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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
間章 フリードの実家
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第93話 美食の国

 6月になり、だんだんと暖かくなってきた。王都は自然が少ないが、肌で季節の変化を感じ取ることができる。


「御主人様、だいぶ過ごしやすくなってきましたね」

「そうだな。オレは夏や冬よりも今ぐらいの時期が好きだ」

 エミリアと雑談しながら、ギルド管理局へ向かう。そろそろ大きい仕事をしたいものだ。


「募金お願いしまーす!」

「ん……?」

 道の途中で、募金を集めている者たちがいる。コロナ教のシスターや神父の格好をした子供たちが、木箱を床に置いて通りを歩く人々に声をかけている。


 コロナ教とは、竜と戦った英雄の1人コロナがウイスクで興した宗教で、今では大陸中に根付いている。食事のマナーから王族の礼儀まで、大陸の文化はコロナ教がベースとなっているのだ。


 オレは財布からなけなしの銀貨を取り出すと募金箱に投入し、再びギル管へ歩き始めた。


*


「おお、この依頼は……!」

 オレは、依頼の張り出されている掲示板を見て、思わず感嘆の声を上げてしまう。


「御主人様、何かよさげな依頼がありましたか?」

「ああ、これを見てみろ!」

 オレは依頼書を引きはがし、エミリアに見せる。依頼主は商人で、ハレミアからビストリアへの護衛の依頼だ。


「……? そんなに興奮するほど良い依頼ですか? 報酬も普通ですけど……」

「よく見ろ、行き先がビストリアになっているだろう? オレが焦がれてやまない美食の国だぞ」

 オレが普段飲んでいるコーヒーも、珍しいフルーツも、全てビストリア産だ。金を出せばいつでも肉が食べられるのもハレミアとビストリアが同盟を組んでいるからだ。


「これを受けるとなると、またしばらくホームを離れることになりそうですね」

「いいじゃないか。この依頼は往路だけの護衛のようだし、向こうに着いたら観光でもしよう。美味いものもたくさん食べれそうだ」

「また貯金が減っていきそうです……」

 細かいことは気にしてはいけない。オレはエミリアの心配を振り切り、この依頼を受諾することにした。


*


 ビストリアへ旅行……もとい、護衛の為に行くとなればまずは情報収集だ。

 オレは『ユグドラシル』へ久しぶりに侵入することにした。


「失礼するぞ、ルナちゃん」

「へえ、ここが噂に聞く大図書館か〜! 凄い本の量だね!」

 名目は留学生であるフラウも今日は連れてきている。『ユグドラシル』の国内随一の蔵書量なら、きっと学べるものがあるだろう。

 ルナちゃんはまた来やがったなという顔をしている。これはそろそろ怒りゲージを鎮めるためのスイーツが必要みたいだな。


「ルナちゃん、紹介しよう。フーリオールからの留学生、フラウだ」

「初めまして! 貴女がルナさん? 話は聞いてるよ、とても本に詳しい才女だってフリードさんが」

 今日はスイーツはないが別の策を用意してある。フラウの口から間接的に褒めることで、オレが直接褒める時の胡散臭さを誤魔化す作戦だ。これで機嫌を治してくれるだろう。


「……よろしくです」

 ルナちゃんは無表情だが、効いているに違いない、多分。


「それで、今日は何の本を奪いに来たです?」

「人聞きが悪いな。ビストリアへ行く用事ができたから、いくつか情報が欲しいと思って来たんだ」

「ほう、ヴァレリーよ、ビストリアへ行くのか?」

 ルナちゃんではなく、別の男から返事が返ってきた。その男は、図書館の奥から姿を現す。


「ローズ、王都にいたのか」

「ああ、最近は仕事も落ち着いていてね。それより、ビストリアに行くんだって?」

「ちょっと商人の護衛でな。少し観光もするつもりだが」


「そうか、なら"女王様"に会いに行くといい」

「女王様? ビストリアの国王は男のはずだが?」

「……行けばわかるさ」

 ローズは意味深なことを言い、不敵に笑っている。

 ……いやらしい意味の女王様か? ローズのキャラに会わない発言だが。


「とりあえず、本を借りていくぞ」

「ああ、大事に扱えよ」

