引きこもり魔王と世界を金で買いたい女勇者
僕は成人まで生きたことがない。
「はあ、そうなの。それで?」
「つまりお酒を飲んだことがない」
「良い子ちゃんだったのね。じゃあほら、ここにお酒あるし飲めば?」
「だが断る」
これはもはや意地だ。
こうなったらなにがなんでも成人してやる。
成人してから、お酒は飲むんだ。
「でもさ、あんたの今回の生は人間じゃなく魔族じゃない?」
そうだ。
僕はもともとここからずっと遠い世界の『こうこうせい』だった。
不幸な病で成人前に死んで、次に転生したときには異世界にいた。
そのときはまだ人間だったが、その異世界で死んだあとまた転生し、さらに転生し、何度転生したのかもわからなくなったあたりで、ようやく今生にたどりついた。
あまりに何度も転生したせいか、細部の記憶は定かではない。
『こうこうせい』がなんであったのかも忘れてしまった。
「あんた今何歳だっけ」
「百五十歳」
オンリー今生カウント。
累積すればもっと行くだろうが、転生というのは往々にして知性や記憶にも影響を与える。
そのせいか自分で言うのもなんだが、全然老成した感じがしない。
転生していない同年代よりは多少無駄な知識がついているかもしれないが、いつだって心は新鮮。
人間換算十五歳のままだ!
「じゃあ、成人するまであと五十年掛かるわけね」
「神よ! なぜ僕を人間に転生させてくれなかったのですか! 人間だったら僕はもう成人してるのにッ!」
僕の叫びは城の中にこだました。
そう、ここはとある種族の王が住む大きな城の中。
通称を魔王城という。
僕はそんなお城の主だ。
つまるところ。
「しかもなんでよりにもよって魔王なんかにしたんですかーっ!」
「どんまい、永遠のお子ちゃま」
「ぶっ殺すぞ!!」
僕は魔族の王、〈魔王〉だった。
◆◆◆
「はあ、なんかよくわからないけど魔王がこんなんでちょっと拍子抜けだわ」
魔王城、玉座の間。
本来であればもっと多くの護衛魔族や、そんな魔王たちを倒しにきた勇者パーティーなどが集まって、騒々しくなりそうなものだが、今は残念ながら僕と一人の女の姿しかない。
「あんたがすがすがしいまでのクソ野郎だったら、金で買収した各国の傭兵を全部ぶち込んでやろうかと思ってたんだけど、まさか魔王が『ぼっち』で、しかも成人すらしていないお子ちゃまだなんて思わなかったわ」
僕と対峙する女が、玉座から伸びる真っ赤な絨毯の上で、大きな革袋の中の金貨を数えながら言った。
「ぐぬぬ……」
ぼっちであることも成人していないことも事実であるからには、反論できない。
でもこう、なにか言い返さないと負けな気がする。
「ま、まさか勇者がなにごとも金で解決しようとする金の亡者だとは思わなかった」
僕は玉座で肘掛けにもたれかかりながら告げる。
余裕たっぷりですのポーズだ。
「金に魂を売ったから髪も金色なんだよね」
「そうよ」
こいつ僕の皮肉を普通に受け入れやがった。
わざとらしくさらりと髪なんか揺らして見せて。
なんかくやしい。
お前本当に勇者なのか。
「くそぅ……」
どうやら口喧嘩では分が悪い。
アプローチを変えよう。
「ちなみにさ、君って勇者なわけだし、普通に自分で戦えたりするわけだよね?」
「ええ、それなりに。――でも札束で殴るほうが得意ね」
「この金の亡者めぇ……!」
勇者としてどうなのそれ。
いっそのこと僕の方が勇者っぽくない?
