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ブライトはまずどこからか分厚い本を取り出した。
「いいですか、この世界では傭兵に向かない職業があります。それが言霊です。しかしながら、そういう自由な職業に向く属性というのも、言霊なのです。また、言霊という属性は役者向きとも言われています。」
「言葉に関する属性だから。」
「その通りです。素晴らしい役者、歌姫、狂王、賢王、伝説になった詐欺師。逸話は多くありますが、それらは全て言霊の3の力を持っていたとされています。ですがそれらは全て当時の人間の作り話であったというのが定説です。なぜだかわかりますか。」
「見た人がいないからですか。」
「違います。3の力、というのが重要なんです。見ていても見ていなくても関係ありません。3というのは中位を表す数字です。」
こいつバッサリ切りやがった。
持ってこられた分厚い本の遊び紙。見た感じかなり分厚い。あと全体的に黄ばんでる割にあんまりパリパリしてないから、それなりに手入れされてるのかもしれない。それか紙がいいのか。紙か。
そこに書かれた言葉をブライトは読み上げてくれた。
1の力は私を生かして、
2の力は貴方を助けて、
3の力は誰かを見つけて、
4の力は貴方を陥れ、
5の力は私を殺す。
次にその裏面の言葉を読み上げた。
光は貴方を照らすけれど盲目にもする。
闇は貴方を包むけれど見失わせる。
水は貴方を生かすけれど溶かしてしまう。
火は貴方を導くけれど傷つける。
草は貴方を根付かせるけれど損なう。
力は貴方を大きくするけれど畏れを負わせる。
言霊は貴方を高めるけれど偽らせる。
「聖霊が大昔に存在した国の王に魔術を教えた時の言葉だと言われています。私たちは国の違いや宗教の違いはありますが、この言葉だけは正しく伝えられます。3は誰かを見つける力。その通り、強くも弱くも誰かに何かを与えられるほどのものではない。事実、他の属性でも3というのは強くはあるけれど特筆すべき力ではありません。」
「けど4の力はそうないとか、言ってませんでしたか。」
「そうです。4からは数が激減する。伝説になる人もそこから多く輩出されます。物語になった人物もいます。この貴方、である王も4の力を持っていたと言われています。ですが世界の8割が3の力を持つのです。3という数字は全く珍しくない。表に書かれてあるこの言葉も当てはまります。」
聞いてみると、貴方は王様、私は聖霊。じゃあ誰かは、不特定多数の人間の誰か。言葉こそその不特定多数に最も関係深いのに、何故か、言霊には3の力が出なかった、そう言われている。
「おかしくないですか。まずそんな圧倒的多数の3を飛ばして4っていうのも不自然だし、言葉的にも、なんて言うんですかね、誰か、に対してなら1番言葉がふさわしい感じがしませんか?」
私の感覚がおかしいのか?おかしいと言われていることがおかしいようなきがする。
「他の属性の比べて影響力が強すぎる、というのが主な理由です。3は弱くもないが強くもない、これがほかの属性に当てはまるんです。言霊と並ぶ力の属性に対してもです。それで言霊だけが何千何万の人に影響を与えられるというのはおかしいでしょう?」
「じゃあおかしいっていうのは数字に対して影響力が強すぎるっていうことですか?」
「そうです」
「でも3って言霊では見たことないとか言ってませんでしたか」
「ええ」
なんなんだろう、へんな属性だなぁ。考えても出ない気がする、次に行こう。
「じゃあ、それになぞらえて、お話が正しかったと考えて言えば私も王様達と似たような力があると。」
「そうなりますけれど、そうではないとも言えます。いかんせん、伝説になった偉人達の力が非現実的すぎるんです。貴方を除いて私たちは現在生きている言霊の3以上の人間を知りません。」
「それなら私が傭兵があんまり向いてないなんて理由あります?前例がないわけであって、つまるところそれは馬鹿をやらかしてしまった人がいないっていうこともあるのに」
3の力を持つ人が飽和状態なら、その中で優秀な人は他の技能を磨いているんじゃないだろうか。なら私もそれを磨けばいい。ほら、言霊であってもなくても関係ない。
「コトリ、口調」
「すみません。まず属性って理由にならないと思います。発明って魔術が関係するんですか?傭兵業で言霊がアウトとかあります?」
「理由にはなります。関係もしています。ダメにもなります。納得はできないかもしれませんが」
じゃあ何が理由なんでしょう?納得できなくても仕方ないと思う場面もあるだろうから、とりあえず言ってみてほしい。
「親和性の話になるんです。属性というのは、その人に相性のいい物が選ばれているだけなんです。ですからその火の属性の発明家の作品は炎で鉄を溶かして作ったものが多かった。また大きな火力にも対応できる発明も多かったんです。言霊を持つ人間はその通り言葉に対して影響力が強いんです。だから雇い主は言霊持ちを嫌がります。金銭面で本気でごねられたらかなわないと思ってるんです。」
わからないこともない。けどまあ理不尽だとも思う。
お金ちょろまかなんてしないし!
「ですから傭兵業ではお互い違う属性の人間が組むことが多いんです。仲間に引き入れたい人間も探せばいるかもしれませんが、一緒に仕事するだけならあまり歓迎されません。」
上にいてもらうとちょっとは面白いことが起こせるかもしれないけれど、下に入られてちょこちょこ面倒起こされると迷惑だってか。
「そんな面倒くさい人間ならここから追い出した方が簡単に物事が進みそうですけれど?」
関係ありませーん、自己責任ですって言えばへんな疑いもかけられなさそうだけど。
「もう私はコトリたちの後見人と王様に言われてしまいましたからね。王様の言葉は絶対です。」
王子様も大変らしい。