 ローズの承諾も得たところで、本を数冊借りることにしよう。適当に参考になりそうな本を見繕う。


「ヴァレリー、これも持っていけ。女王様への紹介状だ」

「……貰っておこう」

 女王様にも若干の興味があるのは事実だな。機会があれば会ってみるとするか。


「ルナちゃん、またな。お土産を楽しみにしておくといい」

 ルナちゃんに無視されてしまったが、得られるものは多かったのでホクホクで帰るとしよう。


*


「というワケで、ビストリアまでの護衛任務へ向かいたいと思う。出発は3日後だ」

「……どんなワケですの? 少し急すぎますわ」

「そう言うな。大陸一の美食国家で元気になろうという計らいだ」

 夕食後、オレは本のページをめくりながら他の者に話しかける。珍しくまともなところに向かうというのに、テンションの上がっている者はオレだけのようだ。


「へえ、ビストリアは食に重きを置いていて、魔法使いも料理や栽培、牧畜等で役に立てられるかどうかで評価されるらしい。『満腹を知らぬものは幸福を知らぬ』、これが国是として国民に支持されているようだ」


 通りでローズもビストリアを知っているような口調だったはずだ。植物を成長させる魔法だったら、間違いなく引っ張りだこだろう。


「面白そうな国ですね。平和な国なら少し安心です!」

「国是なんてあるんだね。ハレミアにも国是はあるの?」


「たしか、『人は皆、異なる光を放つ宝石を持つ』だったかな?」

「へえ、皆それぞれ魅力があるっていう意味? 格好いいね!」

 フラウは目を輝かせている。オレが適当に考えたなんて言いにくくなってしまったな。


「もう着いた後のことを考えているみたいだが、護衛の方は大丈夫なのか?」

「そこは心配することでもなくないか?」

 デットの問いかけに答えると、呆れたような表情をされる。


「いいのか、それで……」

「行くことは決定事項だからな、心配してもしょうがない。……ん? なんと、ビストリアは料理の保存技術にも優れていて、永久に保存可能な肉や魚もあるだと!?」

 本をめくっていると、気になるページを見つけてしまった。

 これは一大事だ。ハムや干し肉ぐらいなら知っているが、永遠に保存できる方法まであるとは。

 夏はどうしても食材が腐りやすくなってしまうからな。夏を乗り切るために、たくさん買い込まなくては。


「お兄様、私もいろいろ美味しいものが食べれそうで楽しみです!」

「……ああ、そうだな。お金を準備しておかないとな」

 出発まであと3日。それまでにこの王都から賞金首がいなくなるかもしれないな。


*


 3日後。オレたちは護衛対象の商人に会うために、待ち合わせ場所の商会の建物に来ていた。


「よし、エミリア、デット。お金の準備はいいか?」

「はい……! バッグが重すぎて、肩がおかしくなりそうです……!」

「くっ、何で私まで……!」

 2人は苦しそうに返事をする。旅の間の食事を全ておごる条件で、可能な限りお金を持ってもらっている。

 ……まあ、常に背負っておく必要はないと思うが。


「こんな大金、置いてたらすぐに取られちゃいますよ!」

 と、メイドが言うので仕方がない。


「やあ、あなた方が今回依頼を請け負ってくれる方々ですかな?」

 どうやら依頼人が来たようだ、恰幅のいい体格の、赤い帽子と髭が特徴的な男が現れた。


「初めまして、フリード・ヴァレリーだ」

「ワシはオーティス、短い間だがよろしく頼みますぞ。馬車はもう準備済みだ」

 軽く挨拶を交わすと、早速出発する為に馬車の待機場所へ向かう。

 わざわざ外国に行くだけあって、馬車は8輌とそれなりの数で行くようだ。


「……それにしても、女性ばかりだが大丈夫なのですかな?」

「魔法使いが見た目で判断できないことぐらいわかっているだろう? 安心してくれ、オレたちは第1ギルドのセシリアと肩を並べるほどの実力があると自負している」

「おお、それは頼もしいですな!」


「御主人様、そんなこと言って大丈夫ですか?」

「嘘はついていないさ」

 オレたちは最後尾に乗り込むこととなった。最後尾の馬車が人員用らしく、荷物は無く長椅子が並んでいる。


 さあ、出発だ。美食の国、ビストリア。実に楽しみだな。


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