髪と爪は真っ黒で、目は血のように赤く、やろうと思えば翼とか角とか生やせるけど、きっとこの爽やかな笑みを見れば、みんなは僕をこそ勇者だと言うだろう。
あー、なんで魔族になんて生まれちゃったんだろ。
人間に生まれてればウッハウハなハーレム人生送ってたと思うんだけど。
「ところでさ、あんたの城にある金貨ってこれで全部?」
「あ、はい、全部です」
「ちっ、シケてるわね」
「言うに事欠いて……!」
この金髪碧眼の勇者は、黙っていればナイスバディにクールビューティーなまさしく女勇者にふさわしい容姿をしているが、ひとたび口を開けば金の亡者と化す。
この女は祖国の命にしたがって魔族の王である魔王を倒しにこの城へやってきたと言った。
道中は金の力を駆使して魔族と戦うことなく難関を素通りし、ときに魔族によって荒らされた街に金をばらまいては市民を蜂起させ、みずからは直接手を下さずその地を解放したともいう。
そんな女は僕に出会って早々、こう言った。
『この城の金貨を全部よこしなさい』
僕はお金にあまり興味がない。
食べなくても五十年くらいは生きていられるし、生活用品は城の中にたくさん残っている。
今この城で生活しているのは僕だけだから、ぶっちゃけお金なんかあってもたいして使い道がない。
「しかしどうなのここ。魔族の総本山として」
「どうもこうもない。今の時代どこもかしこも地方分権化が進んでる」
昔はそうではなかった。
しかし魔族の数が増え、進化による種族の多様化、人間との交流による文化の多様化が進み、徐々にウマの合う者たちで独立国家を築くようになった。
数多くいる魔族のすべてをこの魔王城から統治するにも限界がある。
僕としてはこれも一つの道だろうと納得済みだ。
……まあ、ちょっとさみしいけど。
「あんたはなんでここに残ってるわけ?」
あらためて訊ねられると返答に困る。
「いやぁ、別に外に興味ないし」
「嘘ね。偵察目的でこの城をくまなく散策したけど、外の世界を記した書物がたくさんあった」
「なにさらっと不法侵入をカミングアウトしているんだ……」
「偵察は基本。前準備をしっかりしてこそ、取引のときに相手の懐を揺さぶれるのよ。脅すにしてもなんにしても」
もう一度言う。
この女は本当に勇者なのだろうか。
「発言が完全に大悪党のそれなんだけど」
小悪党より厄介だ。
単純な暴力で脅すとかじゃなくて、入念に情報をかき集めてからゆするタイプ。
いやホントに勇者なのかこいつ。
「あ、あの本たちは昔病弱だった僕のために両親が集めてくれたもので……」
「へえ」
両親――つまるところ前魔王とその妃は僕が四歳のときに死んだ。
原因は病だ。
魔王なんてのも病には勝てないのだと、細菌類の脅威をあらためて知った。
「あんたが今百五十歳だから、百四十六年前に死んだわけね」
「う、うん」
「でもここ最近――具体的には五年前に発行された書籍まであるのはどういうことなの?」
「がっでむ!」
なんて頭の良い大悪党だ!
まったくたちが悪い!
「そ、それはそのぅ……」
「やっぱり嘘ね。じゃあもう一回訊くけど、なんであんたは城から出ないの?」
「……」
ダメだ、いくつかそれっぽい嘘を用意したがすべてこの女にはバレそうな気がする。
……ええい、ままよっ!
