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やって来たメイドさんには少し年配の方。


「マリアとお呼びくださいませ、お嬢様」


「マリアさん」


「いえ、敬称は身分が下のものにはつけないようお願いいたします。マリア、とお呼びください。」


「マリア」


慣れない。日本では年上の人、特に年配の人に敬称をつけないなんてほとんどない。けどこの人が満足そうに頷いているのを見ると、多分ここでは呼び捨てが正しい。


「図書館に行きたいんですけど、案内していただけますか?」


「もちろんでございます、お嬢様。ですがその前に、お化粧をさせていただいてもよろしいでしょうか。」


うーん。確かに私は18歳で、ラノベの貴族観的には成人。そうしたらお化粧をしないと言うのはマナー違反なのだろうな。でも、校則で禁止だから、お化粧したことないんだけど。要するに、ちょっとドキドキ。



「お嬢様は背筋が綺麗に伸びていらっしゃいますね。何か習い事でもされてらしたのですか?」


「いえ、特に何も。」


「そうなのですか。ですけれど、これだけ綺麗な姿勢を保てるのでしたら、きっとお嬢様はダンスがお上手ですわ」


「そうだといいんですけど」


できるメイドさんは話すこともそつなくこなす。話していたらあっという間にお化粧が終わったらしい。


「それでは御案内させていただきますわ。ベルをお持ちいたしますわね、お帰りの際もこれを廊下で鳴らしていただければ私でなくともだれか侍女が参ります。申し訳ありません。まだお嬢様方付きの侍女は決まっていないのです。しばらくご辛抱くださいませ」


ほんと至れり尽くせりだなぁ。本当は道さえ覚えてしまったら案内なんていらないし侍女さんだって気を使ってしまうし、あんまりいて欲しいわけではないのだけれど、それを言ってしまうとまた注意されてしまいそう。


「はい。ありがとうございます。それじゃあ帰りたいときは遠慮なく鳴らさせてもらいますね。」


ここは素直に受け取るが吉かな?


「私共に対してへりくだった物言いはお控えくださいませ。評価がお下がりになってしまいますわ」


なるほど、別方向でアウトだったか。


わかりました。そう言って足を早める。ちょっと、そろそろこのやり取りに飽きてきたような。それに、本当に、図書館に行きたいんだよね。いい人なんだろうなとは思うんだけど、それとこれとは少し別問題。


「図書館はどんな方が利用されるので?」


「学者様がよくご利用になります。貴族の方は家令の方々に手続きを任せますので、お会いすることは少ないかと。」


「そうですか。」


注意されないと会話が続かない。困ったな。さっきちょっとめんどくさそうな顔でもしてたかな?早歩きしたからばれたかな。


「調べたいこともあるんですけど、趣味としての本も探したいんです。おすすめの本とか、聞いても?」


「そうですわね。私どもはあまり本は嗜まないのですけれど、近頃人気ですのはやっぱり恋愛物語でしょうか。」


「なるほど。どこでも人気なんですね。私の友人も好きな子が沢山いました。」


「ですけれどやっぱり人気は二分されていまして。貴族の方々の間ではやはり同じく貴族同士の恋愛が人気ですわ。知らない間に出会っていて、お見合いで運命の再会をした話が人気なんですのよ。」


そんな雑談を繰り返していると、ひととなり、みたいな大したものじゃなくてもそれなりに表面上の人間性みたいなものが見えてくる。


「マリアさんもそういった恋愛ものはお好きでいらっしゃるのですか?」


「ええ……、娘が勧めてくれたものが面白くて。私のような歳の人間が読むものではないとわかってはいるのですけれど」


「まさか。読書に年齢制限なんてそんな無粋なものはありませんよ。下の子達にはあっていいかもしれないけれど。よければ題名をお聞きしても?」


教えてもらったのは単純な題名。単語ひとつで終わってしまう簡単な題名。多分、初恋、とか最愛、とかそういう系の単語を言ったんだろう。


「探してみますね。」


私には、その単語が理解できなかった。雑にいうと、知らない単語を知らないとわかっているけれど大体わかる、長文読解で想像できる……違うな。


ぽわっとあたたかい。むずむずする。そういうイメージ。それが何か大切なものを大事にくるんでいるみたいな。


それにぴったりする単語を当てはめているみたいだ。


「どうかされましたか?」


「いえ、何にも。私が知ってる広い廊下でもこの3分の1も幅がない廊下だったので、ずいぶん広いなと」


勘違いではないと思うけど、言うほどのことでもないような。まあ調べてみればなんなのか分かるかな。


こんな、広いお城にあるし、図書館なんてわざわざ言ってるんだから、きっとめちゃくちゃに広くて、蔵書だって沢山あるはずだ。いっぱい読もう。いっぱい勉強して、見てろよ。


いつか全員、私に鼻で笑われる日が来るからな。



そう思った私の期待は、見事に裏切られた。



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