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帰りはベルを鳴らした。まだちょっと緊張する。そんなに大層なものじゃないと後ろからちょっと笑い声が聞こえたけれど聞こえなかったふりをした。睨むのも少し子供っぽい気がした。それに振り向いた瞬間また笑われそう。絶対向かない。


「それでは私は先に行きますね。」


「ベルは鳴らさなくていいんですか。」


「それはお客人用ですよ。私はちゃんと自分で部屋に帰れます。それに自衛もできる。」


ブライトはそう言って軽く腰につけている細身の剣を揺らしてみせた。


似合っているところがまたなんというか。多分明日も明後日も似合ってるんだろうな。王子様め。



「お呼びでしょうか、お嬢様」


迎えに来てくれたのは若いメイドさんだった。マリアさんも素晴らしくきっちりしたお団子ヘアだったけれど、この人もそうだ。髪型含めて規定があるのかもしれない。


けれどマリアさんと違ってあまりお喋りをする雰囲気ではない。事務的だ。基準がマリアさんだから、どっちに合わせたらいいのかわからない。とりあえず会釈をして黙ってついていくことにする。


「お嬢様、お食事はいつお持ちしましょう。」


「今から15分くらい経ってから用意していただくことはできますか?」


「わかりました。そのようにいたします。」


「ありがとうございます。」


「お風呂の準備はいつにいたしましょう。」


きた。これが怖い。マナーだなんだと言われるけれど、できれば断ってしまいたい。トーザもブライトも男だから相談しようがなかったんだ。マリアさんとは別の話をしてしまったし。


「自分で支度はできます。」


「そうですか、でしたらそのように。」


オッケーなんだ。


彼女は部屋に着いた時も綺麗なお辞儀だった。礼儀正しく、品行方正な感じ。遊びはないけれど好感が持てるタイプだ。名前を教えて欲しかったけれど、多分忘れてしまうから、いいや。好感が持てるのと印象に残るのは別問題だ。人によってはあの仕草全部が完璧、素晴らしいって人もいるのかもしれないけれど。


まあ、今は人の名前より物の名前かな。15分後とは言ってあるから、時間はまだある。持ち帰ってきた単語帳をパラパラめくった。あれだけダメ出しされたのだから、これは絶対に正しい単語帳なのだ。


本当は思い切り口に出して覚えたいし、なんならベッドに寝転がってパラパラしたい。15分くらいならだらけてやっても許されると思ってる。


難しいけれど1日50個ならうろ覚えレベルまでいける。根拠はないけど。


ご飯は美味しかった。緊張したけど。

お風呂は最初に見た通り大きかった。

髪の毛を乾かすドライヤーまで用意されていた。


部屋に戻っても変わることなく至れり尽くせりだ。




けどとても静かだ。単語帳でも見ようかな。嫌にページをめくる音が響く。

壁を叩いて見ようかな、と思う。誰かから何か合図が来るかもしれない。そんな壁薄くないから無理か。まず迷惑。


えー、さびしい。

お家でも1人でいることは少なかった。勉強するときくらい。もしくは本読んでるとか。ここでは文字も大して読めないから本も読めない。つまらない。


独り言いう趣味もあんまりない。早く明日になーれ。

さーた、さーた。昔々。多分覚えられたのはこれだけだ。音読したい。手持ち無沙汰だ。何にもない。娯楽がない。なんてこった。夜中に人のうちを探索したりも多分アウトでしょ。


ふかふかでだだっ広いベッドがすごく憎らしい。めっちゃふかふかなんだけど何それ。その半分の幅でいいわ。こちとら庶民だぞ。朝髪の毛落ちてたらどうすんだよ気を使うだろ。


なんだよくそう。何かしたいんだけど。枕変わると寝つき悪いんだけど。低反発枕用意してみろや。まだ初日だぞ。くそくそくそう。何だよ。ホームシック早いんだよ。


めっちゃくだらない話ししたい気分なんだけど。誰かいないの?共感してくんないかな?聞き流してくれるだけでもいいからさ。

ほんとこのベル超憎らしい。自分で行くし。メイドさんいらないし。もう図書館は1人で行けますけど?


「何だやることないって。」


ふざけんなよもうお家のベッドでおねむの時間だわ帰せ。定時で帰らせろ、ばーか。何もかもはまらない限り楽しいのは最初の1時間から長くても1週間だわ。その内全部飽きてつまらなくなるんだから。


もういいや。寝よう。夢であることを祈ろう。


ベッドの壁際に行くまでに時間がかかる。しかも沈む。寝返りを打つたびにふかふかする。寝るとき用のパジャマまで用意されていた。ワンピース型のこれは寝返りするたびに体に絡むみたい。


寝よう。

ブルーライトも無いのに眠れない。

寝よう。

寝る時に限って足の間に入って寝返りを邪魔する猫もいないのに眠れない。

寝よう。


眠れない。寝ろよ。

豪華にも用意されているベランダに行く。暗い。正面を見てもあまり電気が付いていないから、下を見るとそれなりに付いている。まだ働いてる人がいるんだ。そうだよな、お仕事は大変だよな。


上を見る。


「うーわぁ」


星がすごく綺麗だ。街灯があんまり無いのかもしれない。星座もきっと違うんだ。


仕方ないな。違う世界らしいですから?


すごくよく眠れた。





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