「だ、だって外は危険だらけって言うじゃん……?」
「は?」
外の世界はなにが起こるかわからない。
「突然空から隕石が落ちてきたり、一万キロ先で行われている戦争の流れ弾が僕の脳天目がけて飛んで来たり、空気中を漂う謎のウィルスが僕の体を蝕むこともあるかもしれない」
いいか、何度も言うが僕は成人したい。
それまでは五体満足で安全に過ごしたいのだ。
「隕石落ちてきたら外だろうが中だろうが死ぬじゃない」
「いや、この城にいるかぎりは大丈夫だ」
「は?」
「僕が入念に魔術障壁をかけたからな」
隕石程度なら止めて見せるだろう。
「マジ? マジに止められるの?」
「僕は何度目かの転生のときに空から落ちてきた別惑星を止めたことがある」
もちろん身一つではなかったが、今回は魔王城を媒介にして同じ障壁を張ったので問題ない。
「なにそれえぐいわね……。じゃあ次だけど、一万キロも先の戦争の流れ弾が届くわけないじゃない」
「いいや届くね。これも何度目かの転生のときにあったことだけど、八千キロ先の戦争で使われた魔導兵器の流れ弾が僕の脳天に突き刺さった」
「どこの超魔導国家よ……」
「その国は惑星を破壊できる魔導兵器を所持していたからね」
「世も末ね……」
そうだとも。
あんな世界では金の力など役に立たない。
「まあでも、この世界にはそんな超兵器ないから問題ないわ」
「バカめっ!! いずれ発展するかもしれないッ!」
「少なくともあんたが成人するよりは後よ」
お前は人類の発展速度をなめている。
「じゃあ最後。空気中を漂うウィルスって、そんなのどこにいても同じじゃない? 運じゃないの」
「この城の中は僕特製の『空気清浄魔術』で安心安全設計になっている! 僕の最初の人生がウィルスによる死で終わったから特に力を入れたんだ!」
「ああ、だからこんなに空気がおいしいのね……大自然の中かと思ったわ」
そうだろうそうだろう。
これを年中発動し続けるのに僕の魔力の大部分を使っている。
「でも突然変異とかしたらやっぱり意味なくない? あんたの空気清浄魔術をすり抜けるウィルスもいつかは生まれるかもしれないじゃない。ほら、今このときでさえ」
「はうっ!」
この女、僕の心臓を恐怖で止めるつもりだ。
なんて悪い勇者なのだろうか。
大悪党めっ!!
「ってわけで、あんたはただ外の世界が怖いだけの引きこもりに決定。平たくいうとビビりね」
「ぐぬぬぬぬ……」
それでも僕は成人まで生きたい。
成人して、お酒を飲んで、よっぱらったときにはじめて、このふつふつとした思いを発散させることができる。
神は僕に厳しい。
だけど僕は負けないっ!
「あんた、成人まで生きたいって願い以外にもっとこう――派手な願いとかないの?」
勇者(大悪党)がジトっとした目で僕を見る。
「そ、そうだな……うーん……」
僕は、僕なんかがこんな魔王の地位に就いていることに引け目を感じている。
ぶっちゃけ分不相応だと思っている。
「僕より強くて優秀なやつに魔王の座を譲りたい」
「おー、いいじゃない」
本当にこいつは勇者なのだろうか(四度目)
魔王位をそんな簡単に継承させていいのか。
倒せよ……。
「じゃあ、そういうの探しに行けば?」
「うーん……」
あ、閃いた。
「ねえ勇者(大悪党)」
「なによ」
「お前が僕より強ければぜひ玉座を譲りたいんだけど」
こいつが金の亡者である以前に、勇者としてもちゃんと強いのであれば、大悪党だしちょうど良いのではないだろうか。
「……そうね、魔王の称号があれば魔族側の金も回しやすいかしら。そのへんがはっきりすれば譲られてもいいけど」
ホントこいつはブレないな。
いっそのこと尊敬する。
「でも、まだわたしがあんたより強いかどうかわからないじゃない?」
「まあそうだな」
「じゃあ、試しにあんたがどのくらい強いか見てみたいわ。それでわたしの方が強そうだったら、考える。あんただって自分より弱いやつには王位を譲りたくないでしょ?」
