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嘘だろ、読めねぇ。


この際、言葉遣いは置いておく。読めない。この動揺をどうか誰かにわかっていただきたい。最初に興味を持って私は一番最初に目に入った魅力たっぷりの分厚いハードカバーの本をめくったんだ。興奮してたから、内容関係なく読んで見たくなったんだ。


読めなかった。

次の棚、次の棚、もしかすると他のとこからもいっぱい人が来ていて、その人たちが書いて言った古文書的な何かかもしれないって。

読めなかったよ、ちくしょう!

ほんとやってくれたな、絶対ゆるさん。


「お嬢さん、お嬢さん」


「はい?うわっ」


肩を叩かれて振り返ってみると、ブライトだった。正直会いたくなかった。ちょっぴり負けた気分だ。


「勤勉なコトリさん、予習ですか。いい心がけですね。大変よいと思います」


「申し訳ありません。図書館ですので、静かにしていただいても?」


「じゃあ教えてあげるから出ましょう。私今はあなた方に一般常識を軽く伝えるはずの時間なんです」


「教えていただいた記憶がありません、おかしいですね」


「教えてませんから。言うでしょ、建前は大事って。休みをもらうのもなんらかしらの名目が必要なんですよ。」


人の切実な問題を言い訳扱いか。おんなじ立場なら足でも踏んでやるところなのだけれど、あいにくここでは人目がありそうだ。


「教えてください。」


満足そうにブライトは笑った。


「賢い子は大好きです。」


しらんぷり。


ブライトが言うには、他の何処かから、導かれたらしい私たちは、言葉こそ通じるものの文字でのやり取りができないと言うのが一般常識であるらしい。


「紙をくださいません?」


「そのベルはなんのためにあるんですか?」


「図書館で鳴らすものじゃないですから。場所を言ってくれたら自分で行きます。」


「ありますよ、紙。ペンも入ります?」


いるわ。白い木でできたテーブルで書き物をするのは少し罪悪感がある。裏写りしないかな。


「書くんですね。後でショウタ達に見せるんですか。案外まめなんですね。」


「学んだことは書くのが当たり前でした。それで?文字を教えてくれるんじゃないんですか。」


差し出されたのは絵本。挿絵は独特の、うまいのだけれど、あんまり子供受けしなさそうな、昔話ぽい絵本だ。


「これはね、さーた、さーた、って読むんです。」


「意味は、昔、昔?」


「そうです。言霊の力を持ってる人間はそういう、言葉に対する理解が非常に速いというのも特徴です。声に出されただけで大概の言葉の意味がわかると思います。」


紙に書く。文字は単純。さーた、と呼ばれた単語の、その中のさらに1つの文字を指差す。


「これで、さ、って読むんですか?」


「はい。この文字だけでさ。この文字はこれと、これと、この文字が先に着いた時だけ伸びる音になります。」


じゃあ、ある意味日本語と英語のコラボだ。大概の物は五十音表みたいなのを作れば読めるとか思ってたけど、これはやばい。


「こんなものもあります。」


差し出されたのは、所謂単語帳である。まだ説明文も単語もわからないのにどうしろっていうんだ。差し出されて開いてみたけれど、おんなじ故郷の人が遺してくれた参考書、というパターンではなかった、残念。


「いいですか、言葉こそ通じますが、私たちの言語は別なんです。言霊の聖霊の加護で、私たちは会話をすることができます。逆に言うと、それを失ってしまうと会話をすることができません。」


「なくなる時はあるんですか?」


「過去に2回ありました。1人は偉大な発明家で、1人は凶悪な罪人でした。それぞれその後も生きてはいましたが、とても不便な生活を強いられたと聞いています。そうなったら困りますから、頑張ってくださいね、この単語が通じるなら、言霊の能力はだいぶ便利そうですし、大丈夫かとはおもいますが」


これがそのお話ですよ、発明家のお話です。そういって進めていこうとするこの人に、一抹の不安。こいつ、属性学でもこんなポンポン進めて行く気じゃないだろうな。


「ちょっと待ってください。読み方だけまずは教えてください。」


「大体でいいですか?」


「はい。これは書き込んでも良いものですか?」


「良いですよ。これは導かれた人たちに向けて作られた物ですから。原本がちゃんとあるんです。他のシリーズもありますよ。」


「じゃあとりあえず、時間はどのくらい貰えますか。」


「今日中なら望むだけ、いくらでも。ショウタ達は疲れていて、今日は休みたいらしいです。2人きりですね。」


しらん。


「じゃあとりあえずこの百ページが目安でいいですか。単語の読み方と、その簡単な意味。その後に説明文の単語の読みと意味と文章の意味を教えて下さい。」


これで多分文法も大体わかるはずだ。大丈夫、先生付きの参考書ほど受験生にとってありがたいものなんてなかったじゃないか。


「なかなか詰めますね。大丈夫ですか。」


「大丈夫です。休憩を取っていただけないのなら減らします。」


「取りますよ。質問があればその場で。紙はそのまま保管しておいてください。」


「わかりました」



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