまった。大変不服だ。そんな目で見ないで。
「そういえば昨日は私抜け駆けして勉強したんだよね。ごめんね先に賢くなって。」
「えっ、どうだった?」
いつも通りを心がけてあっさり言う。そのまま会話が続く。
昨日は2人ともいろいろとパニックだったらしい。よくそんな早く切り替えができたなと言われた。優秀だからねというとブライトから視線を感じた。無視した。
「賢くなったというほどのことはしていませんよ。」
「あっ、そうなんですか。」
おい嘘つきだと思われるだろ。どんなことをしたのか聞かれた。ブライトが答えた。
いくつか昨日聞いたことの確認が行われていく。スケジュールはどうするか、都合の悪いことはないか。食べてる時は絶対に喋らないようにするから、会話はゆっくりと進む。
たくさんの量を食べていたわけではないのに、時間をかけたからかお腹がいっぱいになった。食べ終わったのは私が最後だ。
ごちそうさまでしたと言って口を拭う。
「さて、コトリも食べ終わったことですし、最初の講義の先生方を紹介しますね。移動しましょうか。最初は確か国学でしたね。」
国学。この国の歴史。ということは、私たちが呼ばれたルーツも教えてくれるかもしれない。3人が一緒に受ける講座だ。
私は暗記教科がとても苦手で、歴史は点数が低かった。けどそうもいかないだろう。なんなら語学と並んで大事だ。生活のこともこの国の人に対する印象も、他の国との関わりだってジャンル的にはこの教科しかない。サボっていたらあっという間に騙されてしまいそうで怖いし。日本人のなかでもノロマだしね。
あれ、待てよ。文字が読めないってことは、口頭オンリーじゃないか!嘘だろ、そんな恐ろしいことあるわけない。
「どうしたの、琴ちゃん。」
「挫けずに生きようぜ、2人とも。」
「うわぁ嫌な予感。そんなに難しそうだったの?でも和泉さん歴史系苦手だったよね?」
目を合わせてにやっと笑ってみせる。
甘い甘い。そんな問題じゃないんだよ中田くん。さっきのお返しに可哀想な子を見る目で中田くんを見る。憐れんであげよう。咲ちゃんと一緒に私は頑張るね。
「3人とも、もう気はすみましたか?」
はい、お待たせして申し訳ありませんでした。ドアの前で待たせているブライトとトーザの元に向かう。お偉いさんを置いてお喋り。なるほど確かに褒められたもんじゃない。
「今行きます。お待たせしてすみません。」
今のは、申し訳ありませんと言った方が良かったのかもしれない。けれどまだ高校生だったから、使い慣れない。正しいのかもわからないけれど。
「大丈夫です。国学の講師はそれほど堅い人ではないですから。」
あからさまに言われる。小声で話していたと思っていたのだけれど、ここまで静かだときこえるのか。
けれど少しほっとしながら、ブライトに続いてドアをくぐった。