そりゃあそうだ。
僕より弱くてヘボだったらさすがに死んだ両親に顔向けできない。
「ってわけで、一回あんたの全力見せてよ」
「えー……」
全力を出すためには常時発動させている空気清浄魔術を解かなければならない。
その間に未知のウィルスが僕の体を蝕み、僕の成人まで生きるという夢を奪うかもしれない。
「じゃないとあたしが金で各国の研究機関動かしてヤバいウィルス作らせるわよ」
「この悪魔めッ!!」
この勇――大悪党はもはや悪魔だ。
なんておそろしい発想をするのだろうか。
「くそぅ……」
「はい、それじゃとりあえず魔力総量を見るために、思いっきり魔力を発散させてみて」
もういい。
こうなったらやってやる。
僕は城中に張り巡らせた空気清浄魔術を百四十年ぶりに解除した。
持続的に消費していた魔力が止まり、すぐさま魔王体質によって消費魔力が補てんされる。
「あっ」
そうして思いきり体内の魔力を発散させようとしたところで、勇――大悪党があんぐりと口を開けてなにかを言おうとした。
「いくぞぉぉぉ!」
「ちょ、まっ――」
「どりゃああああああああああ!!」
しかしすでに臨戦態勢に入っていた僕は魔力を放出した。
その日、世界全域が謎の地震に見舞われたという。(後日談)
◆◆◆
魔力放出の余波で魔王城の周囲の森がざわめいている。
勇者の長い金髪が魔力風で巻き上がってオールバックになった。
それでも男前だ。
いや女前か。
遠くの方で家々の窓がパリンと割れる音がしたが、僕の魔王城は傷一つついていない。
ふふっ、丹念に障壁を張ったかいがあるってもんだ。
「どう? これくらいならいけそう?」
勇者は目を見開いて静止しているが、これはどういうわけだろうか。
たぶん『本気を出してこの程度か』とか思っているのだろう。
そうだな、たしかに僕は百四十年近くこの城に引きこもっていた鍛練不足の魔王だ。
いかに転生によっていろいろな力を引き継いできているとはいっても、神に選ばれし勇者にはかなうまい。
「おい、勇者」
「……」
「おーい」
なかなか動かない。
しかたなく僕は玉座から立ち上がって勇者の傍まで歩いた。
お前、外界から変な菌持ってきてないだろうな。
「うーん……」
よく見ると驚きの表情のまま固まっている。
……いやしかし、見れば見るほど綺麗だな。
中身がまともなら嫁の貰い手には事欠かなかっただろうに。
あとおっぱいがでかい。
「び」
「び?」
「びっくりしたじゃないの!!」
「あうっ」
勇者が動いたと思ったらおもいきり頬を殴られた。
全然痛くないけど理不尽は感じる。
「死ぬかと思った!! 死ぬかと思った……!!」
いやいや、ただの魔力放出で死ぬわけないじゃん。
術式も使ってないのにどこに死ぬ要素があるんだ。
「わたしじゃなかったら死んでるからねっ!?」
「いくら人間でもそんな脆弱じゃないだろう」
「あんたの基準は狂ってる……!」
昔いた側近たちも「全力の魔力放出はやめてください……」とか言っていたけど、あれは僕の身を案じてのことだと思う。
全力を出すためには空気清浄魔術を解かなければならない。
側近たちは僕が未知のウィルスに侵されないように心配してくれていたのだ。
みんな優しかった……。
「はあ……でもわかったわ」
「ん? なにが?」
「あんたの夢は叶わないわ」
「え?」
「あんたより強い生物なんて、この世にはいないから」
う――
「嘘だッ!!」
この世界はずいぶん広いらしい。
取り寄せた書籍からいろいろな情報を取り入れた。
「こんな広い世界なら、僕より強いやつなんていくらでもいる!!」
でも彼らには彼らの仕事がある。
この勇者(大悪党)と違って金のことばかりを考えているのではなく、自分にしかできない仕事で社会の一端を担っているのだろう。
だから、こんな辺境の魔王城へは来ない。
来てほしいけど……。
「そう思うなら外に出て確かめてみればいいわ」
「外は……」
やだなぁ……。
「あ、間違えた」
「うん?」
「一人だけいたわ。あんたより強いやつ」
「えっ!?」
勇者はなにかろくでもないことを閃いたかのように目を見開いて、それから思案気にうなりはじめる。
「でもそいつ、ここからずいぶん遠いところにいるのよね……」
「ど、どこっ!?」
「もしかしてそいつならあんたの跡を継いでくれるかも……」
「お、教えてくれ! その人の居場所を!」
「金貨百万枚」
「か、金の亡者めぇ……!!」
百万枚はさすがに僕の扱える量を超えている。
たまに連絡を取り合っている魔族たちに協力を仰いでも不可能だろう。
「百万枚」
「ぐぬぬぬ……」
僕がうめいていると勇者はわざとらしくため息をついた。
「じゃあ、しかたないからそいつのところに行くまでに金貨百万枚分の仕事をしてくれればいいわ」
「し、仕事……?」
「そう、仕事」
できれば外には出たくない。
けれども魔王城の中にいたまま金貨を百万枚も集めるのは不可能だ……。
「ちなみに内容は?」
「主にわたしのボディガード」
「そ、それくらいなら……」
空気清浄魔術を常時周囲に展開しながらでもなんとかできるかもしれない。
この魔術の難点は移動式にすると魔力の消費がバカでかくなることだ。
空間固定しないと演算量が跳ねあがるんだよなぁ……。
「じゃあ、契約成立ね」
僕がうなずく前に勇者はすさまじい速度で取り出した羊皮紙を僕の手の指に押し付けていた。
早業すぎる。
いつ指にインクをつけられたのかもわからない。
これが金の亡者スキルか……。
「よし、と」
「ねえ、その紙って魔術紙だよね? 光ってるんだけど特殊な呪印でも刻んであるの?」
「ただの紙よ、ただの紙」
絶対なんか仕込んでる。
だってこいつ金に魂を売った悪魔だもん。
「はい、じゃあ早速外に出ましょう」
「ま、待って!」
悪魔がさらさらとした金髪を翻して踵を返すが、僕はそれを止めた。
「外に出るなら準備をしないと……」
「準備? 防具とか?」
「そう、防具」
「あんたには絶対必要ない気がするわ……」
そんな目で見ても騙されない。
外気に当たるのなら防具は必要だ。
「三十分くれ」
「……わかった。ここで待ってるわ」
◆◆◆
やがて僕は外に出る準備を整えて魔王城の入口へとやってきた。
隣には金髪碧眼の大悪党。
圧倒的な美貌と魅惑のスタイルの持ち主だが、天は二物を与えつつ一物を奪っていった。
この女は勇者の皮をかぶった悪魔だ。
「ねえ」
「――」
僕が「なんだ」と答えると勇者はげんなりした表情を浮かべた。
「それ、呼吸できてるわけ? 何枚着こんでるのよ……」
三十二枚だ。
頭にも全方位をカバーできるマスクフードを五枚かぶっている。
呼吸口は確保してあるから大丈夫だ。心配するな。
「なに言ってるのかめっちゃ聞き取りづらいし、見た目が完全にバケモノなんだけど……」
布の怪物ね、と悪党が言っているが気にすることはない。
こいつが薄着すぎるのだ。
なんだその――おっぱいの谷間が見える卑猥な衣装は!
……けしからん!
「――」
よし、行こう。
「隣歩きたくないわね……」
それは困る。
お前は僕にとって貴重な情報提供者だ。
僕より強いやつの居場所を吐いてもらうまでは死なれても困る。
まあ、途中でそいつ以外に強いやつを見つけたら用無しなんだけど。
「――」
「ちょっと、その格好で含み笑いはやめてよ。不気味すぎる」
くくく、悪党め、今に見ていろ。
お前は僕を目的地へ連れて行くまでいいように利用するつもりなのかもしれないが、それは僕も同じだ。
せいぜい金に目をくらませているといい。
……あれ、そういえば僕の仕事量に対する金貨の換算率ってどうなってるんだろう。
「はあ……。まあいいわ。それじゃ、行くわよ」
「――」
そう言って悪党(勇者)は魔王城の入口を押し開けた。
開けた視界。
差しこむ月明かり。
僕の旅は無数の星がまたたく綺麗な夜からはじまった。